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ふたりぼっちの歌集読書会(日記の練習)

2023年7月10日(月)の練習

 新刊書店に行く。一週間以上も空くと、実にひさしぶりに感じられて胸が高鳴る。大濱普美子『猫の木のある庭』(河出文庫)、塚本邦雄『夏至遺文 トレドの葵』(河出文庫)、フィリップ・フォレスト『さりながら』(白水社)を購う。

 本来の目当ては『猫の木のある庭』と『さりながら』。今月刊行された『猫の木のある庭』は著者の第一作品集『たけこのぞう』(国書刊行会)の改題文庫化だが、金井美恵子の解説が収録されているので単行本で持っている身としても嬉しい。金井美恵子は『陽だまりの果て』(国書刊行会)が第五十回泉鏡花文学賞を受賞した際の記者会見でも選考委員を代表して講評を述べていたので、選考にあたっても大濱普美子を推したのだろう。
『たけこのぞう』は羊皮紙のようなほのかに透き通った紙に蛇の鱗を思わせる模様が浮かぶ謎めいた装丁で、この名前も出自さえもわからない(同書の著者紹介にもほとんど何も書かれていなかったのだから仕方ない)作家をさらに謎めかしていた。文庫化された『猫の木のある庭』は『陽だまりの果て』と同じ大久保伸子による装丁で、これはこれでお澄ましした感じが好きだ。文庫の帯に(おそらく)金を使っているのも贅沢で、黒を基調としたカバーデザインによく映える。何より『たけこのぞう』が文庫化されるとは、思ってもみなかった。十年前の私に教えてあげたい。

『夏至遺文 トレドの葵』に関しては本来購入の予定はなかったが、そもそも先月を忙しなく過ごしたせいで買い逃していたことが痛恨。『十二神将変』の再刊から始まった『紺青のわかれ』『菊帝悲歌 小説後鳥羽院』に続いて塚本邦雄の小説がまた新たに文庫化されたことを祝う気持ちで購う。『夏至遺文』『トレドの葵』ともに古書では相見えることがないままだったので、これもまた塚本邦雄の小説を血眼になって探していたかつての私に教えてあげたい慶事だ。しかし、瞬篇小説で一冊を編むなら『黄昏に獻ず』(大和書房)も併せて収めてもよかったのではないかとは思わないでもない。

 夜は、九州に住んでいる友人と、ふたりぼっちの歌集読書会。課題図書である花山周子『風とマルス』(青磁社)について、一対一で三時間ほど話す。最近はあらかじめ十首を選んで見せ合ったうえで話すのだが、今まで選んだ十首が重なったことがなかったとはいえ、それでも半分くらいは腑に落ちるというか、こちらも篩いにかけるうえで途中まで残っていた歌がいくつかあった。しかし、今回は実のところ「なぜこの歌を選んだのだろう?」と意図がはかりきれない歌が多かった(これは友人からしても同じだったらしい)。もしかしたら『風とマルス』という歌集そのものに対して受けた印象や読んだ感想からまるっきり異なる……つまるところ、まったく話が嚙み合わないのではないかとすこし恐れていたが、歌集から受けた印象こそ異なるものの、その違いがすこしずつわかってくると徐々に歯車も嚙み合って後半につれて加速度的に歌の理解も深まった(気がする)。今回もまた盛会のうちにふたりぼっちで終わった。
 読書会が終わったあとは次の課題図書の相談。次回の課題図書は永田和宏『メビウスの地平』(第一歌集文庫)に、次々回の課題図書は友人の提案で中津昌子『むかれなかった林檎のために』(砂子屋書房)に決まる。その後の雑談は四月期のテレビアニメの話題になって『彼女が公爵邸に行った理由』を薦められる。

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