橋本の映画レビュー『哭悲～The SADNESS～』

SNSを中心に話題を呼んでいた、台湾産ショッキングホラー『哭悲～The SADNESS～』
初日観賞とは行かなかったんですが、観る事が出来ました。夜中眠れなくなったら困るんでレイトショーじゃなくてお昼に。
2022年も半分が過ぎたタイミングで、とんでもない映画が出てきなってのが率直な感想です。少なくともゾンビ映画でこれを超える作品は今年は間違いなく出ないですし、数年出てこないなとも思っています。それぐらい衝撃でした。

よくホラー映画のキャッチコピーって大袈裟に書いてるじゃないですか。やれ「眼を背けたくなる光景」とか「映画史上かつてない恐怖」とか。
『哭悲』も例に漏れず書いてるんですよ。「内臓を抉られる様な衝撃」とか「二度と観たくない傑作」だとか。
『哭悲』に関しては全く嘘偽り無くその通りだと思いましたね。
私自身も間違いなく傑作だと思っていますし、今後しばらくはゾンビ映画で一番面白かったのはって聞かれたら即答で『哭悲』って答えるぐらいには推したいです。でも二度と観たくないし、他人に無責任に「面白かったよ！」とは言えない代物ですね。

あらすじとしては、謎の感染症が蔓延している台湾。風邪と似たような症状を持ち、蔓延してはいるものの、住人達は普通に生活している。アパートで同棲生活を送っているカイティンとジュンジョ―は、仲睦まじくもケンカもする、どこにでもいるカップル。
ある日、出掛ける前に外を見ていると、不自然に佇む老人を見つけたジュンジョ―。不審に思い声を掛けたが、振り向いた老人は返り血で血まみれだった。慌てて二度見するものの、そこに老人の姿は無く、見間違いかと思うジュンジョ―。
いつもの様にカイティンを駅まで送る最中、暴力事件を起こしている人を見掛け、ジュンジョ―は不安を覚える。カイティンを送り届け、ファストフード店で注文を待っていると、先程見掛けた怪しい老人が店に現れ、突然店員に熱した油を掛け、殺害してしまう。
同じように、店内に居た客が突如として暴れだし、店内は大混乱となる。危険を感じて逃げ出したジュンジョ―。街は住人達が次々と殺し合いをしている地獄と化していた。すぐにカイティンに連絡を取るジュンジョ―。地下鉄で移動しているカイティンだが、地上の地獄は地下にも侵食を始めており…

ウイルスのパンデミックが原因のゾンビホラーは極めてスタンダードな造りとも言えますが、哭悲の斬新なところは、『ゾンビに知性や理性がある』と言うところ。
このウイルスは人間の破壊・殺戮衝動、性欲、食欲のみを異常に暴走させるウイルスなので、感染した人は暴動を起こす殺人鬼となっていますが、自分がしている非道な事を理解しているんですよね。なので、凶行に及ぶ前に衝動を抑えられない罪悪感から涙を流すシーンがあったりするのですが、これがひと際怖い！！
涙を流しながら、満面の笑みで次々と人を殺していくものですから、得体の知れない怖さがありますし、感染者には理性がある事がわかってからそのシーンを振り返ると、ウイルスの恐ろしさに鳥肌が立ちます。
また、知性があるので武器もバンバン使ってきます。集団でチームワークを見せる事もありますし、車も運転するし銃も撃ってきます。銃撃ってくるゾンビなんて見たの「ゾンビリベンジ」以来ですよ。

とにかくグロテスクな表現に全振りしているので、観ていて目を覆いたくなるシーンは山盛りなんですが、ウイルスの症状を考えると精神までゴリゴリ削られてくる、もう既にお腹いっぱいなのに、更にそこにエロもインモラルも突っ込んでくるから、感情の逃げ場らしい逃げ場が存在しない！
こんなにも嬉しくないエロシーンも珍しいですよ。全然ドキドキしないどころから早く終わってくれと思う程。
こういったホラーは大体、先の展開を考えた時に「こういう展開になったら嫌だなぁ…そうなって欲しくないなぁ…」って思う事があると思うんですけども、起こって欲しくないと思った事は10割起こりますね。マーフィーの法則をこんなところで使わないでください。
そういった意味でも、期待は裏切らない展開ですね。裏切って欲しい気持ちすら裏切ってきます。

一度下降したらゴールまでずっと下り続けるジェットコースターみたいに、最後の最後までショッキングな映像しか流れない「哭悲」。
私の中では2022年ベスト映画に現時点では入っています。是非とも観てもらいたい作品ではありますが、「こんなもん薦めてきやがって！！」と人間関係に亀裂が入る可能性があるぐらい人を選ぶ作品だと思いますので、人に薦める時はちゃんと相手を選びましょうね。
あと、誰かと観に行くにしてもカップルで観に行くのは余程の映画好き同士かゾンビ映画フリーク同士以外では絶対止めた方がいいです。観に来てたカップル、大体どちらかの顔が死んでるかケンカしてるかどっちも黙り込んじゃうかのどれかだったんで。

ではでは、今回はこの辺で。
ネタバレありの方の考察記事もこの後に書きますので、視聴した方はよければ読んでみてくださいね。