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日記の練習

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#読書日記

御茶ノ水橋で橋上の人となる(日記の練習)

御茶ノ水橋で橋上の人となる(日記の練習)

2023年7月29日(土)の練習

 東京古書会館「中央線はしからはしまで古本フェスタ」二日目(最終日)に行く。明け方に寝たので起きた頃には夕方だろうと思っていたのに、九時前にすっと起きてしまったので、二度寝は諦めてお昼前には神保町へ。
 一日目(初日)は金曜日開催にもかかわらず開場前からひとが殺到したそうで、夕方にはほとんど空っぽの棚もあったようだ。いくつかの古書店は朝から本を補充した旨の投稿を

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次の一夏(日記の練習)

次の一夏(日記の練習)

2023年7月26日(水)の練習

 明日の仕事で気もそぞろで、仕事のことで仕事が進まない。

 米川千嘉子『一夏』(河出書房新社)を読み終える。格式ある文語体と強靭な修辞力に圧倒される歌集。そのうえで甘やかな詩的世界を仮構するのではなく、生活から目を逸らさない姿勢が、いくつもの秀歌を生んでいた。歌集を読んで居住まいを正されたのは、もしかしたらはじめてかもしれない。あとがきのかわりに巻末に付されて

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購った本のことしか話したくない(日記の練習)

購った本のことしか話したくない(日記の練習)

2023年7月23日(日)の練習

 秋葉原のブックオフに行く。ひさしぶりに収穫が多い。
 いちばん嬉しかったのは『青山二郎全文集(下)』(ちくま学芸文庫)。昨年、秋葉原のブックオフで上巻だけ購入して以来、一年半かけてようやく下巻の単品に巡り会えた。それが同じ店というのは縁を感じる。そもそも昨年の冬の日、先に新宿で下巻を見つけたのがよくなかった。数日後に秋葉原で上巻を見つけて、これで上下巻が揃うと

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再読と満腹(日記の練習)

再読と満腹(日記の練習)

2023年7月22日(土)の練習

 中学生以来、北村薫『夜の蟬』を再読する。読み返してみると、当時は気づかなかった語り手である〈私〉の心情の揺れや機微に改めて気づくことも多く、楽しい。
 主題に呼応するよう随所に仕込まれたモチーフの転がし方、それに日常への観察にねざしたささやかな謎と解決で、ほとんどドラマチックなことが起こらないなか中編の分量を読ませるのだから、この巧みさは脱帽するほかない。むし

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本を読むひとたち(日記の練習)

本を読むひとたち(日記の練習)

2023年7月21日(金)の練習

 行きは大岡昇平『野火』を、帰りは沼正三『家畜人ヤプー 第二巻』(幻冬舎アウトロー文庫)を読んでいるひとをそれぞれ見かける。『野火』は背に図書館のシールが貼られてあって、新書判の見たことのない版だった。『野火』は文庫版だけでも知る限り品切を含めて四つは版がある。三年前に神奈川近代文学館の「大岡昇平の世界展」を見た時、展示されていた文芸誌〈展望〉1951年1月号に

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他愛のない空腹(日記の練習)

他愛のない空腹(日記の練習)

2023年7月20日(木)の練習

 九州に住んでいる友人(交換日記のメンバーでもある)が他愛ないメッセージを送ったあと「こういうのを日記で書けばいいのか!」と天啓を得ていた。その通りだと思う。しかし、この他愛ないけど聞くとちょっとくすっとなる話を濃縮還元して文章に落としこむのが難しい。

 くどうれいん『桃を煮るひと』(ミシマ社)をようやく読み始める。日記を書き始めて改めてエッセイを読むと、文章

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瓦礫の音(日記の練習)

瓦礫の音(日記の練習)

2023年7月19日(水)の練習

 近所の家が解体工事をしている。私の部屋にも音が届く。
 朝はそれほどはやくないので、最近は目覚まし時計の音よりも先に朝八時から始まる工事の音で目が覚める。
 かつて家のあったその場所を夜になって通ると、住宅地のなかをいったいどのようにしてはいってきたのか、それほど広くない敷地面積のなか瓦礫のなかに重機が置かれている。動いていない重機は、いつもどこか眠っているよ

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鹹湖(日記の練習)

鹹湖(日記の練習)

2023年7月18日(火)の練習

 夜、九州に住む友人から「鹹湖」の読み方を訊ねられる。「鹹水」という言葉もあるし「かんこ」ではないかと返すと、塚本邦雄の歌集『水葬物語』を読んでいたらでてきたという。

 遠い鹹湖の水のにほひを吸ひよせて裏側のしめりゐる銅版畫

 辞書を引くと鹹湖すなわち塩湖とある。第一回高村光太郎賞を受賞した詩人の会田綱雄にも『鹹湖』という詩集があるらしい。
 どういう評釈が

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古本を買う、肉を焼く(日記の練習)

古本を買う、肉を焼く(日記の練習)

2023年7月15日(土)の練習

 昼前に起きて三鷹に向かう。昨晩三鷹のりんてん舎が終業後SNSに入荷した古書を写真で投稿していたからた。ほとんどが歌書で、何十冊と積まれたなかには塚本邦雄『装飾樂句』(作品社)や小池純代『雅族』(六法出版社ほるす歌書)や高島裕『旧制度』(ながらみ書房)など、見かけるのは稀なものがいくつもまじっていた。とりわけ『雅族』は実店舗の入荷で見かけたのは初めてかもしれない

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見知らぬ乗客(日記の練習)

見知らぬ乗客(日記の練習)

2023年7月13日(木)の練習

 夜、職場のひとに電車が遅延していると教えられる。それなら遅延が解消される頃まで仕事をして帰ろうと思ったら、あっという間に終電の時間に。遅延のこともすっかり忘れていつものように会社を出て駅まで歩くと、電光掲示板の次発電車に発車予定時刻が表示されていないところでようやく思い出す。見立ては甘く、遅延は解消されないまま通常の倍の時間をかけてようやく乗り換えの駅に着いた

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夏の一冊が決まる(日記の練習)

夏の一冊が決まる(日記の練習)

2023年7月12日(水)の練習

 塚本邦雄『夏至遺文 トレドの葵』(河出文庫)を読み始める。
 毎年その夏を一緒に過ごす、読み終えてからも夏が終わるまでいつも携えて繰り返し頁をめくる「夏の一冊」をえらんでいて、その一冊を『夏至遺文 トレドの葵』に決めた。電車のなかで読み始めて、夏にうってつけの物語でも涼やかな読み心地でもないことを改めて確認して(そんなものを塚本邦雄の小説に求めはしないのだが)

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臓器を切除された文章(日記の練習)

臓器を切除された文章(日記の練習)

2023年7月11日(火)の練習

 日記を書いていると、そのうちのひとつの話題が長くなって、これでひとつの文章にまとめてしまったほうがいいような気がしてくる。そうして日記から切り離してみると、始まりも終わりもない文章の断片が横たわっていて、それらがすこしずつふえていく。

 気になったのでUrsula Kroeber Le Guinの日本語表記について調べる。日本国内での最初期の紹介はやはり早川

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ふたりぼっちの歌集読書会(日記の練習)

ふたりぼっちの歌集読書会(日記の練習)

2023年7月10日(月)の練習

 新刊書店に行く。一週間以上も空くと、実にひさしぶりに感じられて胸が高鳴る。大濱普美子『猫の木のある庭』(河出文庫)、塚本邦雄『夏至遺文 トレドの葵』(河出文庫)、フィリップ・フォレスト『さりながら』(白水社)を購う。

 本来の目当ては『猫の木のある庭』と『さりながら』。今月刊行された『猫の木のある庭』は著者の第一作品集『たけこのぞう』(国書刊行会)の改題文庫

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だいたい競馬の感想(日記の練習)

だいたい競馬の感想(日記の練習)

2023年7月9日(日)の練習

 プロキオンステークスと七夕賞をテレビ中継で観る。プロキオンステークスは、頭抜けて一番人気のリメイクかと思いきや二番人気のドンフランキーが逃げ切り勝ち。最終直線で馬群を抜けたリメイクが追い上げてきて二頭の一騎打ちとなるが、ゴールまでこの差が縮まらない。ドンフランキーからすると危なげない勝利。先頭でうまいことじぶんのペースに持ち込んで最後まで持ち込む、逃げ馬の理想的

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