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伝統を守る人と福祉の人

私はAちゃんと小学校が同じだった。
私の小学校は一クラスしかないから、ずっと同じクラスだった。

 
私とAちゃんは共通点が四つあった。

一つ目は、肌が白い女性。
二つ目は、父親が同じ職業。 
三つ目は、身長が高い。
四つ目は、読書が好き。

 
 
私とAちゃんは小学校で、身長順に並んだ時
一番後ろと後ろから二番目コンビだった。
私と同じように肌は白く、髪はロング派だったが
私とは異なり、体型はスラッとしていた。
スタイルがいいというやつだ。
私は身長は高いが、足は太く短い。
身長が高ければスタイルがいいというわけではない、という見本のような体型だった。

 
朝礼の時等は、整列した後に先生が来るまでお喋りした。
中学校も同じクラスだったが、やはり私達は一番後ろと後ろから二番目コンビで
中学校は身長順に二列になるので
私とAちゃんはいつも隣にいた。

他愛のないお喋りをしては二人で笑った。

 
じゃあ特別仲が良かったかと言ったら、そんなことはない。
身長順に並んでいる時や席が近い時は話すが
私は違うグループに所属していたから
整列がとかれたら、お互いに別行動をした。

Aちゃんは、大人しかった。
あまり人が群れることを好まなかった。
 
小学校が6年間同じなのに、学校外で一度も遊ばなかった。
でもそれは私とAちゃんが、というより
Aちゃんはあまり友達とワイワイするタイプではなかった。

基本的には、休み時間は一人静かに本を読んでいた印象だった。

 
 
小学校五、六年生の頃、図書室で本を借りて読んだ後、「読書感想メモ」というものを記入して、教室の後ろに貼った。
タイトル、作者名、出版社を記入し、後は二~三行程度の感想を書く。

担任の先生はそれを見て、毎月集計をとり、学級通信に「今月の読書賞」として
毎月読書量が多い生徒1~3位までの名前を載せた。

 
Aちゃんが大抵1位で
私は2位、もしくは二人で同じ冊数を読んで引き分けだった。
私が1位になれたのは数えるほどだ。
 
お互いに月13~20冊読んでいた。

 
「あ~あ、Aちゃんに負けたー!Aちゃん、本読むの早いね!ちなみに今月読んだ中で、オススメある?」

私がそう言うと、Aちゃんは優しく微笑んで、特に面白かった本を私に教えてくれた。
私と読むジャンルは異なったので
Aちゃんの読書感想メモやオススメは
私にとっていい刺激となった。

 
 
 
Aちゃんとは高校が別れた。
携帯電話の番号は交換しなかった。
というより、できなかった。
なんせAちゃんはクラスの集まりに顔を出さなかった。

Aちゃんは、成人式や成人式後の同窓会にも顔を出さなかった。
私は中学校卒業式を境に
Aちゃんとは会っていなかった。
 
 
 

私は中学校卒業後も、定期的にみんなと会っていた。
20代前半までは、クラス飲み会や複数人での集まりも盛んだったが
次第にみんな、結婚や子育てや仕事に忙しくなり
大人数では集まらなくなっていった。

ただ、中学時代の仲良し4人グループでは、中学卒業後も毎年時間を作って会っていた。
 
「今頃、みんな何してるんだろうね?」

近況を報告しながらも、必ず話題になるのが、中学時代のみんなが何をしているかだ。
地元に残っている人、4人中誰かしらが繋がっている人の情報は入るが
それ以外は途絶えていた。

B「Aちゃん、何してるんだろうね?ともかちゃんは知ってる?」

私「小学校の集まりにも顔出さなかったからなぁ……みんな、分からないって言うんだよ。」

C「Aちゃん、キレイだったよね。近寄りがたいっていうか。」

D「そうそう。大人っぽくてさ~私達とは違う感じ。何話していいか分からなかった。」

B「分かる。Aちゃんとほとんど話さなかった。」

私「そう?Aちゃん、話しやすいよ。よく笑うし、気さくだよ。」

C「そりゃ、ともかは人見知りしないで色んな人とベラベラ話すタイプだからね。」

 
私は驚いた。
三人がAちゃんに対してそんな印象だったとは。
確かにAちゃんは群れて行動するタイプではないし、積極的に人と関わるタイプではないが
私は三人が言っていたような印象を抱いたことがなかった。

そうかぁ…
みんなはAちゃんをそんな風に思っていたのか…

中学校を卒業して10年以上が経ち、ようやく私が知ったことだった。
 
 
  
その二ヶ月後、Dちゃんと二人きりでランチをした時のことだ。

D「あの日は言えなかったけど、実はさ……私、Aちゃんにずっと憧れていたんだよ。」  

私「えぇ!?」

衝撃的であった。
Dちゃんとは付き合いが10年以上経つが、初めて明かされた話だった。

 
D「同い年に思えないよ。キレイでさ、スタイル良くてさ、落ち着いててさ、笑う時も優雅でさ、同じ女と思えなかったよ。私と真逆なんだもん。」

D「今頃、どんな素敵な女性になってるのかなぁ……!」

 
知らなかった……
まさかそこまでDちゃんが憧れていたなんて。
私はそこで、Dちゃんに提案をした。

私「Aちゃん、Facebook、やってたりして!試しに調べてみようか。」

 
私はGoogleでAちゃんの名前を入力した。
なんとなく、AちゃんはSNSを嫌いそうな印象があったが
まさかの、Googleでヒットした。
しかも、顔写真付きだ。

“○○氏の元、伝統工芸を学び…”

 
私「え……………?」 

D「は!?!?」

 
Googleで引っ掛かったのは、Facebookではなく、どこかのHPのようだった。
どうやらAちゃんは卒業後に他県で伝統工芸を学んで、職人になったらしい。
簡単なプロフィールと共に添えられた顔写真は、確かにAちゃんだった。

私&D「伝統工芸!?!?」

 
軽い気持ちで調べたら、まさかの結果であった。
Dちゃんはキャーキャー騒ぎ、「かっこいい!素敵!今でも美人!」と語彙力をなくした状態で卒直な感想を述べた。

 

私は騒ぐDちゃんの横で、Facebookでも検索をかけてみた。
そしたら、Aちゃんらしき人を見つけた。
顔写真は載せていないし、本名のままではなく、多少モジッた名前だったが
恐らく、Aちゃんだった。
いや、Aちゃんだ。なかなかこの名前の人は他にいない。

  
私はメッセージ機能を使って、Aちゃんと思われる人にメッセージを送った。

思いたったら吉日、が私のモットーだ。

 

「急なメッセージで驚かせちゃったらごめんね。
お久しぶりです。元気?
小中学校が同じ真咲ともかです。覚えてるかな?

今、たまたまネットでAちゃんが活躍しているということを知り、FacebookでAちゃんらしき人を見つけたのでメッセージ送りました。」

 
確か、そんなことをメッセージしたと思う。 
すると、私とDちゃんが会っている間に返信はあっさり来た。
やはり、ネットで載っていた通り、今は伝統工芸の職人として働いていて、Facebookは本人だという。
しかもちょうど近々、展示会&販売会をやる予定で、会場に彼女も来ると言うことだった。

なんという、いいタイミング。

 
私「ねぇ、久々にAちゃんのところ、行ってみようよ!ちょうどその日、私仕事休みだわ。」

D「行きたかったけど、その日仕事だわ…。私の分もよろしく。どんな様子だったか後で教えて。」

 
  
 
そんなこんなで、私は急遽他県に、旅行がてら行くことになった。

3月だがその日は寒く、私はセーターやダウンを着た。電車から降りた瞬間に冷たい風が吹く。

 
 
展示会&販売会の会場は駅から近く、地図に従っていくと、その場所はすぐに見つかった。
ポスターや看板が、入口に分かりやすく飾ってあった。

「こんにちは~…」

私は室内に入った。
対応したのは、係の男性だった。


そこには彩りの作品が並んでいた。
複数人の職人さんの名前と共に作品がキレイに飾ってあり
私ははやる気持ちを抑えて
順番に、順番に丁寧に見ていった。

あ!
あった!!
これだ!!!

Aちゃんの作品をようやく見つけた時、私は感動で涙が出そうになった。
ベテランの人々の作品の中だろうと、他の作品が難しい技法を使っていようと、私にとってはAちゃんの作品が特別だ。
一通り室内を眺めた後、私は再びAちゃんの作品の前で立ち止まり、私は作品に見とれていた。

「ともかちゃん!遠くから来てくれてありがとう!」

私はその声で後ろを振り向くと
そこにはAちゃんが微笑みながら立っていた。
 
 
「Aちゃん!久しぶり~!!」

 
私は私で、笑いながらAちゃんに近づいた。

 
 
前もって行く日や時間を伝えておいたことや展示会初日ではないことで
Aちゃんとは、話す時間があった。
Aちゃんは私にお茶とお茶菓子を用意してくれて、二人でお茶会をすることになった。

 
小中学校が同じだったのに、学校外で会うのは初めてで
中学校卒業以来会うのも初めてで
しかも今、私達は他県で再会を果たしている。

人生とは実に面白い。

 
 
緩やかな淡いグレーのニットワンピースは、Aちゃんによく似合っていた。
顔は変わらないが、大人びた雰囲気になり、だけど彼女は本当によく、笑った。

中学時代のこと、そして近況を
お互いに、とどまることなく話した。

私もよく話すが、Aちゃんもよく話す。
活き活きとニコニコと話すAちゃんを見て、私は友人が言っていたAちゃんの印象が頭に浮かんだ。

 
近寄りがたい感じで、私達とは違う、ねぇ…
うーん………やっぱり再会しても、その印象は抱かない。

  
 
私達が話していると、男性が姿を見せた。

A「親方。こちらが、小学校時代の友人です。今日は申し訳ありません。」

親方「いやいや、久々の再会なんだろう。こちらは手が足りているから、ゆっくり話していていいよ。」

私「こんにちは。今日はお忙しい中、申し訳ありません。」

親方「いやいや、わざわざ他県から訪ねてきてくれて嬉しいです。伝統工芸、ゆっくり見ていってください。」 

 
親方と呼ばれた方は、頭だけ下げてその場から去った。

親方かぁ……かっこいいなぁ。
そうか、職人の世界では、上司は親方と呼ばれるのか。

私は親方に思いを馳せた。

 
 
そんな時に、Aちゃんは口を開いた。

A「ともかちゃんは今、何やってるの?」

私「障がい者の福祉施設で働いてるよ。」

A「卒業文集でも福祉職に就きたいって書いていたもんね。ボランティアにも行っていたし、夢叶えたんだね。」

 
……私が卒業文集に書いたことやボランティアに行っていたこと、よく覚えていたなぁ。
私が内心そう思っていた時に、Aちゃんは言った。

  
A「私ね、ずっとともかちゃんに憧れていたの。私、こんな性格で、なかなか人と上手くやれなくて…言いたいことも上手く言えなくて。
でも、ともかちゃんはいつも輪の中にいた。人が集まってて、みんなを笑わせていたよね。すごいなぁって思ってた。
あの頃、私に対等に声をかけてくれたのは、ともかちゃんくらいだった。
だから、ともかちゃんが福祉職志した時は、ともかちゃんらしいなって思ったし、今夢を叶えたともかちゃんを見て、やっぱりすごいなぁって思った。
適職だと思う。利用者さんは幸せ者だね。」

 
…私は思いがけない言葉に涙ぐんだ。
まさかAちゃんが、そこまで私を思ってくれていたとは思わなかった。
人生思い通りにいかないことはたくさんあるし、職場でも理不尽な思いをすることもそれなりにあった。婚約破棄もした。
人間関係だって、私を嫌う人はもちろんいるし、合わない人だっている。
人間に疲れる時もある。
だけど。

 
小中学校から私を知っている人が、久々に再会した私に対して
そこまで思ってくれて
そんな風に言葉にしてくれて
私は本当に嬉しかった。

  
 
伝統工芸の職人は、誰にでもできることじゃない。
生まれ育った街から遠く離れ
修行の日々はそれはそれは大変だろう。
必要なものは技術だけでなく、努力や根気は並大抵のものじゃないはすだ。
 
だけど彼女は愚痴一つ言わず
活き活きとしていた。
眩しいくらいに輝いていた。

そんな彼女に褒めてもらえたことは、私の自信に繋がった。

  
 
午後からは忙しくなるとのことで
一~二時間お茶をしてから、私は席を立つことにした。
私は彼女の作った作品を購入し、Aちゃんは私に特産のお菓子をお土産に渡してくれた。

最後に、係の人に頼んで、携帯で写真を撮ってもらった。
そこには、笑顔の私達が写っていた。

 
同じ街で生まれ育った後
故郷にそのまま留まった私と、遠く離れて暮らす友人。
福祉職に就いた私と、伝統工芸の道に進んだ友人。

   
あの頃、背の順一番後ろと二番目コンビは
こうして道は別れたけれど
それぞれの道を懸命に歩いている。

そしてお互いに元気でいて
こうして笑顔で再会できた。
 
 
これが私とAちゃんの、約15年ぶりの再会だった。

 
 
 
 
Aちゃんと別れた後、私は彼氏と合流し、他県の観光を楽しんだ。
観光しながらも、私の胸はAちゃんのことやAちゃんの言葉でいっぱいだった。
 
「久々の再会、どうだった?」

私はとどまることなく、興奮しながら彼に伝えた。
それを嬉しそうに微笑みながら、彼は話を聞いてくれた。
そうして、一緒に地元に帰った。

 
自分の元の暮らしへ。自分の家へ。自分の故郷へ。

 
人との出会いや別れ
小中学校時代
そして今に
思いを馳せた。

 
あの頃はまだ出会っていなかった彼が
今こうして隣にいる。 
そして笑いながら、私の当時の話を聞いてくれる。

全ては縁だと思った。  
今、私を支える縁や恵みに心から感謝する。

 
 
 
  

あれからまた、時は流れた。

まさかあの頃は、こうして他県に気軽に行けない時代が来るとは、思ってもみなかった。
お互いに忙しくなり、友達同士で段々と集まることはなくなっていた。
あの時付き合っていた彼とも別れた。

変わるものと変わらないものを抱えながら 
私達は今を生きていく。
 
 
彼女の作品を手に取りながら、あの日のことを思い出す。
彼女は元気だろうか。今笑っているだろうか。

 
離職をしてから、上手く未来が思い描けない今の私を見ても、Aちゃんはそれでも言ってくれるだろうか。

「私はともかちゃん、福祉職が適職だと思うよ。」

と。

  




 

 




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