少女庭国 ー百合厨夢の庭 -○○しないと出られない部屋

※注意書き後、物語の核心に触れるネタバレあり
 しかし、物語が損なわれるものではない(と思われる)

とはいえ
読んだ際何も知らずに挑んだほうが面白いタイプなので
先に本を読むことを強く勧めるぞ

扉を開けたら少女、少女、少女

著者:矢部 嵩

ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ。と書かれた紙が貼られた扉と、開かない扉と、さっきまで卒業式にいたはずの少女だけがいる、他には何もない、四角い石の部屋。
が、永遠に続く
というだけの話。

つい先ほどまで、卒業式に向かう暗い通路を歩いていた女生徒。が、気づいたら何もわからず部屋に横たわっている。ひらく扉をあければ同じ制服を着た女生徒が眠っていて、ゆっくりと目を覚ます。
そしてそいつも、つい先ほどまで同じ学校の卒業式に向かう暗い通路を歩いていたらしい。その証拠に、二人の胸には花が挿されている。それがこの学校の慣習だから。しかし、この二人はお互い顔さえ知らない。

まあ、つまりは、初めて顔を合わせた女が二人きりで部屋にいるわけだ。

死がないと出られない部屋
の中に。

人間などみなか弱く儚いものなのに、どうしてかとりわけ少女が儚く脆くうつくしいものに見えるようだ。

少女というものはひとを狂わせるらしい。少女はであり、それが咲き誇ればであり、少女だけでつくられた帝国があれば、それはおそらく庭国なのだ。

ただし、国を建てるというのは(ぼくたちは今まで時折見てきたことだけど)人間にとってはシビアに感じるのかもな。しかしお前たちにとって少女が汚いものに塗れるのは、おそらく嬉しいものなのではないか?
建国については物資の制限、状況の制限などがあり、かなり興味深く読むことができた。

ところで、この小説の帯には
SF百合小説と書かれているのだが……

※以下物語の核心に触れるネタバレ注意※






百合とはなにか。
ぼくがお前たちから奪った知識によると、主に創作における女同士の恋愛のことだ。
その中でも、少女性の強いイメージをぼくは百合にたいして持っている。

サイコロを永遠にふりつづける。こういうゲームは悪魔もままやるので(前に言ったかもしれないが、人間コマ遊びは割と近い)久々にやりたいなと思った。
永遠に繰り返されるトライアンドトライ。結局この施設はなんなのか、そもそも女生徒たちで共有されるが干渉しない「立女」とは本当に存在するのか、扉を開ける(壁から離す)まで人間の時が止まる超常的な力はなんなのか、おそらく製作者であろう立川野田子校長という存在はなにか、その目的は何か、なんでこんなことになっているのか。

そういう「謎」はどうでもいい。のだろう。おそらく。ここを作ったものにとっては。
だってこの世界作ったの絶対百合厨だもん。悪魔か魔女か人間か知らねーけど。そういうのは関係ないのだ。謎とかはどーでもいい。舞台装置。必要な条件を作るための副産物。なぜか?

だってこの世界作ったの絶対百合厨だもん。

しかもたぶん暗い雰囲気の作品が好きで、死ネタも好きだし、メリーバッドエンドも好きな百合厨
生きるためには死が必ずついてくる限定された部屋で無限の女生徒サイコロふってるなんてそれしかありえねーだろ! どんな目がでるかいつもわくわくしながらふっていたんだろうね。なので三九では頭を抱えていたに違いない。哀れだね。
作中でさんざん言及されている「殺し合いをさせたいのならあまりに杜撰な設計」も当たり前だ。欲望が一番で作った設計図だからな。

少女は花であり、胸に花をたずさえた少女たちが、何度も種の生誕と滅亡を繰り返し、そのからだや糞尿(この糞尿でさえ少女が少女を摂取し出来た純少女糞尿)から生まれ出た土をはこび、花を紡いでいくのは、見ていて素晴らしかった。人間ももう少し長いスパンで似たようなことをするが、これだけ短くトントン拍子でいくのは見ていて気持ちがいい。まさにSF百合小説だろう。

でもそれより重要なのは本当の百合である。
つまりどういうことかというと、世界製作者が求めている一番良い百合
あれだけ建国やら死やらをまとめつくした世界製作者が一番最後に持ってきたのが、おそらくそう。※もしかしたら1章が一番完成された百合なのかもしれない。諸説ある。ぼくは1章はいちばん少女然としていると感じた。軽やかな破滅とか。

だって待っていただろおまえたちだって。百合を。
百合の香りがした世界はたしかにあった。無数の死とか、三二、三三、三四、三六、五一。他もろもろ。そしてページも少なくなってきた五七。鬱屈とした少女の憂鬱、思春期の違和感を久々に読み取る。ぼくは勿論期待した。おっ、そろそろ本も終わるし、かなりいい感じの百合が見れそうだな。しかしまあその結果は、百合といえば百合なのかもしれないが(お互いが複雑に噛み合った関係性になったというか、生きるためには死があるもともとの部屋の基準に戻ってきたというか)思ったのとは違った。
からの、六三。ああこれ! これだよ。ぼくが百合ときいて思い浮かべたものってこういう感じ。たぶん世界製作者もそう思った。いろいろ見たり聞いたりしてきたけど、やっぱシンプルなのが一番いいよな。うんうん。もともとおれが百合すきなのって、こういうのなんだよ。とか思ったに違いない。よかったな、世界製作者。これで終わるわけじゃなし、おそらく永遠に観測し続けているんだろう。花はいくらでも生えてくる。

というわけで、これは最悪百合厨夢の庭、の記録だったんだね。
いやあ、なるほどなるほど。花は枯れるから美しい。少女は死ぬから美しい。そうだよな? 人間。

ぼくって、単純なことを高尚なものにし、高尚なものを低俗、いや単純にするのが趣味ぽいんだよな。まじウケるー。

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