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自分の好きなものを書く。So it goes.

起き抜け3枚。

朝、目覚めたら、着替えもせずにコーヒーをいれ、ひざ掛けを抱えて机に向かう。テーマはとくに決めず、原稿用紙3枚。ひんやりした朝の空気のなかで、ひたすら書く。

…ということが、できない。

頭に思い浮かんだ言葉や考えを、一切加工せず、編集もせず、たとえ負の言葉であっても、ひたすら書きつける。ある人はモーニングページと呼び、またある本ではノンストップライティングという。そんな方法は、すでに500日以上、毎日継続している。

もともと文章を書くのが好きだ。ならば、きちんとした随筆やエッセイを書くのにそろそろ移ってもよいのではないか。起き抜け3枚というのは、心地よい文体で書くエッセイストの石田千さんが毎朝実践している方法だ。

しかし、いざ原稿用紙を前にすると、書けない。何を書けばよいか、わからなくなる。マグカップは空になり、腕を組んだりほどいたり。書棚や窓の外を見まわしてみるも、書くことは一向に降ってこなければ湧いてもこない。

しびれを切らしてこれまでどおりノンストップライティングに取りかかる。すると不思議なくらいに、すーっと書ける。

いい文章を書こう、ほめてもらえるようなエッセイを書こう。そう考えるから、かえって身構えてしまうのだろう。

ここは開き直って、好きなものを書く。

数日前に買ったばかりの、万年筆のインク。青と緑がほどよく混じり、乾くとわずかに明るさを帯びる。家族がたまたま買ってきた、新しいお店のクロワッサン。発酵バターの香りもよく、パリッとした皮に口はいつもより大きく開けてしまう。10年ぶりに観た映画DVD。かつては気づかなかった主人公の孤独やヒロインのこまやかな気遣いが、いまは胸にしみてくる。

そんなことを思い出しながらペンを動かす。書ける。

好きなものについて楽しそうに語っている文章を読むのも、また気持ちいい。好みを押し付けられたら閉口する。けれど、完全防寒のはずが顔を風にさらすジェットヘルメットをかぶり、海沿いの道をバイクで駆け抜ける話は、読むこちらも一緒に風になって走っている。主人公と隣り合わせでバスの座席にすわり、降りるべき場所を一緒に乗り過ごして慌てた感覚を書き綴る小説の書評は、その作品に対する愛情を、こちらまで思い出すことが出来る。

枕草子の「ものづくし」も、清少納言が好きなものを並べて語っている楽しさがある。谷崎潤一郎は端正な日本語で、陰と影への偏愛ぶりをぬらぬらと語っている。好きなものは好きだ。それがどうした。そういうものだ。So it goes.

自分の好きなものを書く。それでいい。

明日の朝こそ、起き抜け3枚だ。

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