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#06 【戦前|幼少時代】物語の登場人物のような母の実家


舞台

(福岡県)久留米

人物

主人公 :花山 三吉
家族構成:父、母、七人兄弟(五男二女)
     三吉は四男坊

題名

草笛の記

物語

戦中 戦後 青春のおぼえがき


第一章 幼少時代

(一)大家族に育つ

祖父の死のショック
「くるまや」全盛時代 

(二)父母のこと

仕事ひとすじの父 
父、良木への思いひとしお 
大家族を支えた母 
自然に恵まれた母の実家 ★

(三)雄大な筑後の山河

長兄、ふるさとの四季を描く
故郷の象徴、高良山と筑後川



第一章 幼少時代

(二)父母のこと


自然に恵まれた母の実家


母は十八才で嫁にきた。

実家は三里先の草野町の農家だった。県道に面した屋敷は、杉木立ちの中にあった。門柱に見立てた二本の杉の木は、ひときわ大きく高く聳えていた。

家の裏手は孟宗竹の藪(やぶ)がずーっと奥深く続いている。春には美味しい筍がたくさん採れた。竹藪の手前は蜜柑園、柿園で、そのまた手前に大根や西瓜などの四季を彩る野菜畑があり、よく見ると、蕗(ふき)やコンニャク芋の区画もあった。稲や麦を作る田んぼは県道の向こうに広がっていた。

その稲田の中ほどに、「清水(しみず)」がコンコンと湧き出ていた。その場所は池になっていて、池の周囲には簡単な山水の庭が造られ、「つつじ」などの低木が植えられていて、風情のある田んぼである。夏になると、水浴びの子供たちの声が弾んだ。

母の実家はいつ行っても、子供たちの遊びとグルメの天国だった。しかし住んでいるのは、相撲とりのように身体の大きい祖父一人だった。母の兄弟は職業軍人の海軍士官の兄と、それぞれ独立している弟二人、嫁に出た妹二人であった。

母は一人住まいの祖父を心配して、三吉たちを連れて時々実家へ行った。祖父は町の長老で物知りだった。「生き字引」と言われるように物覚えが良かったので、いろんな人が昔の事を尋ねて来たりして、一人暮らしを苦にしていない様子だった。この祖父は九十歳まで生きた。

草野町へ行くときは、乗り合いバスで行った。バスは市街を抜けると、山裾の道を選んで、杉並木を縫うようにしてゆっくり走った。


続く

坂田世志高


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