影の人


影の人

著者
小野 大介


 私はそれを、影の人と呼んでいる。


 影の人はどこにでもいて、一人じゃない。

 どうやら影の人は、私にしか見えないらしい。


 影の人は、手が無く、足も無い。

 影の人は、黒く塗り潰された二つの目しかない。

 影の人は、他の人の影になるのが仕事らしい。

 でも、必ずしも影になるわけでもないようだ。


 私の友達が、影の人と一緒に歩いていた。

 私の目の前で、友達はトラックにはねられた。

 ホームで電車を待っているとき、影の人がサラリーマンの人の影になった。

 猛スピードの特急電車に、サラリーマンの人の頭がぶつかった。


 影の人は、人の寿命に関係あるようだ。

 影の人は、影になった人がもうすぐ死ぬことを知っている。

 影の人は、これから死ぬ人の影になる。


 ある日、親戚の人が死んだ。

 そのお葬式に、私も出席した。


 影の人が、親戚の人の棺から現れた。

 影の人が、親戚の人の棺からもう一人現れた。

 影の人は、影になった人を、影の人にするらしい。


 きっと、私ももうすぐ影の人になる。

 私の側にも、影の人がいるから。


【完】


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