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まさにアナザースカイな海外滞在記5選

 人生で初めての海外はロンドンでした。10日ほどの滞在で何かを成し遂げたわけでもないし、特別なイベントに参加したわけでもない。ホームステイをし、美術館を訪ね、ロンドナーの日常に触れるだけの、ただそれだけのことが、人生観を大きく変え、今の自分の土台となっています。ここにレコメンドするのは、もっと濃ゆい体験をした方々の、まさにアナザースカイ的な5冊の海外滞在記です。青春の、あの甘酸っぱさをぜひご賞味ください。

1冊目
岡本太郎著
芸術と青春

 私は、約10年間大阪府吹田市千里丘で育ったため、幼いころから太陽の塔を見て育ちました。その造形に不思議さを感じつつ、しかし小さなころからの当たり前の風景として存在し、今でも大好きな作品です。都内では、渋谷マークシティや、青山の国連大学前、銀座数寄屋橋界隈など、多数のパブリックアートとして氏の作品を見ることができます。そんな国民的アーティストの芸術が爆発する前夜、パリで過ごした青春の日々を描いたのが本書「芸術と青春」です。家族のこと、パリのこと、芸術のこと、そして恋。そこにあるのは、人間岡本太郎を形成する養分であり、またそこから放たれる強烈な人間臭さです。自分とはかけ離れた感覚の持ち主という錯覚を見事に解いてくれる、若者の青春が詰まった共感の書です。

2冊目
川内有緒著
パリでメシを食う。

 京都で一人暮らしを始めたとき、部屋を探したり、バイト先を探したり、だんだんと自分の生活を作っていく作業はまさに手探り状態。そこに言葉の壁、文化の壁、制度の壁が立ちはだかるという恐ろしい状態を、しかし夢のために全力でぶつかっていく姿は、まるで魔女の宅急便の主人公キキを彷彿とさせ、勇気をもらえます。ここにあるのは、いわばパリに移り住んだ10名のキキたちのエピソード集です。それにしても、パリは人を惹きつけて止まない、永遠の花の都ですね。

3冊目
石井好子著
女ひとりの巴里暮らし

 1950年代、戦後直後に渡仏したシャンソン歌手石井好子さんの名エッセイ。かわいらしい文体、おしゃれなパリの空気、そしておいしそうな料理たち。こんなにパリを、その料理たちを愛した人がいたでしょうか。まだまだ戦争の記憶が鮮明な中、異国に挑んだ一人の女性のしなやかさに思いを巡らすとき、自身の心のありようを改めて考えさせられます。一気に読める、何度でも読み返したくなる、そんな愛すべき一冊です。

4冊目
近藤聡乃著
ニューヨークで考え中

 海外に行くと時間が止まっているように感じることがあります。それは、日本での日常や現実から離れるからなのか、それとも異空間だからなのか。いまだ訪れたことの無い憧れの街ニューヨーク。そこで暮らす氏のマンガエッセイは、本当に暮らしたことのある人にしかわからない、そして日本人にしかわからない目線で、止まらない日常の面白さを描いています。例えばニューヨークには、薄切り肉がない…。この事実一つとっても、どうでもよい些細なことのようで、生活者にとっては、大変困った現実なのだと改めて気づかされました。リアルなニューヨーカーの日常にどっぷり浸かれる、旅行記では味わえない生活者の記録。

5冊目
伊丹十三著
ヨーロッパ退屈日記

 大人とはなんたるか!伊丹十三という偉大な映画監督は、同時にエッセイの名手であり、永遠のシティボーイであることをまざまざと見せつける痛快作!ヨーロッパ長期滞在中に感じた「本物とな何か」「粋とは何か」が随所に散りばめられた、それはまるでユーモアをまとった大人の教科書です。そこに込められた価値観はもちろん、洒脱な文体も相まって、その中毒性がハンパじゃない。タイトルにある退屈ってなんだよ!と思わず突っ込んでしまいます。それにしても伊丹さんって、都会っ子だなー。

いかがでしたでしょうか。暮らすことで初めてわかる、新しい環境で自分が変わる、そんな感覚を追体験したいときは、ぜひご賞味あれ!

Connecting the Booksは、これまで培ってきたクリエイティブディレクター、コピーライター、編集者としてのノウハウを公開するとともに、そのバックグラウンドである「本」のレビューを同時に行うという新たな試みです。