空港生活/2

ここでの暮らしも一週間が過ぎた。
今では施設内の店舗の従業員が私に向ける不審の目も和らぎ、私は、少なくとも問題を起こす心配はないなという信頼を得ることができている気がする。
というのも、空港の出入り口部分には金属ゲートがあるため、外の空気を吸いたくなった時はそこを否応なく超えなければならない。
ビクトリノックスのクラシックタイプは持っているが、アクセサリーのように小さなナイフなので、おそらくは問題扱いされないのだろう。

私は、いつもの通り、カフェでタバコを吸っていた。
あまり美味しくないコーヒーに、大きすぎるソファ。
肘掛の位置は高過ぎて、まともに寛ぐことも困難だったが、クッションは柔らかかった。
私は大好きな手巻きタバコを吸いながら作業をしていた。
少し前、日本文化についての記事を書くため、私は山の上の観光地を取材していた。
観光地、それも山の中となると宿代がバカにならないので、私はそこで働くことにした。
リゾートバイトだ。
自然豊かで、ゆったりとした時間の流れるいい場所だった。
そこでは外国人を多く見ることができた。
仕事終わりの休憩時間、暇を見つけてはよく女性に声をかけたりしていた。
大きな湖に、質素ながらも最低限の設備の整った小屋、自然の雄大さを味わえる遊歩道、美しく光り輝く星空と月明かりだけが照らす一帯を散歩すると、まるでファンタジーの世界に迷い込んだかのようだった。
登山道は夜になると、周囲に重たい暗闇が生まれ、重量を持って生物を押し潰そうとしてくる。
そんな記事を書いていたときのこと、私はめっちゃくっちゃ可愛い美女を見かけた。
真っ白に透き通る肌に、彫りの深い顔立ち、薄いまぶた、疲れたような表情。
ひょっとすると海外からの長いフライトを終えたばかりなのかもしれない。
彼女もまたタバコを吸っている。
テーブルの上に箱が置いてあった。
ダヴィドフだった。
私は彼女に声をかけた。

以下は会話の主な流れだ。
やあ君可愛いね、今から、ホテルに行ってハメない?
えー、いいわよ、行きましょうか?

彼女は空港から少し離れたところにホテルをとっていたようで、私もご一緒することにした。
彼女はドイツ人だった。
シャワーを浴びることができたのは一週間ぶり。
匂いについて尋ねると彼女は、タバコのせいで鼻が詰まっていたのよ、と言って笑う、そんないい子だった。
興奮が覚めた頃、私と彼女はホテルを出て市内を歩き、スタンディングバーに入った。
私はフランスのビール、彼女はベルギーのビールを飲んだ。
つまみはガーリックバタートーストとフィッシュ&チップス。
私が支払った。
ホテルとシャワー代を払ってもらっていると考えれば安いものだった。
何より、静かながらも優しい顔で笑う彼女と話していると楽しかった。
彼女はこれからドイツに向かうところらしいが乗り継ぎの時間が思いの外長かったらしいので、どうやって過ごそうかと考えていたらしい。
明け方まで飲むか、ほろ酔いでホテルに帰って始めるか。
探っていると彼女はどうやら、2、3杯飲んだら帰りましょうという合図を送っているようだった。
私は彼女に微笑みかけた。

翌朝、私は彼女を見送ると、再びいつものタバコを買い、先日のカフェの、同じソファに腰を下ろし、イマイチなコーヒーとタバコを味わい始めた。

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