竈猫

趣味の心配が多い人間です。考え事が好きな壁です。 いつかは自分の書いた文章で生活したい。

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ガソリンスタンドは冬の匂いがする

窓を開けると、身を切るような北風が舞い込んできた。 思わず身震いして、箪笥から冬物を出す。 袖の長い上着を羽織ると、箪笥の匂いが染み付いていた。 寝坊に寝坊を重ねた罪深き昼下がり、食材を求めにスーパーまで歩く。 風は頬を冷やし、ガソリンスタンドの石油の匂いを運んできた。 ああ、冬が来た、と思った。 故郷を離れ、すっかり車離れした都会の生活に身を置くようになってから、ガソリンの匂いにノスタルジーを感じるようになった。 ツンと澄んだ空気の中に漂う、ガソリンはケミカルで

    • チョコレート・カラード・ネイルポリッシュ

      机越しにマグカップを持つ手が、あまりに綺麗だったから、ふいにシャッターを切りたくなって、やめた。 シャッターを切るべき瞬間は、いくつもあるのに、この意気地なしが邪魔をする。 カメラを向けた時、きっと君は今と同じ顔で笑ってはくれない、その顔が崩れるのが、ぼくは何より怖いのだ。 机越しに雑談を交える彼女と僕は、刻一刻と今を消費して生きている。 今、何をしていても、今日のことも、楽しかったこと以外忘れていくだろう。 いつも、感じてることまるごと、シャッターを切って、全部を

      • かがやくひと【推し短歌】

        あなたならどうするだろう北極星 ただ遠くで光るきみを追う 画面越し見慣れた一重瞼 見たことない顔して並ぶ私 いまここにあなたのために掲げるよ 青い夜空をつくるペンライト あの日の夜きみが見た景色夢じゃない ピクシーモブはまだ消えてない あの日見た君16歳金髪の 随分伸びた思いの丈 君の音生まれてる3m先 僕の今日までが意味を貰った 積読本いくら読んでもまだ足りない 手が届かない憧れの背中 本名も知らないままに盲目に もうすぐあなたを推し一年 ぱたぱたと動く憧れ

        • 赭とカーマインレッド、

          洗濯機の中から化粧品が出てきた。 私は戦慄した。さっきまでげんきいっぱいで、寿命をもう少しで全うできそうだった赤い口紅が、無残にひび割れ、水に濡れ、ついでに柔軟剤のよい匂いを纏って現れたのだ。 早々に見切りをつけ、私は街に繰り出した。 電車内、でがたがた揺られていると、母からと七五三の写真が送られてきた。 ぎこちなくポーズを取る幼少の私の口元には、着物と同じ、青みがかった赤色が塗られていて、ふと十数年前のこのときのことを思い出した。 私の化粧嫌いの歴史は長い。 七五三で

        ガソリンスタンドは冬の匂いがする

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          ゆる学徒カフェに行ったはず【ゆる学徒カフェ体験記】

          18きっぷで旅行に行った際、ついにゆる学徒カフェにお邪魔してきました。 開店以前から行きたかった場所に行けて感極まったオタクが思うままに綴ります。 ゆる学徒カフェについて ゆる学徒カフェとは、ゆる言語学ラジオを親とした6チャンネルのファンが集まる、ラジオスタジオを兼ねたカフェである。 筆者はゆる〇〇学ラジオ系列、ひいては店長兼ゆる民俗学ラジオの話し手である黒川晝車さんのファンで、開店までの進捗動画も見ていたので、一度行ってみたいと思っていたのですが、先日念願叶って行っ

          ゆる学徒カフェに行ったはず【ゆる学徒カフェ体験記】

          永遠の推し、舞台に立つ【イブステ】

          藤村衛は、ツキプロ所属のGrowthのメンバー兼作曲家である。 孤児院で育ち、就職先が倒産して路頭に迷っていた元ニートで、音楽の才能を買われ、当時17歳のメンバー達と組んだグループが成功を収め、今に至る…という情報量の塊みたいなゆるふわニート青年である。 筆者の中学生の頃からの推しであり、今年で7年ほどの付き合いになるが、生涯の推し、と言えるほどに思い入れのあるキャラクターである。 初見はアニメ、その後購入していたCDの中で息をしていた彼は、いつしか舞台にあらわれ、生身

          永遠の推し、舞台に立つ【イブステ】

          ティラミスが必要な夜には

          夏になると食欲がなくなるのは、まあよくあることだとして 心が空っぽになったような、何も考えられない夜は初めてだった。 帰り道にあるコンビニで翌朝のパンを買おうとしたとき、何も欲しいと思えなかった。 代わりに、目に入ったケーキコーナーの新商品のティラミスを買って帰った。 プラスチックの小さなカップに入ったティラミス。カロリーのでかでかと書かれた蓋をはがして、透明なスプーンを差しこんだ。 無抵抗にプラスチックのスプーンを受け入れて口の中で消え、たっぷりとしたマスカルポーネチ

          ティラミスが必要な夜には

          くたばれホルモンバランス

          朝起きたら、ラインに通知が来ていた。 昨日送った資料の言葉のニュアンスが違うから訂正して欲しい、とのことだった。 よくあるミス、頭ではわかっていながら、わたしは、顔をぶたれたような、ひどく惨めな気持ちになった。 わたしの、何か大きな山が、派手に崩れた音がした。 時間をかけずに終わらせる課題のこと、傷つけたかもしれない友達のこと、自分には不釣り合いなほど難しい資格に手を出したこと、みんなに合わせて普通に振る舞えない自分の社会性、この歳になっても何者にもなれない自分のこと。

          くたばれホルモンバランス

          [小説]牛乳

          「帰りに牛乳買ってきて」 サトコはふと、誰かに言ってみたくなった。 ひとりきりの玄関で、荷をおろしたとき、なんとなく、プロポーズの言葉としての最適解だと思ったのだ。 サトコの家に牛乳はない。以前はずっと常備していたのに、たったの1度切らしただけで、ぴたりと飲まなくなった。 まあ、たいして料理に使うわけでもないし、すぐ飲み終えるからコスパ悪いし、2Lのパックで買うと重い。 加えて、飲み終わったパックを乾かして、解体するのがだんだん面倒になってきて、買うのをやめた。 要は

          [小説]牛乳

          切れたスカートとわたしの気持ち

          小学一年生の時、わたしはスカートの裾を切った。 とくに深い意味は無かったけれど、あたらしいハサミをどこかで試したかったのかもしれない。ばれないように、1cmにも満たない小さな切れ込みを入れて、自分だけが知っている内緒ごとをつくったつもりだった。 「スカート、どうしたの?」 お母さんが次の日聞いてきた。 「自分で切った」 「ほんとうは?」 「自分で切った」 わたしは本当のことを言っているのに、違うことを言わなきゃ、話が終わらなさそうだったから、 「男の子がスカートめくって

          切れたスカートとわたしの気持ち

          出会いの詰まった仙台のはなし

          4月7日。 BUMPライブ参加のため、新幹線で仙台へ行ってきました。 仙台に一人で行くのは初めてでしたが、ご飯と優しい人々との出会いが沢山ある場所でした。 今回は、仙台の推しポイントを人とご飯に絞って紹介させていただきたく思います。 今回の宿は、宮城県苦竹駅近くにあるゲストハウス、梅鉢にお邪魔しました。 丁寧なスタッフさんと、落ち着いた雰囲気の外装が印象的なお宿です。 梅鉢では宿泊費+1000円で夕飯がつけられるサービスがあり、わたしもご一緒させて頂いたのですが、

          出会いの詰まった仙台のはなし

          【小説】スワイプ

          「公平くんから最近LINEこないんだけど、忙しいのかな。何か知ってたら教えてね」 液晶に映し出された文面は、奈々さんからだった。 画面をスワイプして通知を消し、イヤホンで耳を塞いだ。 さいあく。 綾乃はイヤホンを2回タップして、乱暴にボリュームを上げた。 奈々さんが、先輩と食事に仲介役として私を呼んだのは、今年の1月末のことだった。私と公平さんは、そのとき会ったこともなかったが、同じバイトをしていたこともあり、行ってみることにしたのだ。 それから何度か食事に呼ばれ、

          【小説】スワイプ

          ハロー、BUMP。ここにいるよ。be there 仙台4/8レポ

          2年半もの間、会いたかった人たちに会うことが出来た。 画面の向こうにいた彼らを、一番近くで感じてきた。 ずっと会いたかった。会えて良かった。 生きていて良かった、心からそう思える夜だった。 4月8日、私は、2023年BUMP OF CHICKENツアー、 be there仙台公演day1に参加した。 初参加のため物販のシステムがわからず慌てたり、周辺駅でBUMPグッズを纏った同士の姿に感動したり、フォロワーさんと会ったり、時間を持て余してイオンを徘徊するなどして開幕を待っ

          ハロー、BUMP。ここにいるよ。be there 仙台4/8レポ

          カウンセリング向きの性格、そうじゃない性格

          中学生の弟は、しばらくの学校に行っておらず、週に一度カウンセリングを受けていた。 現在は通うのをやめたのだが、どうもカウンセリングが肌に合わなかったらしい。 そこで、今回は弟が話したことを元に、カウンセリングの意義や、適性について考えたことをまとめてみた。 カウンセリングのきっかけ 弟は朝起きるのがとても苦手で、いつも学校のある朝は機嫌がよくなかった。また、言葉や人の視線に敏感で、かつ対人関係も苦手なこともあってか、しばらく学校を休んでいた。 その間、「カウンセリン

          カウンセリング向きの性格、そうじゃない性格

          オタク達よ、推しはガラルにあり。

          受験前なのにも関わらず、私がガラル地方へ旅立ったのは、ひとえに推しに会うためだった。 建前としては、「語学留学」として、だけど。 『ポケットモンスターソード、シールド』(以下剣盾と表記)は、2019年に発売した、ガラル地方を舞台としたポケモンシリーズ第八世代のニンテンドースイッチ向けのゲームソフトである。 ポケモンのスイッチソフトデビューにふさわしい、端正に作り込まれたグラフィックの美しさ、ガラル地方の舞台となったイギリスへの憧れ、そして圧倒的な、 ジムリーダーのビジ

          オタク達よ、推しはガラルにあり。

          何より先に牛丼食べたい

          ショッピングモールで映画の予告が流れていた。ワガンダフォーエバー、前から気になってたやつ。 「帰りの飛行機の中で見ようかな」 そういう考えが、自然に浮かぶことが驚きだった。いつも怖いとしか思えなかったフライトに対して、ポジティブな期待が出来るようになっている?? そういえば怖い怖いと言いながら、寝ることもできなかった私は、以前、フライトでI feelプリティを見たのだ。前回も何か見たかったけど、ずっとラジオ流していた。 あと数時間後、私は日本へと帰る。 今現在、フライト

          何より先に牛丼食べたい