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調査レポート:消費者の買い物におけるサステナビリティの意識と小売企業の取り組み評価

研究員 寺田 奈津美


こんにちは。「SDGs」や「カーボンニュートラル」、「フェアトレード」、「FSC認証」「MSC認証」、「レインフォレスト・アライアンス」‥。これらのサステナブル認証に関する用語をご存じですか?普段の買い物で利用するお店の「サステナビリティに対する姿勢」にどんな印象を持っていますか?
今回は、そんな調査結果をご紹介します。



1 はじめに

 気候変動や環境問題への対応が急務との認識が企業において高まり、持続可能な社会の実現に向けた取り組みが加速している。買い物の場における消費者行動の変化やそれを促す小売企業の取り組みに対する期待も高まっている。本稿は、消費者が買い物の際にサステナビリティ¹について意識している程度や、小売企業のサステナビリティに対する姿勢や取り組みに関するイメージについて、消費者調査を行い、その結果をもとに考察する。調査の概要は図表1の通りである。

図表 1 消費者調査の実施概要

2 調査結果

(1)消費者のサステナビリティに関する用語の認知度と買い物の際に意識している割合

 本調査結果からは、まず「SDGs」などの一般化した用語に対する認知度が高い一方、それらの概念を実際の買い物行動に結びつけている消費者は少ないことが示唆された。
 サステナビリティに関する14の用語の認知度と、それらの用語の中で普段の買い物をする際に意識しているものについて尋ねた結果(図表2)、「SDGs」(85.6%)や「カーボンニュートラル」(73.6%)などは認知度が高く、「フェアトレード」(53.4%)も過半数が認知していたことが確認できた。一方、「FSC認証(森林認証²」(21.5%)、「MSC認証(水産認証³」(19.2%)は約2割、「レインフォレスト・アライアンス⁴」は12.5%と、サステナブル認証はいずれも認知度は低かった。

図表 2 サステナビリティに関する言葉の認知度(n=6,404)

 また、買い物の際に意識しているかどうかについては(図表3)、「オーガニック(有機)」(16.8%)や「SDGs」(16.0%)は2割弱の人が意識しているが、サステナブル認証類は2%前後にとどまった。
 これらの調査結果から、博報堂による調査等⁵でも指摘されている通り、認知と実践にはギャップが存在していることが確認できる。また、サステナビリティに関する用語別にたずねた本調査の結果では、特にサステナブル認証に関してはいずれの認証もほとんどの消費者に買い物の際に意識されていない点は、小売業としては注意すべき点であると筆者は考える。サステナビリティに関する概念を日常の消費行動に結びつけるためには消費者教育や意識向上の取り組みが必要であることが示唆される。また、サステナブル認証については認知度が低いため、認証制度に関する情報提供や説明を強化する必要がある。 

図表3 普段の買い物をする際に意識しているサステナビリティに関する言葉(n=5,989)

注:本集計は、回答者数6,404人のうち、サステナビリティに関する言葉の認知度の設問ですべての言葉を知らなかった人を除いた回答集計である。

(2)小売企業の社会課題解決に対する姿勢・取り組みについてのイメージ

 小売企業の社会課題解決に対する姿勢についての消費者からの評価は、業態によって異なり、生協と総合スーパーの評価が高い一方、食品スーパーとコンビニエンスストアには向上の余地が大きいことが示唆された。
 なお、小売企業の社会課題解決に対する姿勢・取り組みについてのイメージに関する設問については、2023年5月から7月に利用したことがある小売企業上位5社までを選んで回答してもらった。回答は点数化し(取り組んでいる:3点、ある程度取り組んでいる:2点、あまり取り組んでいない:1点、取り組んでいない:0点)、業態別の点数については各業態に分類される企業(生協3社、総合スーパー4社、食品スーパー8社、コンビニエンスストア5社)の得点を集計した。また、図表中の「全体」は延べ回答数を表している。
 小売企業の具体名をあげて、社会課題解決に対する取り組みについてのイメージを尋ねて集計した結果が、図表4である。全体では3点満点で平均1.95点となった。これを業態別に集計すると、生協(2.21点)と総合スーパー(2.10点)が全体平均を上回った。

図表 4 小売企業の社会課題解決に対する姿勢についてのイメージ

 社会課題解決に対する取り組み(4種)の評価(図表5)を見ると、生協と総合スーパーは「プラスチック削減」と「安全・安心なまちづくり」に対する対応が高く評価されている。一方、食品スーパー(1.93点)とコンビニエンスストア(1.89点)は全体平均を下回り、社会課題解決に対する取り組み(4種)の評価はいずれも生協と総合スーパーを下回った。なお、ここでは各業態の回答者数に違いがある。コンビニエンスストアの回答者は10,000人を超えており、回答者の属性がより平均化していると思われる一方、生協は回答数が少なく、利用頻度の高いロイヤルユーザーに偏っている可能性があるので、数値を捉える際には留意する必要がある。別途、顧客属性別のイメージの差も調査する必要があると考える。

図表 5 小売企業の社会課題解決に対する取り組み(4種)を行っているイメージ

(3)小売企業の社会課題解決に対する姿勢・取り組みについてのイメージ-企業別評価

 企業別の評価順位(図表6)は、生協がトップ3を独占し、その後にイオンとイトーヨーカ堂が続く結果となった。生協の3社はいずれも高い評価を受けており、生協各社の取り組みが注目される。大手小売企業であるイオンとイトーヨーカ堂は、「社会貢献型商品」の提供や持続可能な「店舗・設備」の充実により、消費者からの高い評価を獲得した。食品スーパーの上位3社はライフ、ヤオコー、ベルクで、コンビニエンスストアの順位はセブン-イレブン、セイコーマート、ローソンの順となった。セイコーマートは、「安全・安心なまちづくり」において9位と他項目に比べて高い評価を得ている

図表 6 小売企業の社会課題解決に対する姿勢・取り組みについてのイメージ-企業別評価

(4)小売企業の社会課題解決に対する姿勢についてのイメージ-消費者属性別評価

 小売企業の社会課題解決に対する姿勢についての評価を消費者の年代別に分析した結果が、図表7である。生協と総合スーパーは、一般的に社会課題解決への意識が高いと考えられる20代以下の評価が30代~40代を上回った一方で、食品スーパーとコンビニエンスストアは20代以下の評価が30代~40代を下回った。

図表 7 各業態の社会課題解決に対する姿勢についてのイメージ―年代別

 図表8の企業別評価では、20代以下ではコープさっぽろとイズミ、30代~40代はコープこうべ、50代以上はコープみらいが1位と評価された。また、西友とサミットは50代以上、30代~40代、20代以下と若年層になるほど上位にランクインしており、若い年代からより高い評価を得た。 

図表 8 各企業の社会課題解決に対する姿勢についてのイメージ―年代別

3 小括

 本調査の結果、サステナビリティに関する用語や概念の認知度が高い一方で、実際の買い物行動に結びつけている消費者は少ないことが確認された。このギャップを埋めるために、消費者教育や意識向上の取り組みが求められる。特にサステナブル認証などの持続可能な選択肢に関する情報提供や説明を強化し、消費者が持続可能な製品やサービスを識別しやすくなることが期待される。
 また、消費者の企業に対する評価は業態によって異なり、生協と総合スーパーが高い評価を受けた。食品スーパーとコンビニエンスストアは、社会課題解決に対する取り組みについて、消費者からの理解を広げる余地があり、それぞれの業態の特徴に合致したサステナビリティへのアプローチを検討し、とくに一般的にサステナビリティに対する意識が高いとされる若年層の期待に応える取り組みが重要である。また生協各社は上位を独占しており、その取り組みが評価されていると考えられることから、生協各社が評価されている要因を分析することも有効であると考えられる。
 サステナビリティが小売企業や消費者の行動において今後ますます重要性を増す中、弊所は今回の調査結果から得た示唆も踏まえつつ、引き続き小売企業と消費者の連携を通じたより持続可能な未来の構築に資する調査を企画し、実施していく予定である。

<注>


1「サステナビリティ」とは、「持続可能性」を意味する言葉で、持続可能な発展を目指す考え方や取り組みを指す。
2 環境、社会、経済の便益に適い、きちんと管理された森林から生産された林産物や、その他のリスクの低い林産物を使用した製品の認証。
3 水産資源や環境に配慮し、適切に管理された持続可能な漁業に関する認証。
4 森林や生態系の保護、農園の労働環境など、持続可能な農業のための包括的な基準を満たした農園に与えられる認証。
5 博報堂「生活者のサステナブル購買行動調査2022」レポート。



【お知らせ】

公益財団法人流通経済研究所では、2024年2月に流通大会を開催します。
2月7日(水)のテーマは「サステナビリティ成長戦略」です。小売業や食品メーカーのご担当者様による講演のほか、弊所上席研究員の石川友博からは、主に食品小売業の取り組み実態に関する調査結果を報告します。

研究所では、食品ロス削減や商慣習の見直し、環境配慮に関する諸課題に取り組んでいます。

流通・マーケティング分野専門の研究機関として、民間企業等からの委託により個別調査や研究をベースとしたコンサルティングも実施しています。