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島袋さん(LGBTQ)のはなし――わたしの瞑想体験記その3

 瞑想実践者インタビュー2人目は島袋賀旭さん(沖縄在住)。ご自身のセクシュアリティからHIVウィルス感染症、アルコール薬物依存症の経験、そして瞑想との出会いによって、どう生活が変化したかについてお伺いしました。 

セクシュアリティに悩む日々

ーー自己紹介をお願いします。
 台湾高雄市生まれの沖縄育ちです。父が沖縄の人で母が台湾人、セクシュアリティはゲイです。家族もセクシュアリティや病気のことは知っています。現在は通信制の大学に通い、社会福祉士の資格を目指しています。

ーーご自身の「性」について意識されたのは、いつ頃でしょう。
 小学校高学年ぐらいから恋愛対象が男性という意識はありました。思春期になって「男性が女性、女性が男性」という世間の恋愛に違和感があったのですが、「男性を好き」と家族にも言えず、大変苦しかった記憶があります。
 高校生ぐらいになると、学校の友人には隠したままですが、その時代に流行りだしたSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)によって、ゲイ・コミュニティと繋がれるようになりました。同じ境遇の仲間が増えていき、救われました。
ーーゲイ・コミュニティについて
 高校卒業後は定職につかず、車が好きだったので、内地(本土)の自動車製造工場などでアルバイトとして働き、お金ができると新宿2丁目に行って、よく酒を浴びるように飲んで踊って遊んでいました。ゲイ・コミュニティはアルコールや薬物に寛容なところがあります。私も「コミュニケーションツールのひとつ」としてアルコールや薬物を使っているつもりでしたが、いつの間にかコントロールがきかなくなっていました。
――何かトラブルになったことはありますか?
 飲んで暴れてしまい、警察沙汰になったこともあります。酔っぱらって同じゲイの人を噛んで「HIVに感染するじゃないか!」と訴えられ、裁判になり、予防薬代を1カ月分支払ったこともあります(笑)。
ーーそれは大変でしたね。HIV感染者でもあるんでしょうか? 
 はい。私はHIV感染者ですし、ゲイ・コミュニティの中には同じような方もたくさんいます。ちなみに噛んでしまった相手とは和解し、今では親友です。投薬中のHIV感染者が他者を噛んでHIVに感染する可能性はないと医学的・科学的に証明されてます。訴えられて、予防服薬代まで払うとなったのは、当時のHIV感染者に対する偏見や誤解もあったのだと思います。
ーーかつては「HIV感染≒不治の病」という印象でしたが、現在の状況は?
 昔と現在では状況が違っていて、HIVに感染しても、普通に生活ができるようになりました。今はHIVも予防ができる時代です。PEP(曝露後予防:Post-Exposure Prophylaxis))とPrEP(曝露前予防:Pre-Exposure Prophylaxis)という2種類の方法があります。PEPはHIVに感染したかもしれない行為の後(曝露後)72時間以内に、抗HIV薬(HIVに対する治療薬)の内服を開始して、HIVに感染するリスクを低下させる予防策のことをいいます。PrEPは性交渉する前からHIVの薬を内服し、性行為によるHIV感染は99%、薬物静注によるHIV感染は74%の予防効果が期待できると考えられています。日本のセックスワーカー、ゲイの方たちは徐々に使い始めていますし、台湾ではカジュアルに使用されていて、台湾人の友達にも曝露前予防(PrEP)をしてる人はたくさんいます。
 社会が変わってきたといっても、LGBTQもHIV感者も、まだまだマイノリティーです。そのことで精神的に苦しんでいる方も多いと感じます。「HIV/エイズとともに生きる人たちがありのままに生きられる環境(コミュニティ)を創り出す」をテーマにしている認定NPO団体「ぷれいす東京」があります。私はそこでピアボランティアとして関わっていて、自分を含めたマイノリティの方々がその人らしく生きられる社会作りに貢献できたらと思っています。

アルコール依存症から瞑想へ

ーー島袋さんが瞑想を始めたキッカケを教えてください。
 2018年3月8日に沖縄の自宅でアルコール性のてんかんで倒れました。今では考えられないのですが、当時の部屋はビールやウィスキーの空き瓶だらけで、幻覚や離脱症状もありました。階段で倒れ、気づいたときには救急車の中。急性期病棟に2週間くらい入院し、その後、アルコール病棟に約3カ月、教育入院をしました。
 病棟の本棚にアルコール依存症をテーマにした雑誌『Be!』がたくさん置いてあり、マインドフルネスの話題も掲載されていました。他にも心理学、仏教の本も多数あって、アルボムッレ・スマナサーラ長老の著作や『グーグルのマインドフルネス革命』もありました。当時は「アルコール依存症と仏教、マインドフルネスがどう関係しているのか」よくわかりませんでした。拒否反応もなく「宗教色あってもいいんじゃん」と、すんなり受け入れることができました。

ーー瞑想(マインドフルネス)の実践(プラクティス)を始めたのはいつですか。
 2018年5月末に退院後、ヨーガをはじめたり、週1回の琉球大学の伊藤義徳先生の沖縄マインドフルネス瞑想会に参加するようになりました。そこで仏教の話や瞑想中の六根の話題がよく出ていました。しっかり時間をとって瞑想したのは2019年11月頃、伊藤先生の対面型のMBCT(Mindfulness Based Cognitive Therapy:マインドフルネス認知療法)の8週間プログラムへの参加が初めてです。 

2018年、入院中外泊時の島袋さん(退院直前)

  ーープログラムのテーマは「自殺予防」の効果検証 
 ゲイだからアルコール依存症になるわけでは、もちろんありません。ただ、希死念慮(自殺願望)がある方は少なくありません。私自身も精神が不安定で、時折そんな気分に駆られることもありました。「自殺予防に有用である」といわれるマインドフルネスを実践し、その効果を検証するプログラムを、どうしても体験してみたかった。希死念慮がある方は参加NGだったのですが、私は秘密にしてプログラムを受講しました。瞑想を本でしか読んだことなかったのですが、自分の意志で参加を決め、実際に通ったのは思い出深いです。そのときに劇的に何か変わったわけではなかったのですが、もっと仏教や瞑想について知りたくなりました。
ーー瞑想中のトラブルはありませんでしたか?
 ボディスキャン中やその後、「トラウマが20人に1人くらい出る、夜に悪夢を見る」などあるそうですが、私は特にそういったこともありませんでした。ただ、瞑想をしていくと心地よくなって魔境にはまったり、スピリチュアル・バイパッシングといって複数のプログラムに通ったりというのがあるそうで、私の場合は後者。「もっと知りたい」と瞑想にはまったほうです。習っていると先生に疑いの気持ち(五蓋)が出てしまい、いろんな先生のところに通ってしまうことがありました。

ーーさまざまな先生の指導を受けてきたんですね。いろいろ経験してみて、自分に合う瞑想は見つかりましたか?
 今はマインドフルネス・ヴィレッジというオンラインコミュニティに登録しています。他にも心理学博士の David TreleavenのTSM(Trauma Sensitive Mindfulness)のビデオ教材でトラウマの理解とマインドフルネスについて学んでいます。マインドフルネス・ヴィレッジでは、読書会などによく参加し、『今このとき、すばらしいこのとき』や『ティクナットハンの般若心経』などの朗読や瞑想をしています。聞思修(教えを知り、実践を行い、修行に励む)の段階に入って、マインドフルネス講座探しのウィンドウショッピングも少し落ち着いてきました。少しね(笑)。

ーー瞑想を続けることで、どんな変化がありましたか?
 一言でいうなら※「耐性の窓」が広がりました。覚醒度という尺度で「身体・心・頭」の状態を測るのですが、以前だったらお酒やドラッグ、不安などに飲み込まれたら、なかなか戻ってこれませんでした。心の浮き沈みが少なくなって、精神の振れ幅も安定してきて、「この程度の(心の)波だったら(離脱から)戻ってこれる」というのも感覚的にわかるようになりました。神経科学的にも精神状態の安定を保つのには瞑想が役に立つといわれますが、その通りだと思います。

※「耐性の窓」とは自律神経の交感神経と副交感神経のバランスがとれていて、生活のさまざまなストレスに対応できるような状態のこと。

ーーほかに瞑想のよいところがあれば教えてください。
「自分がここにいる(グラウディング)」という土台作りにとてもよい。思い込みは、物の見方をかえてしまいます。般若心経の中にある「不増不減」や「Non-Duality(ノンデュアリティ)=非二元」、「価値判断」に振り回されないのは大切です。「聞思修」を実践する中で、着実に自分が変わってきました。
 例えばZOOMの朗読会。以前は心臓がバクバクして人前で話すなんて考えられなかったのですが、今は覚醒度が耐性の窓の中にとどまり、人前での朗読を楽しめるようになりました。俯瞰して自分を見れるようになり、思考や行動パターンにも自覚的になり、窓に収まっている感覚があります。依存症のClean&Sober(しらふ)を続けるのにマインドフルネスやヨーガは役に立つ効果を実感しています。十二縁起にある無自覚の行為、MBSRではhabit loop(繰り返される習慣)というんですが、呼吸や体を感じて、無自覚に繰り返される自分、奴隷になっている自分をストップするのにいいんじゃないかなと。仏教の先生やタラ・ブラック先生が言っていることだと思います。

オススメの本と瞑想法

島袋さんのベストブック『ラディカル・アクセプタンス』旧サンガ刊(2022年7月現在絶版)

ーー おススメ本を教えてください。
2020年6月に参加した『ラディカル・アクセプタンス』刊行記念講演は、すばらしかった。物事の受け止め方について、仏教・瞑想の知見から書かれた本で、オンラインイベントなので、アメリカ在住の著者のタラ・ブラックさん(以下タラ)、通訳:マジストラリ佐々木さんも出演しました。そこで私は「劣等感とコンプレックスについて、自分をアクセプトして、自分自身を愛するようになるためには、どうしたらいいですか?」とタラに質問しました。するとタラは「あなたは足りない自分(トランス)を見ている、その眼鏡をはずしましょう」と答えてくれました。とらわれている自分(トランス)、習慣をとめるのに、瞑想は役立つんです。

ーー最近よくやっている・オススメの瞑想はありますか。
 坐る瞑想は45分、ほぼ毎日やっています。朝目覚めて、どきどきしているときには、寝たままの状態でボディスキャンをし、心を落ち着けます。
 好きな瞑想はマインドフル・セルフ-コンパッション(慈悲)とかトンレン瞑想ですね。吸う息で自分にコンパッションを与えて、吐く息で嫌いな人にコンパッションを与える。よく瞑想するのですが、スージングタッチとかコンパッションベースの瞑想をすることが多いですね。

ーースージングタッチを詳しく教えてください。
 胸に手を当てて、手の感覚に気づき、胸や体、お尻、足など呼吸の状態を感じます。吸う息で「苦しみがなくなりますように」、吐く息で誰か好きな人を「〇〇が幸せでありますように」。慈悲喜捨の実践をカスタマイズします。音源をよく使うこともありますが、今まで習った瞑想を、自分なりにやっています。朝、仕事に行く前などに10から20分程度、実践しています。
ーー瞑想実践の共有ありがとうございました。お話を聞いていると、現在は心が安定している印象を受けました。
 
今、自分のセクシュアリティはオープンリー・ゲイ(openly-gay)です。
 オープンリー・ゲイとは自分を100%ゲイにするということではなく、逆にゲイであることを人生の中で特別扱いしないということ。オープンリー・ゲイになって初めて「ゲイというアイデンティティに縛られずに生きていく」ことが可能になるとも言えるし、要するに、いつでもいつもの自分でいられる。自分が自分の生きたいように生き、それを知られたらどうしようという「恐れ」の感覚からフリーなだけ。それがオープンリー・ゲイという状態です。今はオープンリーに落ちついてます。
ーー本日は貴重なお話ありがとうございました。

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