アップサイクル商品の事例~食品ロスや衣料品廃棄などの課題解決と価値ある商品づくり~
公益財団法人流通経済研究所
主任研究員 鈴木雄高
先週、寺田奈津美研究員が執筆した『調査レポート:消費者の買い物におけるサステナビリティの意識と小売企業の取り組み評価』を公開しました。おかげさまで、多くの方に読んでいただいています。サステナビリティが、企業にとっては取り組むべき重要課題であり、生活者にとっても、購買や消費を行う上で、考慮すべき要素になりつつあることがうかがえます。未読の方は、是非ご一読ください。
注目が高まるアップサイクル
サステナビリティ/サステナブルの話題といえば、「第2回サステナブル・リテイリング表彰」(ダイヤモンド・リテイルメディア主催)の受賞企業が発表されましたね。「プロダクト・イノベーション賞」に選ばれたのは、オイシックス・ラ・大地の「アップサイクル食品開発の取り組み~Upcycle by Oisix~」でした。
流通経済研究所が発信する情報をチェックして下さっている方であれば、オイシックス・ラ・大地の、このアップサイクル商品のことを覚えているかもしれません。半年前に流通経済研究所のYouTube公式チャンネルで取り上げました(動画開始22分あたりから紹介しています)。
【ほぼ週刊流研ニュース】 2023年7月14日(金)
アップサイクルとポップアップストア
アップサイクルとは
アップサイクルとは、IDEAS FOR GOOD の説明によると、「本来であれば捨てられるはずの廃棄物に、デザインやアイデアといった新たな付加価値を持たせることで、別の新しい製品にアップグレードして生まれ変わらせること」(引用)です。
以降では、YouTube動画でも紹介している商品を中心に、アップサイクル商品の事例を紹介します。
アップサイクル商品の事例
①セブン-イレブン「お店で作るスムージー」/廃棄されるブロッコリーの茎や規格外の果実を使用
少し前に公開した記事(下記参照)で取り上げた、日経MJ「2023年ヒット商品番付」で西前頭8枚目に格付けられたセブン-イレブンの「お店で作るスムージー」は、「身体のみならず環境にも優しいスムージー」を謳っているアップサイクル商品です。
廃棄量の削減に関連する語としては、かなり前から用語として普及している、リユース(単純に再利用すること)やリサイクル(一度、原料に戻した後に、資源として再利用すること)と比べると、まだ十分に認知されていないアップサイクルですが、上で見た通り、注目が高まっていると感じます。
もっとも、暑かった今年の夏、たくさんの人が飲んだセブン-イレブンのスムージーが、実はアップサイクル商品である、ということを認識している人は少なそうです。この人気商品を通じて、アップサイクル商品の認知が高まると良いですね。
②セブン-イレブン「ギフト用商品」/真鯛の未利用部位(カマ肉)を使用
2023年の夏、「セブン-イレブン ネットギフト」では、環境に優しいお得なお取り寄せ商品を販売しました。魚は食べられる部分が少なく、特に真鯛は全体の大半は捨てられしまうのですが、真鯛のカマはよく動かす部位であり、しっかりと引き締まった身質なので、旨味がしっかりと出るのだそうです。食べてみるととてもおいしいのですが、市場にはあまり出回らない真鯛のカマ肉を、お手頃な価格のギフト商品として提供したことで、生産者さんも「カマ肉を手間暇をかけることで消費者の皆様に食べていただくことができるのは生産者冥利に尽きます」(プレスリリースより)と喜んでいました※1。
③栗山米菓「ろっから堂」/「おから」や「さつまいもの皮」を使った米菓
今年(2023年)発売された栗山米菓の「ろっから堂」という六角形をした米菓商品は、従来、製造の過程で廃棄されてきた、「おから」や「さつまいもの皮」を使ったアップサイクル商品であることを強調したメッセージを発信しています。誕生ストーリーの動画を制作しており、YouTubeで公開しているので、興味のある方は視聴してみてください。
④ゆずりばいちかわ「パスケースやペンケースなど」/役目を終えたランドセルを使用
「ゆずりばいちかわ」は、千葉県市川市の行徳駅前に店舗を構える学生服・学用品のリユースショップです。かつて、当たり前のように存在した「お下がりの文化」を復活させる試みは、東京都内に通勤する人が多い市川市において重宝されているようです。リユースの他、ランドセルをアップサクルして、パスケース、ペンケース、眼鏡ケース、キーホルダー、そして、ミニ・ランドセルをつくる事業も行っています。思い出の詰まったランドセルが別の形になって生まれ変わるという素敵なストーリーが紡がれます。当ページ最上部の写真は、緑色のランドセルからつくったパスケースです。
⑤アサヒユウアス「アップサクルグラノーラ」/ビール粕を使用
アサヒユウアスは、アサヒビールなど、アサヒグループにおけるサステナビリティ事業を展開する会社で、2022年に設立されました。クラフトビールの製造工程で、たくさんのモルト粕(かす)が排出されます。醸造所によっては、これを肥料としてリサイクルしていますが、アサヒユウアスでは、もっと良い活用方法がないかという観点で検討を重ね、食物繊維が豊富で、高たんぱく、低糖質というモルト粕の特徴を生かしたグラノーラをつくることになりました。隅田川ブルーイングで製造するクラフトビール『蔵前BLACK(くらまえブラック)』のビール粕を原料に、オーツ麦やバナナチップス、ナッツなどにメープルシロップを混ぜて焼き上げた、サクサクとした食感のグラノーラを、ECサイトで「アップサクルグラノーラ」として販売しています。
⑥アサヒユウアス「Coffeeloopカップ」/オフィスやカフェから出るコーヒー粕を使用
アサヒユウアスは、オフィスやカフェから出るコーヒーの副産物をアップサイクルする「Coffeeloop(コーヒーループ)プロジェクト」にも取り組んでいます。ホテルグランヴィア京都の「コーヒー粕」を原料として「Coffeeloopカップ」を開発し、同社が運営するホテルヴィスキオ京都の宿泊者専用ゲストラウンジにて300個のエコカップを導入しました。この取り組みを通じて、ゴミの排出量の削減と、循環経済(サーキュラーエコノミー)の構築を目指しています。
⑦KAFFEE FORM(カフェフォルム)「ウィドゥーサーカップ、カップ&ソーサー」/ベルリンのカフェが廃棄したコーヒー粕を使用
アサヒユウアスの「Coffeeloopカップ」以外にも、コーヒー粕を使用したカップづくりを行っている事例があります。ドイツのデザイナー、ジュリアン・レヒナー氏は、カフェでコーヒーをテイクアウトする際に提供される紙コップの大量廃棄を問題視していました。そこで、リユースできるテイクアウト用のカップをつくることを決め、しかも、その原料に、コーヒー粕を使うことにしました。まさに、コーヒーを丸ごと楽しめるカップです。アップサクル商品としては、テイクイアウト用のカップの他、カップ&ソーサーもあります。
⑧BEAMS「ReBEAMS(リ・ビームス)」/デッドストック衣料を使用した バッグ
食品産業においては、食品ロスの削減が大きな課題となっています。同じように、アパレル産業では、衣料品廃棄が大きな問題です。
セレクトショップのBEAMSは、衣料品廃棄の問題を解決するプロジェクトとして、経年によって販売出来なくなったデッドストック品を、新しい商品にアップサイクルさせるプロジェクト「ReBEAMS」を立ち上げました。2年前に販売した第1弾に続き、今年、第2弾として、ワンショルダーとミニショルダーバッグをラインナップに追加しました。全て一点もので、個性的なバッグばかりだそうです。
⑨コーセー「SAVE the BLUE~Upcycle Project~」/汚れた服を藍染して商品化
衣料品廃棄の削減とアップサイクル商品づくりを組み合わせた取り組みは、他にもあります。コーセーは2023年7月1日に、「雪肌精」が取り組む環境保全活動の一環として、「SAVE the BLUE~Upcycle Project~」をスタートしました。このプロジェクトは、衣類の廃棄処分をなくす取り組みとして、藍染(あいぞめ)によってアップサイクルするものです。サステナブル・ライフスタイル・ブランド「O0u(オー・ゼロ・ユー)」から譲り受けた、汚れがついた商品や試着用のサンプル品などの、通常ルートでの販売ができない衣類を、藍染によりアップサイクルし、コーセーが販売します。コンセプトストア「Maison KOSÉ銀座(メゾン・コーセー銀座)」で、アップサイクル商品の展示と抽選販売を行っており、売上を「SAVE the BLUE」の活動資金に充てるそうです。
⑩コーセー「GREEN ATELIER(グリーンアトリエ)」/終売した製品のテスターや使い残しのメイクアイテムを使用
コンセプトストア「Maison KOSÉ銀座(メゾン・コーセー銀座)」には、メイクアップ化粧品をアップサクルした絵の具でアート体験ができる「GREEN ATELIER」があります。販売が終了した製品テスターや、使いきれなかったメイクアイテムを使用した絵の具で、化粧品ならではの繊細な色味や、ラメの輝きが特徴的です。「GREEN ATELIER」では、メイクスポンジやアイカラーチップを使ってメッセージカードを作成できます。
⑪島村楽器「インテリア製品」/廃棄楽器を使用
島村楽器では、個人のお客様から預かった廃棄楽器や、耐用年数を過ぎた部品、小・中・高等学校などから引き取った廃棄楽器を素材として、インテリア製品をつくる取り組みを進めています。
集めた楽器や部品を、島村楽器が提携する団体で、テーブル、スタンドライト、ウォールシェルフ、ミラーといったインテリア製品を制作し、これを島村楽器で販売します。その売上から販売諸経費を除いた利益の全額を寄付金や楽器購入資金に充て、国内および国外で楽器演奏の機会を持つことが難しい状況にある子どもたちに寄贈しているそうです。素晴らしい活動ですね。
まとめ~私たちは消費者であり廃棄者でもあります~
今回は、サスティナビリティの話題の中で耳目にする機会が増えているアップサイクルに注目し、流通経済研究所のYouTubeチャンネルで取り上げた商品を中心に、事例を紹介しました。
私たちは毎日、たくさんのモノを消費し、たくさんのモノを廃棄しています。生活者は、消費行動に着目する場合、消費者と呼ばれます。生産行動に着目すれば、生産者と呼ばれます。とということは、廃棄行動に着目すれば、私たちは廃棄者と呼びうる存在でもあります。
自身の廃棄者の側面に注目すると、アップサイクルのアイディアが浮かぶかもしれませんし、それが新たな事業の創出につながるかもしれません。事例⑦で取り上げた、ドイツのデザイナー、ジュリアン・レヒナー氏は、日々、大好きなコーヒーを飲みながら、増え続ける紙コップの問題を何とかしたいと考え、コーヒー粕をアップサイクルしてカップをつくることに思い至りました。他のアップサイクル商品にも、様々なストーリーが、そして、発案者のひらめきが、きっとあるのだと思います。
アップサイクル商品は、商品単体ではなく、開発ストーリーとセットで販売することで、消費者のハートをつかめるものだと思います。来年はどんなアップサイクル商品が誕生するでしょうか。要チェックや※2!
〈注釈〉
※1:出所は、株式会社セブン‐イレブン・ジャパン プレスリリース「想いを贈る夏にしよう。環境にやさしいセブン-イレブンの夏ギフト ~お得で便利な『セブン-イレブン ネットギフト』~」(2023年7月10日)
※2:井上雄彦氏による人気漫画『スラムダンク』に登場する、陵南高校バスケ部・相田彦一が多用する「要チェックや!」を引用しました。