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再燃ホロライブ 打開の道筋はあるのか

止まらなかったその結末

 6月の騒動から約2ヵ月、文書で通知し改善を約束した筈のホロライブは現在、とても残念な事態に見舞われている。

 今回の騒動は、ホロライブプロダクション所属のバーチャルライバー『大神ミオ』の配信アーカイブ動画2件が、プレイしたゲームタイトルの版権を有するCAPCOM(カプコン)から権利者削除されたことに端を発する。
 彼女はCAPCOMのタイトルである『ゴーストトリック』の耐久プレイ配信を行い、その様子をアーカイブ動画として残していた。2枠分に渡り行われたこの配信の動画が、著作権利用に違反する動画としてゲーム会社から申し立てされ、YouTubeの判断の下削除されたのである。
 この時点ではあくまでライバー個別のトラブルに過ぎず、該当の事案に対してホロライブプロダクションのスタッフや、親元であるカバー株式会社の手続き交渉が開始されると見るのが妥当であった。しかし、現実に起こったことはあまりに常軌を逸したものであった。

 なんと一夜にして、大神ミオを含むホロライブ所属ライバー全員のアーカイブ動画の多くが順次非公開化された。何の予告もなく、彼女達のチャンネルから総数1万を超える動画コンテンツが姿を消したのである。
 中には動画の非公開ではなく削除を行ったチャンネルもあり、今後動画データが復活することは絶望的となっている。当該チャンネルのライバーは翌日の配信において「自身の要請でスタッフに削除を指示した」と説明しているが、事態そのものを把握すらしていなかったライバーがいたことを考えると、事実に即した供述かどうかは疑問の残るところである。
 この唐突な事態を、前回の騒動から引いた目線で受け止める層がいた一方、混乱を隠せず戸惑いを露わにするファンも多くいた。一体何が起きたのか。消えた動画は復活するのか、それとももう見られなくなるのか。混乱と噂が前回を超えるペースで広がる中、カバー株式会社から提示されたのは衝撃的な告白であった。

 「権利者の許諾を得られていないコンテンツがあったので全ライバーの動画を一旦非公開にする」という、前回の謝罪と改善に取り組む意思を全く踏まえていないお詫びの文章。2ヶ月経った今になって、同じ騒動と共にこれを公表するということの深刻さをこの会社は理解しているのだろうか。
 あの時真っ先にやっていなければならなかった『全コンテンツの臨検』という行動を、2ヶ月も後になってから、それも問題が発生してから、無告知で強行したのである。これには熱心に支持を表明してきたファンでさえ呆れるほかない。改善の意思を示してみせたところで、まともに取り合ってくれる者はどこにもいないだろう。

 時を同じくして、ホロライブ所属のライバーからも今回の騒動について触れたツィートが発信された。紋切り型に揃えられた謝罪と応援を求める文が連なる中、VTuberの黎明期から活動しホロライブの旗頭としてジャンルを牽引してきた『ときのそら』はこのような発言を行った。

 一連のツィートからは、内部通告もなしに行われた非公開化への戸惑いと悲しみが感じられる。あるいは、与り知らない場所で怠慢に染まっていた運営への憤りも感じているのかもしれない。コラボ企画について延期を発表したものの、現時点ではスケジュールに見通しの立たない状況である。

 一連の騒動はニュースメディアにも取り上げられ、ネットを中心に周知され続けている。当然ではあるが、ゲーム開発に携わる人々からは批判の声も上がっており、VTuber界隈のみならずゲームコンテンツの配信利用における事態の深刻さを伺わせる。
 今後、カバー株式会社およびホロライブプロダクションがどのように行動し、ファンや関係企業の不信感を払拭していくつもりなのかはわからない。しかしながら、その道がいずれも茨の敷き詰められた悪路となるのは確実と言えるだろう。

当事者としての感覚に乏しかったライバー

 6月初旬の時点で騒がれていたように、ホロライブには立ち止まり自らを省みるタイミングが存在していた。今回の騒動を回避する手立てが確実にあったにもかかわらず、猶予だった2ヶ月を浪費し事態を悪化させたという事実はあまりに重い。
 また、一連の騒動に際してはライバー自身の当事者感覚が欠如気味であったように思う。任天堂のガイドライン改定と、同じ界隈の他社の動向は彼女達にも届いていた筈である。業界の動きとして、個別タイトルの許諾確認から包括的な業務提携に移行しつつあることも伺い知れただろう。それでもなお事務所のマネージメント体制に身を任せ、これまで通りの配信体制を採り続けたことは、批判の的とされても致し方ない。

 ライバーの立場からしてみれば、プロフェッショナルとしての芸能事務所を信用し、独自に構築できない要素を委託し実現する形式は何ら違和感のないものである。法人格がないことで限界に行き当たることを考えれば、事務所に所属し法人の強みを共有することは、まさに素晴らしく頭の冴えた戦術だろう。
 ただ、そこに『万が一』への想像と備えがなかったのは、個人事業主の立場としてあまりに浅慮であった。いかに親密な関係であろうと、事務所にとってライバーは社員ではなく外部契約の業者である。業務上の不具合が生じれば、ライバーと運営会社の責任関係に従い、しかるべき処断を講じることになる。
 たとえ会社側のミスであろうと、配信で不利益を生めばまず責任を問われるのはライバーの側である。確認を怠ったことよりも、不確かな確認体制を根拠に違法な権利運用を行ったことの方が、表からは悪事として露呈する。どれほど運営がザルであろうと、事情を知らない人間は「なぜ権利的に危ないと思わなかったの?」とライバーの方を責める。最終決定権はライバーにあったのだろう、という前提の下でだ。
 普段通りに活動し、権利関係の保証できない動画コンテンツを増やすことの危険性。それを頭の片隅にでも置いていれば、6月の時点で『マズい』という感覚は持てたのではないだろうか。
 結局はたらればの話に帰結してしまうが、ホロライブのライバーに火の粉を被る当事者としての危険意識があれば、『うちの運営は何かおかしい』という感覚を持てた筈である。そうなっていれば、ファンに『いつも通り』を見せることで根拠のない安堵を振りまくのではなく、自身の危機に毅然と対応することで支持者に対する『安心感』を印象付けられただろう。そうならなかったことが大いに悔やまれる。

10年前の感覚しかなかった運営陣

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