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モリノダイチ。漫画を描いています。単行本『アイコン』(青林工藝舎刊)。queer/文章…

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モリノダイチ。漫画を描いています。単行本『アイコン』(青林工藝舎刊)。queer/文章、ドローイング、インスタレーションなど。

最近の記事

私の隣で

ラファへの攻撃以来自分の中で何かが壊れた。 本当に、一つの民族が消滅する。 まるで収容所の中を覗くみたいに、スマホの画面から殺されて死んでいく人たちを毎日目撃している。みんな知ってるのに、アメリカもイギリスもドイツも日本も、イスラエルを黙認し続けている。 「作家にできることは作品の中で伝えることだ」と友人は言った。自分もそう思ってた。けれど、その作品は一体いつ完成するんだろう。完成する前に、彼らは一人残らず殺されてしまうのではないか。作ることは声を上げない理由にはならな

    • 生まれ落ちた(2020)

      K「子供?」 M「うん、自分の子供。」 K「今はあまり、考えたことないかな」 M「僕は男だから子供を産むことができない」 K「うん」 M「でも、いつか男性も妊娠できるようになるっていう記事をネットで読んでから、男性の妊娠について調べるようになった。」 M「そこには子宮を移植して、帝王切開で出産する方法とか、単為生殖っていう男性だけで子供を作ることができる科学技術だとか、嘘か本当かもわからないものまで書いてあったけれど、でも今は、それを読むのが趣味みたいになって

      • Phantosmia(2019)

        台風が近づき、時折強い風が窓を震わせた。 棚の上に置いてあるグラスが、カタカタと音を立てている。 今夜、家は台風に飲み込まれてしまうというのに、僕はある時からずっと、奇妙な匂いがし続けている。 自転車に乗っていても、どこにいても、いつも同じ匂いが僕の周りをつきまとっている。 この匂いが、僕の内側にあるのか、外側にあるのかわからないけれど、僕だけが、その匂いを感じることができる。 そっと自分の鼻をつまんでみる。一瞬その匂いは消えたような気がするが、やはりまだ、僕の中に残っ

        • Flashing Body(2018)

          その夜、この小さな部屋の中で、隣で眠る彼の寝息を聞きながら僕は、彼の体をぼんやりと眺めていた。 ふと、彼の体が、点滅する機械のように見えた。赤く点滅する彼の体は、真っ暗なこの部屋の中に、いくつもの小さな明かりがあることを、僕に気付かせた。 テレビもWi-Fiのルーターも、そして僕たちも、この部屋の中で、静かに呼吸をしているんだと、そんなことを思いながら僕は、ゆっくりとまぶたを閉じて、僕の体が光っていることを確認してみた。 “僕の中にいる女が、 ここに、 確かに存在してい

        私の隣で

          2017年-5

          自分の体の中身を想像してみる。 そこには内臓など無くて、冷たい機械が薄い薄い膜で覆われているような、今にも突き破って出てきてしまいそうな、ギリギリのところで、僕は僕の形を保っている。 彼の肌に触れると、自分の体が冷たくなっていることに気がつく。 とても、とても冷たくて、こんなにも冷たい僕がどうしようもなく恥ずかしくなってしまうから、僕はまた、人間のフリをして、好きかもわからない男と眠っている。 - 隣で彼は、スマホばかりをじっと見ている。 こんなにも近くにいるのに、

          2017年-5

          2017年-4

          今でもこの道を通ると、あの女性がいるような気がする。この道で女性は体を失い、だけど、意識だけは今も残されたままだ。 目には見えなくても、女性はこうして漂っていて、死ぬことで、世界の一つになった。 - 僕の体を切り裂けば、硬くて重い機械が現れるだろう。さらに内部をかき分けると、僕は、僕の中の女と出会う。 僕は人間なのか機械なのか、男なのか女なのか、もうわからなくなっていて、意識みたいなものだけが取り残されている。 鏡に映る姿は僕ではなくて、体はただの表面で、その表面は

          2017年-4

          2017年-3

          夜、コーヒーを買いにコンビニへ行こう。 サイレンが聞こえる。 何台ものパトカーが街を赤く染めている。 立ち尽くす僕の耳に、誰かもわからない声が、途切れながら聞こえる。 - 帰ってからTwitterを見ると、もうその情報は流れていて、1時間前にトラックが轢き逃げをしたらしかった。ぶつかった女性は、その場にいた人が心臓マッサージをして、そのまま病院に連れて行かれた。道路に付着した血痕を検証する数人の警察官。それを見物する幾人かの人。 耳の中で、まだサイレンが聞こえる。

          2017年-3

          2017年-2

          彼の長い腕で、小さな僕の体はすっぽりと収まって、彼の大きな右手が僕の指先に触れると、彼は気づいたように手を取り、指と指を重ねた。 繋がれた第一関節に、意識の全てが集中する。僕と彼は今、この第一関節の中にいる。 - スマホの画面には、あなたが映っていて、私があなたに語りかけると、あなたは少し笑ったような気がした。私の手のひらにすっぽりと収まったあなたに触れたいと思う。 まずは指先で、そっと頬を撫でる。ゆっくりと指先を動かしながら、あなたの唇に触れる。何度も何度もあなたの

          2017年-2

          2017年-1

           彼の部屋には、鉄棒のような大きな筋トレ器具があって、決して広くはないワンルームの中に、それだけが居心地の悪そうに置かれていた。彼はこれで毎日体を鍛えるのだと言う。 「もっと筋肉をつけたいんだ」 そう話す彼は、台所に置かれたプロテインを毎日飲んでいる。 彼の体を見ながら僕は、彼の鍛えられたその肉体が、女に向けられることはないのだと、そんなことを思っている。 - 口の中に入れられた舌の、少しデコボコした表面と、出てくる粘膜が合わさって、次第に何をやっているのかわからなく

          2017年-1