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#11 雨下の迷い者たち

 
「なかなかやるじゃん!」
「すごいユウくん!」
ピアノを囲んだ輪の中から、そんな声が聞こえる。ありがとう、と小さくつぶやきながら、僕の心はここになかった。これがつまり、アメヨミっていうんだ。テンの話が本当なら、僕は今、世界のどこかにいるピアニストの力を使ったってことになる。雨に運ばれてきたその力を、アメヨミは使うことができるのだ。確かにその力に救われたけど、みんなの誉め言葉は、すなおに喜べなかった。僕の力じゃなく、雨の力なのだから。
「じゃあ今度は私んらの番! ケイ! CD頼める?」
スイのかけ声で、みんなは合唱体系に移動する。心なしか、アコの僕を見る目が変わった気がする。それは少しうれしかった。ケイと呼ばれた子は、
「うい!」
とラジカセの準備をしていた。隠そうともしないピアスの穴と、毛先が光に当たると赤茶色になる髪の毛。口悪いことで有名な、この子も僕たちのクラスメイトだ。アーティストになるのが彼の夢なのは知っていたが、この子、合唱部だったんだ。
「この曲、『虹を描く』っていう曲ね。ほら今度、ユウくんに頼むやつ」
たった一人の観客に、そう耳打ちするスイ。スイが指揮者をするみたいだ。みんなの目線の先に堂々と立ち、手を振り上げる。たくましいというか、すごく美しい立ち方だった。
 『虹を描く』っていう曲は、一言で言えば、すごくきれい、な曲だった。アルトから始まるコーラスは、だんだんとパート数を増していき、全員がそろったところでサビになる。その迫力は、体の芯に直接響かせているみたいだ。Cメロは主に掛け合い。だんだんと迫力を増していくその合唱は、海の波のようだ。そんなコーラスを支えるのは、ずっと流れるような伴奏。うええ、レベル高そう。
 すごくきれいだ、きれいだけど……。いや、僕みたいな素人がいうことでもないんだろうけど、何か違う気がする。何が、なのかはわからないけど、何か違う気がする。何かが足りないといった方がいいのか。でも僕にはまだ、その足りないものがなんなのか、それを言葉にすることはできなかった。

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