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#12 雨下の迷い者たち

「あ、やっぱりここにいた!」
僕がピアノ猛特訓をはじめて、二週間くらいたった月曜日のある日。放課後いつものように練習していると、スイがやってきた。
「どうしたの?」
「実は、すんごーく言いにくいんやけど、今週の金曜日、中間発表会になってまったんやおね」
うんと、ちゅうかんはっぴょうかい? 
「合唱の先生に来てもらってアドバイスもらうってやつなんやけど、その先生が来てくださるのが金曜日やって分かって……」
「うん」
「だから、金曜日までに伴奏しあがる?」
「え、」
まだ左手と合わせるとぐたぐたになるんだけど?
「無理やったらCDでやるで全然いいんやけど、せっかく中間発表会やし、みんなもユウくんの伴奏に合わせたいかなと思って」
「う、うん」
どうしようどうしよう。あの時軽やかにワルツなんか弾いてしまったから、スイは僕がもうすっかり弾けるようになっていると思っている。もう僕のばかばか! 雨が降りますように、てるてる坊主でも逆さにつるそうかな、と思ってやめる。スイはハレノトだった。
 『注文リスト』のことが気になる。もし本当なら、雨を降らせる機械を作ってくれるかもしれないのだ。やってみる価値はきっとある。それで無理だったら、もうスイに謝ればいいし。
「スイ、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「『注文リスト』ってわかる?」
「うん、知っとるよ」
たしか、と記憶をたどるようにスイは上を向く。
「二階の端の教室の、窓側の一番後ろの席のなかに、そういう紙が入っとるらしいんよ。そんで、その紙にほしいものを書けば、次の日その机の中に、注文したものが入っとるんだって。ここだけの話、あの椅子はべちょべちょに濡れとったりがたがた音なったり、不思議なことが起こる椅子らしいよ」
「そうなんだ、分かった、ありがとう」
僕はスイにさよならを告げて、ピアノの片づけをした。そして、その二階の一番端の教室へと急ぐ。
やってみる価値はある。『注文リスト』に雨を降らせる機械を注文してみよう。

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