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#23 雨下の迷い者たち

 テンは、音楽室のドアを思いっきり開けてそう叫んだ。慌てているし、顔は真っ青だった。
 僕は急いで廊下に飛び出す。そこでも、すでに雨がしとしとと降っていた。僕の肩に、手に、頬に、学校の中であるのに雨粒が落ちる。雨のにおいもする。ありえない。一体何がどうなっているんだ⁉
「ウールなら、この雨雲がどこから来ているのかわかるの!」
雨雲? そう思って上を見上げてみると、廊下の天井にうっすらと白く、雲のようなものがかかっているのが分かった。雲、というよりはドライアイスのような薄さだったが、もしかしたら、近くで見たら雲はこんな感じなのかもしれない。
「よしウール! 案内して!」
その言葉を合図に、ウールは猛スピードでかけていく。おいていかれないよう、僕も全速力で追いかける。走りながら、ああ、だから雨の力が使えたのか、と納得した。
「昨日みたいに、イズくんを見張ろうと思って、体育館に向かっていたの。そしたら、いきなり雨が降ってきて!」
テンがそう叫んでいる。緊急事態らしく、この前テンの周りにたくさんいたかえるやらカタツムリやらがどこからともなく集まってきて、一緒に走り出した。
「どうされましてい! おテンさま! あとアニキ!」
走りながらかえるが叫ぶ。かえるって意外に足速いんだ。ていうか僕アニキ⁉
「わかんない! 何が起こっているの! こんなこと前代未聞だよ!」
テンも叫んでそれに応じる。
「なあ、これって迷い者のしわざ?」
僕は足の遅いかたつむりを、足元から拾い上げながらそう聞いてみる。
「うーん、モノノゾにこんな力あったかなあ。でも、考えられるとしたら……」
体育館につながる外の廊下を走り、その入り口についた。大きく重たいドアの前でウールが止まる。ここか。てことは、体育館の中で、何かが起こっている、ということなのか。テンの言葉を思い出した。体育館によく行っていた、イズの話。いやな予感がする。
 テンと僕は顔を見合わせ、うなずきあうと、おそるおそるドアを開ける。空気を読まないそのドアは、ぎぎーと乾いた音を鳴らした。

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