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トム・ウェイツ 〜 アサイラム・イヤーズ、「人生のポケット」の底で、たまたま手にしたレコード

トム・ウェイツ (Tom Waits: born December 7, 1949) は、アメリカ合州国のミュージシャンにして俳優。投稿タイトルの上に掲げた写真は、彼が初主演した映画「ダウン・バイ・ロー」 (Down by Law, 1986) の一コマ。

トム・ウェイツにはちょっとした縁がある。と言っても勿論、会ったことはない。「勿論」とまで書くことはないかもしれないが。何しろ、音楽業界の人間でも何でもない筆者だが、コリーヌ・ベイリー・レイ (Corinne Bailey Rae) なら会ったことがある。忘れもしない(って本当は何日だったかは忘れてたけど)、2017年4月11日、赤坂BLITZ でのコリーヌ・ベイリー・レイの来日公演、ライヴを観に行き、終演後に彼女の CD にサインを書いてもらってちょっとだけ会話して、ツーショット写真を撮らせてもらったことがあって。と言っても勿論(この「勿論」は妥当だね)、私は彼女の知り合いでも何でもない、ただのファンの一人なんだが。

例によって(私の文章を初めて読む人や 1, 2度読んだだけの人には「例によって」は通じないけれど、しかしこうして字数が増えてしまうのも癖かね)、脱線した。

ダウン・バイ・ロー

さて、トム・ウェイツとのこちらからの一方的な「縁」というのは、結婚する前の時期の妻と一緒に観た何本かの映画のうちの一つが、本投稿の冒頭に書いた「ダウン・バイ・ロー」だったということ。それってトム・ウェイツとの縁かよ? .. 演歌よ(笑)。いや、それから 24年後のことを想えば、自分にとっては「縁」なのだ。

34年前に観た時に映画館で買ったパンフ、今も持っている。

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妻とは 1986年が始まって間もない頃、要するにその年の正月三が日辺りに付き合いだして(辺りというのは曖昧だが、日を憶えているわけではないし、そもそも別に憶えている出来事があって、付き合いだしたのは 1985年の 12月下旬辺りと言えなくもないので、とにかく微妙なのだ)、その、たぶん 1月2日か 3日辺り(辺り、連発)に最初のあらたまった「デート」(という言葉は普通、当事者は使わないと思う、我々も使った記憶がない、しかしこの言葉、近頃でも一般に使われているのだろうか)で当時住んでいた横浜から東京、新宿に出かけ、シネマスクエアとうきゅうという名の映画館で、ナスターシャ・キンスキー (Nastassja Kinski) 〜 またまた脱線するけど、何とこの人、1961年1月24日生まれ、俺と学年同じじゃないか(笑)、脱線続けるけど、彼女、名前からずっとロシア人と思い込んでいたかも(無理ないね)、しかし両親ともドイツ人のドイツ人俳優だったのか、「脱線」終わり 〜 主演の「マリアの恋人」 (Maria's Lovers, 1984) を観た。

1984年公開のアメリカ映画が、どうして日本で 1985年12月から1986年1月にかけての公開となっていたのかな。ウィキペディアで見ると「(日本での)公開 1985年12月14日」となっていて、要するにリヴァイヴァルでもないし、事情はよく分からない。あの映画館は上映作品の選定にいい意味でこだわりのある映画館だったと思うから、日本ではおそらく商業的な理由などで直ぐに配給されなかったあの映画を、あちらでの公開から 1年経過していてもとにかく上映しようという気になった、何らかのたぶんアーティスティックな動機に基づく理由とかがあったのかなと想像している。

ナスターシャ・キンスキーは当時、既に大物女優だったけれど、今ついでにウィキペディアで見たら、なんと彼女、1984年公開の映画は 4本も出演している。「殺したいほど愛されて」(Unfaithfully Yours), 「ホテル・ニューハンプシャー」(The Hotel New Hampshire), 「パリ、テキサス」(Paris, Texas), 「マリアの恋人」(Maria's Lovers), の 4本。もっとも、1年に 4本出てる年は他にも複数回あるな。2001年なんて、驚きの 8本。後年はどうもテレビ映画に出ることも珍しくないようだけど。もしかしたら、いわゆる B級映画的なものにも出るようになっていた可能性があって、客観的には大女優っぽかった人のキャリアの悲哀が感じられるかもしれないが、しかし本人は満足してるかもしれないし、そもそも人生なんて職業だけの話じゃなくて、本人が何をよいと思うかとかは世間の評価なんてこととは関係ないのだ。勘違いしている人は著名人も含めて多いだろうけれど、人生って本当はそういうもんだろう? ... いやはや、脱線、俺はトム・ウェイツのことを書き始めたはずだった。

さて、ようやくトム・ウェイツ(かな?)。いや、まだかも。

あの頃の何年間か、1992年に息子が生まれる前まではわりと色々な映画を観ていたことを思い出す。「マリアの恋人」を観たシネマスクエアとうきゅうでは他にアラン・パーカー監督の「バーディ」、その他、映画館は思い出せないが、小栗康平監督の「伽倻子のために」、日本映画で他に思い出すのは例えば「夢みるように眠りたい」、外国のメジャー系の映画だと「太陽の帝国」とか「ダンス・ウィズ・ウルブズ」とか「レナードの朝」とか .. 。やっぱり懐かしくなって脱線する。

さて、ようやくのこと、トムウェイツ。

「ダウン・バイ・ロー」 (Down by Law) は、1986年公開の白黒映画。日本での公開も同じ年、1986年11月22日とウィキペディアに記載されている。妻と私がこの映画を観たのは、この年の12月だったと思う。これもシネマスクエアとうきゅうで観たと思い込んでいたんだけど、いまググって調べたら、どうも有楽町スバル座だったみたいだ(たぶん!)。

監督はジム・ジャームッシュ (Jim Jarmusch)、主演がトム・ウェイツ (Tom Waits), ジョン・ルーリー (John Lurie), ロベルト・ベニーニ (Roberto Benigni) の 3人。

ロベルト・ベニーニはイタリア人の俳優、コメディアン、映画監督、1998年公開の自らが監督、脚本、主演を務めた「ライフ・イズ・ビューティフル」で俳優としても映画作品としても世界の数々の映画賞を受賞して、あの映画は当然、日本でもヒットした。だから、音楽好きな人を除けば、現時点では、というか 1998年以降は、日本では上記の 3人の中でロベルト・ベニーニが一番有名な人かもしれない。

ジョン・ルーリーは、トム・ウェイツと同様、俳優兼ミュージシャン。画家でもあるようなので、多才な人ということかな。

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この映画の音楽は日本語版ウィキペディアだと「ジョン・ルーリー」としか書いてないし、当時の映画パンフにも「ジョン・ルーリー」としか書いてない。しかし英語版 WIKIPEDIA では Music by John Lurie, Tom Waits となっていて、映画にはトム・ウェイツ自身の歌が使われてもいるし、まぁ映画全編に使う音楽を考えた等々、音楽「監督」的にはジョン・ルーリーだった、ということなのかな。

映画のオープニングが、いきなりトム・ウェイツの歌 "Jockey Full of Bourbon" で、この歌は彼の 1985年リリースのアルバム "Rain Dogs" に収録されていた曲。


もうひとつ、映画のワンシーン。


この映画、いま何と全編が YouTube に上がっているのだが、コピーライト的にどうなのかな。その意味でも躊躇するし(そう言えばだいぶ以前も上がっていたような気がするが多分以前のは消えてる)、そのうち消えるかもしれないが、迷った末、とりあえずリンクを貼っておく。

(2021年6月5日交換, スペイン語字幕付きだけど)

アサイラム・イヤーズ 〜 亡命の歳月、「人生のポケット」の底で買ったアルバム

トム・ウェイツのアルバム「アサイラム・イヤーズ」 (Asylum Years) は、1986年にリリースされたベスト盤的な編集アルバムで、彼が 1973年にデビューして以降 Asylum Records という名のレーベルから作品をリリースしていた時期、1980年までのアルバムから選曲によるもの(彼はその後、Island Records, Anti-Records と、2度レーベルを変えている)。

だから、"Asylum Years" は "Asylum Records years" という意味であって、"Asylum" はその時期に彼が契約していたレーベルの名前の一部なので、このアルバムのタイトルは別に「亡命していた年月」みたいな意味ではない。

"Asylum" という言葉には色んな意味があって、安直にネット上の辞書から引いてしまうと、「保護施設、難民収容所、児童養護施設、養老院、養育院、精神科病院」、「避難所、安全な場所、隠れ家、聖域」、あるいは「〔政治犯の〕亡命、庇護」。"Political Asylum" と言えば、政治的理由による亡命、一言で言えば「政治亡命」。

私がこのアルバムを買ったのは 2010年で、2002年の初夏から「人生のポケット」のようなものに嵌り込んでしまっていた私が、前年2009年11月から、後から振り返って分かる「人生のポケットの底」に落ちてしまい(「堕ちてしまい」と書くべきか、これまでの人生で読んだ中で最も印象に残る数冊の本のうちの一冊、読んだのは全く堕ちてなかった頃だけれど坂口安吾の「堕落論」の「堕」のようなもんだと思えばいい)、ただ只管(ひたすらってどうしてこう書くのかな、ググれば出るんだろうが面倒くさい)苦しかった、それも「人生のどん底」の塗炭の苦しみを味わった時代に、茨城県南部の地方都市に住んでいる私が、その頃、理由があって千葉県柏市に週何回か通っていた時期があって、この「アサイラム・イヤーズ」 (Asylum Years) はその当時、柏のディスク・ユニオンで中古品 CD として買ったもの。今日の投稿タイトル、「レコード」と書いたけれど、レコード盤ではない。

トム・ウェイツについては、前章で書いたように、その 24年前、1986年に彼の主演映画を観ていたし、ミュージシャンとしての彼の名前も以前から知っていたのだが、しかし実は、特に思い出せる理由もなく、つまり、何というか、大の音楽好きで米英のロックで育ったような人間であるにもかかわらず、たまたま彼の音楽を本格的に知ろうとする切っ掛けというものを掴まないままに(ずっと以前に映画「ダウン・バイ・ロー」であれほど個性的な彼の歌を聴いていたというのに何故だろう、これもまた不思議だ)過ごしてきてしまっいて、2010年、トム・ウェイツのデビューから 37年もの年月が経過するその時まで、彼のアルバムを手にすることもなかった。

というわけで、この CD が、私が初めて買った彼の音楽作品だったのだ。

ところで私は、人生で 2度だけ、大好きな音楽を全く聴く気にならなかった時期がある。2002年から「人生のポケット」のようなものに嵌り込んでしまって、脱出したのが 2016年の 1月終わりか 2月初め頃。その期間中、2002年の夏の終盤から秋にかけても大好きな音楽を聴く気すら全く起きない時がしばらく続いたのだが、2009年11月から 2010年のおそらく 2月頃までも、そんな感じだった。その時期、ほとんど、あるいは全く、音楽を聴いていなかったと思う。

そんな私が「アサイラム・イヤーズ」を買ったのは、多分、2010年の初夏ぐらい。柏市に行く用事があって、その帰りにふらっと寄ったディスク・ユニオンで、それまでずっと、あの映画の「ダウン・バイ・ロー」で使われた曲以外は聴いていなかったトム・ウェイツの音楽作品を、そのときになぜ手にしたのか、そしてそれを買ったのか、その理由、その時の気持ちは、全く思い出せない。案外、当時たまに聴いていたピーター・バラカンのラジオ番組とかで紹介されたトム・ウェイツの曲のいずれかを気に入ったとか、そんな背景もあるのかもしれないが、とにかく、具体的には全く思い出せない。今となっては、「たまたま」手にしたぐらいにしか考えられないのだ。まぁミュージシャンとしての名前は知っていて、俳優の方のトム・ウェイツも知っていたわけだから、全くの「たまたま」ということはないはずだが、とにかく、どうしてあのとき「アサイラム・イヤーズ」を買ったのか、その理由は思い出せない。

兎にも角にも、私は「人生のポケットの底」、文字通り一番底に堕ちてしまっていた時、何かの切っ掛けでトム・ウェイツの音楽に改めて出会うことになり、それ以降、彼の音楽が大好きになった。そのとき買ったアルバムのタイトルに「アサイラム」という言葉が入っていたのは、これはこれで「縁」なのだと感じている。いま思えば、勿論たまたまのことではあるけれど、あのとき買ったトム・ウェイツのアルバムのタイトルが「アサイラム・イヤーズ」だったことは、当時の私を思えばかなり意味深な偶然ではあるのだ。

いずれにしても、トム・ウェイツの音楽には助けられた、という気がしている。

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このアルバム全編、YouTube に上がっていて、前章でリンクを載せた映画「ダウン・バイ・ロー」全編同様、コピーライト的にどうなのかなと思うけれど、こちらは実は 3年以上前から上がっていて、削除もされないところを見ると(YouTube では著作権上の問題があるものはフル・アルバムとかだと割と早いうちに削除される)、もしかしたらこのコンピレーション・アルバムについては許容されているのかもしれない(書いた以外に特に根拠はないが)。

アップロードした何処の国の人か分からないが agvel さん、"All rights go to Tom Waits and to my ass" と付していて、これはけっこう笑える。個人的には、この人、女性だったら楽しいなぁ(笑)。

(2021年6月5日差し替え, 当初リンク貼ったクリップ, どうやら消えたようで)

01 - 00:00 Diamonds on My Windshield
02 - 03:18 (Looking For) The Heart of Saturday Night
03 - 07:08 Martha
04 - 11:37 The Ghosts of Saturday Night (After Hours at Napoleone's Pizza House)
05 - 14:51 Grapefruit Moon
06 - 19:41 Small Change
07 - 24:45 Burma Shave
08 - 31:19 I Never Talk to Strangers
09 - 34:56 Tom Traubert's Blues
10 - 41:26 Blue Valentines
11 - 47:16 Potter's Field
12 - 55:54 Kentucky Avenue
13 - 1:00:42 Somewhere
14 - 1:04:34 Ruby's Arms

付録 1: 「土曜の夜の心」を探して 〜 Looking for the Heart of Saturday Night

(Looking for) the Heart of Saturday Night ー the title track of Tom Waits' 1974 album "The Heart of Saturday Night" released on ASYLUM Records

*一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)より「著作権を有する音楽著作物の著作権を侵害している」旨, 指摘を受けた為, 当初 私の誤認識によりここに掲載していた英語歌詞を削除しました。歌詞に関心のある方は, 公式サイト等に掲載されているものを確認してください(2022.9.2 加筆/削除/編集)。

付録 2: 「人生のポケット」初期に歌詞を訳した歌

昨日の自分の投稿へのリンク。この見出しの通りだけれど、昨日の投稿にはそれ以前に「人生のポケット」を本題にして書いた投稿テキストへのリンクも付けたので、今日の投稿に付録的に付けておきたくなった。

歌詞を訳した「コンドルは飛んでいく」(サイモンとガーファンクルによるカヴァー)を取り上げているので、まぁミュージシャンのアルバムによくある「ボーナス・トラック」みたいなものでもあって(ミュージシャンじゃないけれど!)。


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