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神を殺し、超人へと生まれ変わった『バズ・ライトイヤー』は、ニーチェ的映画

つい先日、Youtubeでの特集配信も終わったのですが、それだけでは話し足りず、こちらでも記事にいたします。

『バズ・ライトイヤー』

Youtube配信では今作の『E.T』や『エイリアン』『アポロ13』など名作へのオマージュを語ったり、この映画は反『バック・トゥ・ザ・フューチャー』反『ドラえもん』映画なのだ!ということを語りましたが、この記事ではバズが活躍する本来の『トイ・ストーリー』シリーズの現時点での最終作『トイ・ストーリー4(以下:Toy4)』との共通性や親和性を語っていこうと思います。

この記事は現在公開中の『バズ・ライトイヤー』と『Toy4』、そして若干『ブレードランナー』シリーズのネタバレをしますのでご注意ください!

■『Toy4』は『ブレードランナー』と同じ自由への闘争(逃走)の物語だ!

『バズ~』のレビュー記事なのですが、その前に『Toy4』のお話を。

この『Toy4』は前作『Toy3』の完成度と結末があまりに多くの人を感動させた傑作なので「その後の話を観たくなかった」と批判的評価が多かった作品でもあります。ですが僕自身この『Toy4』という作品がシリーズで最も好きで、なぜなら『Toy4』はオモチャたち自身の自由への戦いの物語だからです。

『Toy3』までのウッディーやバズ、その他のオモチャたちは皆、自分たちが居るべき場所や持ち主の存在に執着していました。

物語の中でしばしばアンディの家を飛び出し、外の世界を冒険する彼らですが、必ずアンディの家に戻ろうとします。彼らはアンディのオモチャであるという絶対的なアイデンティティを重んじ、それはまるで神を信仰するが如く、あるいは隷属的に屈せざるをえない呪いであるかのように、彼らを突き動かします。

しかし、そのアイデンティティがアンディが大学生になる『Toy3』で一旦は崩壊しかけますが、別の持ち主が現れることでおもちゃの役割である"子供を喜ばせること"という使命は継続されます。

この『Toy3』の結末を幸せなことだと感じられたのは、オモチャには持ち主がいないと廃棄されるという宿命を皆、信じて疑わず、それは「体のいい延命」だと感じなかったからです。

そして『Toy4』ではついに、その"家の呪い"からオモチャ達は解き放たれます。

彼らは「誰かのための自分」ではなく「自分が生きるうえでどう子供(=世界、あるいは神)たちと繋がるか?」という、もはや人類でも答えの出ない命題を突き付けられ、"家"や"持ち主"という今まで存在していた(そう感じていた)絶対的な価値観が崩壊し、生きる目的の矛先が己の人生に転嫁していったのです。

「神は死んだ」という一説はキリスト教的な価値観や迷信、非科学的な信仰、あらゆる前時代的な古きしきたりに関しての批判を象徴するニーチェの言葉ですが、それをトイ・ストーリーという作品世界に落とし込んだのが『Toy4』という作品です。

ニーチェ

オモチャたちを縛る神=家や持ち主という価値はそこで死んだのです。

それは人間の為に作られた人造人間であるレプリカントが、自らの人生に目覚め、人類に反旗を掲げた『ブレードランナー2049』に酷似しているようにも感じます。

『ブレードランナー』と決定的に違うのはおもちゃ達はあくまで子供や人間の為に努力することを忘れないので『チャイルド・プレイ』のチャッキーのように殺しにやってきたりはしませんが……。

■バズが捨てた神とは?

さてやっと本題です!ここから今作のネタバレなのでご注意ください。

この映画はある意味ではタイムスリップ物になってます。詳細はYoutubeでお話ししましたが、あり得たかもしれない未来の自分(未来のバス)がやってきて、過去に侵した重大なミスを修正しようと試みます。

そのミスのせいでバズやアリーシャを含む地球人たちは居住可能だが、危険な植物や昆虫のいる惑星に取り残されてしまいました。

しかし主人公のバズはその重大な失敗を乗り越えて来たからこそ、仲間ができ、成長し、今の自分があること気がつきます。

この映画の本質は「失敗を犯さない人生」と「失敗を乗り越えて成長する人生」のせめぎ合いの物語であり、バズは自らの失敗を受け止め、そこから成長する人生を選択します。

そこがこの映画の大感動のポイントなのですが、もう一つ重要なのはその"失敗しない人生"を選んだ場合、主人公バズを含めた1000人を超す地球人は地球へ帰らない(帰れない)ことを決断すると同義だということです。

ここで話を再び『Toy4』へ戻しますが、オモチャたちが囚われていた"家"や"持ち主"という神の如く絶対的な存在は、彼らの自立によってその価値の焦点が"自分"へと変動したことでその呪縛から解放されたように、今作『バズ・ライトイヤー』では、"家"や"持ち主"という上位存在が"地球"へとすり替わっており『Toy4』同様に自立と「自分の過去をも肯定する」という価値観の変動によって地球という呪縛から解放されるのです。

これはまさにニーチェの唱えた概念の「超人」であり「永劫回帰」です。
どんな人でも人生で最高だと思える瞬間や、自分の人生を肯定できる瞬間があると思います。それが一度でもあるとして、あなたは全く同じ人生を何度も繰り返せるでしょうか?

ニーチェはその問いに「はい」と答えられる者を "超人" と称し、同じ人生でも何度でも繰り返すことをいとわない状態を "永劫回帰" と定義しています。

「この瞬間が再び訪れるなら、このために何度も同じ選択をし、同じ過ちを通過し、同じ人生を全うしたい」そう感じることは、なかなか困難ですが、今作『バズ・ライトイヤー』のバズは、未来から歴史修正をしに来たもう一人のバズと対立し、過去を受け入れる選択をします。

この主人公のバズは過去を受け入れ、そこから脱却することで地球という重力からも解放され、新しい世界で新しい自分になったわけです。おそらく彼は「もう一度、全く同じ人生を生きたいか?」という問いにきっと「Yes」と答えるだろうと思う。

そう言わせるほど、彼の成長と戦いは人生を肯定させてくれる経験であり、そんな作品を見る僕に(願わくば多くの観客に)そう思わせてくれる最高の『トイ・ストーリー』シリーズ最新作でした。最高!


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