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『Live or Die?』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

「わあああっ!」
 客席が三人の登場に大いに盛り上がる。大きなホールだがほぼ満席だ。さきほど道でチラチラと人に見られていたのはこういうことだったのか。アユミちゃんが声を上げる。
「それじゃあ、一曲目行きます! 『恋は前進あるのみ!』!」
「わああー!」
「きゃあー!」
 一曲目から凄い盛り上がりだ。早くも総立ちになった客席の皆はペン型のライトを思い思いに振っている。青色、緑色、赤色の三色のライトが暗くなった会場を色とりどりに彩る。そういえば、映像で見たことがあるかもしれない。これがアイドルコンサートってやつなのか。しかし、あのライトを持ってないと、結構な疎外感を感じるな……。仕方がないので、手拍子で我慢しておく。そうこうしているうちに一曲目が終わった。
「どうもありがとうー! 続いて、『序盤、中盤、終盤、スキしかない!』!」
「うわああー!」
 二曲目もアップテンポなナンバーだ。ステージ上の三人が、客席に呼びかける。客もそれに応える。そういうやりとりを何回か繰り返す。ああ、これが『コール&レスポンス』ってやつか。こういうのもしっかり覚えておくと、より楽しめるのかもな。
「ありがとう! 次は『恋愛に定跡なし!』!」
「うおわああー!」
 三曲目もアップテンポなナンバーだ。たたみかけるような流れに客席のボルテージは早くも最高潮だ。ステージ上の三人もそうだが、客側の体力や熱気もすごいな。皆この日を楽しみに待っていたのが、よく伝わってくる。俺も自然と拳を突き立てていた。
「……はい! どうもありがとう!」
 曲が終わると、アユミちゃんたちがステージ袖で水分補給をした後、すぐにステージに戻ってくる。自らの呼吸を整えつつ、客席の興奮がある程度治まるのを待ってから、アユミちゃんがゆっくりと話し出す。
「……はい、皆さんこんばんは!」
「こんばんはー!」
「ははっ、元気が良いですね~。それでは自己紹介をさせて頂きます。『千里の道も一歩から、夢に向かって一歩前進!』 アユミ=センリです!」
「アユミちゃん~!」
 青色のライトが一斉に振られる。アユミちゃんは小さい子たちにも人気があるようだ。見るからに優しいお姉さんって感じがするもんな。
「はい……『どんな高い壁でもピョ~ンとひとっ跳び! 私に超えられないものなどありません!』 ケイ=ハイジャです!」
「ケイちゃん~!」
 緑色のライトが一斉に振られる。ケイちゃんは同姓からの人気も高いようだ。クールな雰囲気を漂わせているもんな。ピョ~ンはちょっと意外だったが、ギャップってやつかな?
「は~い♪ 『嫌なこと全部、槍で貫いちゃうよ? 覚悟は出来た? ロケットのように突き抜けるから遅れないでね?』 コウ=マクルビです!」
「コウちゃ~ん!」
 赤色のライトが一斉に振られる。コウちゃんのファンは男性が多いようだな。スタイルもそうだが、友達っぽい感じがあるもんな。槍ってワードがどこから出てきたか分からんけど。
「はい、改めまして、わたしたち……」
「「「ギャラクシーフェアリーズです‼」」」
「ぬうおわああっ!」
 三人が揃ってポーズを決めると、客席から声にならない歓声が上がる。再び興奮が治まるのを待ってからアユミちゃんが笑いながら話す。
「ふふっ、皆さん、元気一杯でわたしたちもとっても嬉しいです。ライブはまだまだ続きますので、どんどん盛り上がっていきましょう!」
「うおおっ!」
「それでは続いての曲……『貴方への包囲網』!」
「うおおおっ!」
 自己紹介が終わり、四曲目が始まった。客席は興奮しっぱなしだ。それから数曲続き……。
「『命と命のぶつかり合い!』!」
「ん?」
「『決死!恋愛大合戦!』!」
「んん?」
「『詰めの甘さが死に直結!』!」
「んんん?」
 俺は客席で首を捻る。一通り曲が終わると、三人がステージ袖に引っ込む。
「……アンコール! アンコール!」
 客席からアンコールが飛び出す。これもなんとなく知っている。ライブやコンサートの定番の流れだな。しばらくすると、Tシャツに着替えた三人がステージに戻ってくる。
「うおおおおっ!」
 客は大興奮だ。三人はまた二曲ほど歌う。そして、アユミちゃんが話す。
「はい! 今日はどうもありがとう! 続いてが本当に最後の曲です!」
「えええっ!」
「聞いて下さい、『Live or Die?』!」
「わああああっ‼」
「……また皆さんどこかで必ず会いましょう! 今日はありがとうございました‼」
 曲が終わり、アユミちゃんが高らかに叫んで、ライブは終わる。
「どうだったかしら?」
 ライブ終了後、楽屋に呼ばれた俺はケイちゃんから感想を求められた。
「……こういうのは映像とかでしか知らなかったけど、すごい楽しかったよ!」
「そう、それは良かったわ」
「なんていうか……すごくパワーをもらった、元気になったよ!」
「わあ、それは嬉しいです……」
 俺の言葉にアユミちゃんが両手を胸の前で合わせて笑顔を浮かべる。
「客席には人類の他に異星人も沢山いたね! 驚いたよ!」
「へへっ、アタシらの魅力は銀河を超えるからね~♪」
 コウちゃんが鼻の頭を擦る。
「だけど……」
「だけど?」
「まだまだ改善の余地があると思う」
「なんですって?」
 俺の言葉にケイちゃんの顔が険しくなる。俺は思っていたことを口走り始めていた。
「まず、あの……ペンライト? 一本で三色発光出来るようにした方がいい。スイッチ一つで変えるイメージだ。後、コール&レスポンスや簡単な振り付けはもっと広く周知した方が良いと思う。今一つノリきれなくて寂しそうなお客さんがチラホラいたからね」
「ほ、ほう……」
「それと少し言い辛いけど……皆のパフォーマンスかな」
「は? なにか問題が?」
 ケイちゃんが俺を睨む。
「踊りが揃っていないところがあったし、歌もハモれていなかったところがあった。踊りながら生で歌うってのはすごいと思うし、不揃いっていうのもいわゆる味なのかもしれないけど、せっかくならキッチリ合わせるようにした方が良い。体力がキツイならMCのパートをもっと増やして、休める時間を増やすとか、セットリストを見直してみるべきだと思う」
「む、むう……」
 ケイちゃんが腕を組む。
「後は……いくつかの曲名かな。『死』とかはイメージ的にあまりよろしくない」
「『Live or Die?』は定番曲で、わたしたちにとって大事な曲です!」
 アユミちゃんが声を上げる。俺は戸惑いつつ続ける。
「そ、そうなんだ……まあ、一曲くらいは良いかもしれないけど、再考した方が良いかな……なんていうか、殺し屋感が表に出ちゃってるからさ」
「問題なくない? あっちが世を忍ぶ仮の姿なわけだから」
「そ、そうなの?」
「うん」
 コウちゃんが飲み物をストローで飲みながら頷く。俺は頭を掻く。
「普通は逆だと思うんだけどな……まあいいや、俺が思った改善点はざっとこんな感じ。なにかの参考になれば、あくまで素人意見だけど……」
「……」
 ケイちゃんが黙り込む。俺は慌てる。
「い、いや、ライブは全体的にとても良かったよ! ただ、もっともっと良くなる余地があるなって感じたからさ! もったいないなって思って!」
「もっともっと良くなる……」
 アユミちゃんが呟く。俺はさらに慌てる。
「く、繰り返すけど、あくまでも一素人の意見だから!」
「ケイさん……」
「ええ……」
 アユミちゃんとケイちゃんが目を合わせて考え込む。マズい、雰囲気悪くしちゃったかな? どうにかしないと……。そこでコウちゃんがポンと両手を叩いて声を上げる。
「まあ、小難しいことはいいじゃん♪ 打ち上げに行こうよ~」
「打ち上げ?」
 俺は首を傾げる。
「うん、さっきの賞金も含めて今日は結構なギャラが入ったからね~ちょうどこのホールの隣が高級ホテルだし、豪勢に行っちゃおうか~♪」
「豪勢に?」
「そうだよ」
「例えば何を食べる気だい?」
「え~そりゃあやっぱりお肉っしょ♪ 肉肉肉……肉祭りだよ」
「……ダメだ」
「え?」
「あんな激しい運動の後はもっとヘルシーな食事にしないと……ちょっと待っててくれ!」
「は、はあ……」
 俺は楽屋を飛び出し、しばらくして戻る。
「ホテルの厨房を貸してもらった。食材費も抑えたから支払いよろしく。これを食べな」
「え~なんか、貧相だな……! う、美味い!」
「す、すごい、美味しい……お料理が出来たんですね。どこでこれを?」
「昔取った杵柄かな……料理だけじゃなく、家事は一通りこなせるぜ」
 アユミちゃんの問いに俺は胸を張って答える。アユミちゃんがケイちゃんに目配せする。ケイちゃんが頷いて口を開く。
「……タスマ=ドラキン、貴方、私たちのマネージャーになりなさい」
「ええっ⁉」
 思わぬ言葉に俺は驚く。

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