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『ヤンキーJK、士書になる』第1話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

あらすじ
 
金髪ロングと青い瞳が特徴的な女子高生、龍波竜美は周囲から浮いていた。竜美本人の不器用な性格もあって、「ヤンキー」と定義されていた。竜美は、そんな現状に苛立ちを感じながらもどうすることも出来ないでいた。
 そんなある日、公園にいた竜美は、不思議な移動図書館を見かける。なんと熊が運転していたのだ。さらに驚くことに、クラスメイトの猫田真由美がその図書館を手伝っていた。竜美は思い切って、真由美に話しかけてみる。すると真由美は驚いた様子で問い返してくる。「龍波さん……見えるの?」
 ヤンキーJKが遭遇するちょっと不思議なお話……。

本編

「ったく……」
 綺麗な金髪のロングヘアをかきあげながら、ミニスカート姿の女子高生が公園のベンチにドカッと腰を下ろす。その丈の短いスカート、シャツを少しはだけさせているところを見ると、校則というものを遵守するつもりはあまりないらしい。
「なんで受からねえんだよ……!」
 金髪JKは頬杖をつきながら、首を傾げる。
「高校生になったんだからバイトでもしようかって思ったのによ……!」
 金髪JKは不満そうに唇を尖らせる。
「おっ、お姉ちゃん、かわいいね~」
 見るからにナンパな男が声をかけてくる。
「……あ?」
 金髪JKはナンパ男を睨む。
「俺らとお茶でもしない~?」
「お、おい、ちょっと待てよ……!」
 ナンパ男の連れが慌てて止める。ナンパ男が振り返る。
「なんだよ?」
「こ、この子はヤバい……!」
「ヤバい?」
「ああ、龍波竜美(たつなみたつみ)だ……!」
「! あ、あの『暴竜』……!?」
「そ、そうだよ……」
「……失せろ」
「は、はい~」
「失礼しました~」
 竜美と呼ばれたJKはさらに一睨みする。その迫力に圧され、ナンパ男たちはそそくさと退散する。
「ちっ、くだらねえ……」
 竜美は背もたれによりかかり、透き通るような青い瞳で空を見上げる。
「……部活でもやるか?」
 竜美は視線を元に戻して、苦笑交じりに首を振る。
「この時期に入ってこられても扱いに困るだろうな……先輩とかと上手くやっていく自信がねえし……なによりそういう柄じゃねえか、アタシは……」
 竜美がため息をつく。
「はあ……ん?」
 竜美が公園の入り口の方を見ると、やや大きめのトラックが入ってきて駐車する。トラックは荷台の部分を左右とも開閉すると、その両側に本棚が現れる。
「あれは……移動図書館ってやつか……うん!?」
 竜美が己の目を疑う。運転席から服を着た熊が降りてきたからだ。
「く、熊!?」
 竜美が軽くパニック状態になる。しかし、移動図書館に集まってきた人たち、いわゆる利用者であろうか、その人たちはそれを気に留める様子がない。竜美がやや冷静さを取り戻す。
「そ、そういう着ぐるみなのか? しかし……」
 竜美が首を傾げる。利用者たちの中には、人間の大人や子どもだけでなく、服を着た猫や、服を着たうさぎなどもいたのである。
「な、なんだ、あのメルヘンチックな空間は……ん?」
 竜美がある人物に注目する。見覚えのある眼鏡をかけた三つ編みおさげの女の子が制服にエプロンをかけて、図書館の作業を手伝っていたからだ。何故に見覚えがあるかというと、竜美のクラスメイトだからだ。クラスでは浮いており、クラスメイトたちと交流がない竜美だが、不思議と彼女のことは覚えていた。
「……」
 竜美はベンチから立ち上がって、移動図書館に近づく。三つ編みの女の子が気が付く。
「! 龍波さん……?」
「よ、よう、アタシと同じクラスだよな……えっと……」
猫田真由美(ねこたまゆみ)よ」
「ああ、そうだ、猫田だ。こんな所でなにやっているんだ?」
「……龍波さん……見えるの?」
 真由美がやや驚いた様子で問い返してくる。
「え? ああ、移動図書館ってやつだよな、久々に見かけたぜ。この公園にも来るんだな。それと熊の着ぐるみを着るとか……そういうファンサービス?みたいなものもしないといけないってのは大変だな」
「……」
「? どうかしたか?」
「……龍波さん、この図書館の仕事、手伝ってみない?」
「はあっ!?」
 真由美の言葉に竜美が驚く。


「はい、作業中はこのエプロンを着けてね……分からないことがあったらなんでも聞いて」
 真由美が赤色のエプロンを竜美に手渡す。
「えっと……」
「どうかした?」
「いや、トラックの中に入ったと思ったんだが……気のせいだったか?」
「ううん、気のせいじゃないよ」
「じゃあ、これはなんだ!? このだだっ広い空間は!?」
 竜美が周囲を見回しながら大声を上げる。そこには実際の図書館のような空間が広がっていたからである。真由美が口元に人差し指をあてる。
「図書館ではお静かに……」
「と、図書館って……荷台部分よりも明らかに広い空間だぞ、一体どうなってんだよ……?」
 竜美が小声で尋ねる。
「ここはちょっと不思議な図書館だからね」
「ちょっと不思議な図書館って……」
 竜美が戸惑う。ちょっとどころではないだろう。
「見える人は滅多にいないんだよ」
「そ、そうなのか……」
「じゃあ、龍波さんには今日は図書の貸出と返却の手続きをやってもらおうかな。外に戻ろうか」
「あ、ああ……」
 竜美は真由美の後について外に出る。外に置いたテーブルの前に、利用者たちが本を持って、列を作っている。真由美が声をかける。
「お待たせしました」
「これ借りたいんですけど……」
 真由美が本を受け取り、本の後ろについたバーコードを機械で読み込む。
「はい、期限は二週間です……次の方……返却ですね……はい、完了しました。またのご利用をお待ちしております。龍波さん、この本をそこの青いかごに入れてくれる?」
「あ、ああ……」
 真由美の隣に立っていた竜美が頷いて、真由美から本を受け取り、後ろの青いかごに入れる。
「溜まってきたら、本棚の方に戻すから」
「な、なるほど……」
 竜美はしばらく、真由美の手慣れた仕事ぶりを見つめている。比較的長身の竜美からは比較的小柄の真由美のつむじが見える。
「龍波さん」
「なんだ?」
「なんとなく分かったかな?」
「あ、ああ……貸出と返却の手続き作業だな」
「そういうこと」
 真由美が笑みを浮かべる。
「大体は分かったけどよ……」
 竜美が自らの後頭部をポリポリと搔く。
「それじゃあ、お願い出来る?」
「え?」
「私は他の作業もしないといけないし」
「い、いきなり一人にされてもな……」
「落ち着いて対応すれば大丈夫。さっきみたいに混み合うのは閉館時間が近くなってからだし、その時は戻ってくるから」
「あ、ああ、分かった……」
「お願いね♪」
 真由美がその場から離れる。
「おいおい……まあ、やるしかねえか……」
 竜美は作業に当たる。
「お姉ちゃん、新入りさんかい?」
 老人に声をかけられる。竜美は返事をする。
「えっ……ま、まあ、そんなもんです」
「頑張ってね」
「あ、ありがとうございます……」
 竜美は頭を下げる。
「お姉ちゃん!」
「ど、どうした?」
 子どもがテーブルに本をドンと置き、声をかけてきた為、竜美はやや驚いてしまう。子どもが笑顔で告げる。
「この本、とっても面白かった!」
「あ、ああ、そうか……ただな、坊主」
「?」
「本は大切に扱え、お前だけのものじゃねえぞ……!」
「う……」
「し、しまった……!」
 竜美が慌てる。ついつい凄んでしまった。
「うう……」
 子どもが今にも泣き出しそうになっている。
「い、いや……」
「あらあら……」
 子どもの母親が寄ってくる。竜美はクレームをつけられるのではと警戒して身構える。
「こ、これはですね……」
「きちんと叱ってくださってありがとうございます」
「へ?」
 母親が丁寧に頭を下げてくる。
「ほら、たかくんもちゃんと謝って」
「ご、ごめんなさい……」
 子どもも頭を下げる。
「い、いや、次から気をつければいいさ……」
「また借りていいの!?」
「そ、それはもちろん……」
 竜美が頷く。
「やったあ!」
 子どもがまた本を借りにいく。母親がまた頭を下げる。
「どうもすみません……」
「い、いえ……」
 そんなこんなで2時間ほどが経過した。真由美が声をかける。
「龍波さん、お疲れ~」
「あ、ああ……」
「なかなか様になっているじゃん」
「! そ、そうか……?」
「うん」
「ふ、ふ~ん……」
 竜美がやや恥ずかしそうに鼻の頭をこする。
「龍波さんが良かったらなんだけど……」
「ん?」
「また、手伝ってくれるかな?」
「え? い、良いのか?」
「うん、人手不足だしね」
「むう……」
「どうしたの?」
「ほ、本当に良いのか?」
「え?」
「お前もよく知っているだろう? アタシが学校で浮いちまっているヤンキーだってことを……」
 竜美が俯く。
「ああ……でも……」
「でも?」
「世の中は学校だけが全てじゃないし」
「えっ……!」
「ここでは結構馴染んでいるみたいだし……龍波さんが落ち着ける居場所がここでも別に良いんじゃない?」
 真由美が微笑む。竜美が周囲を見回しながら呟く。
「アタシの居場所……」
「それじゃあ、溜まった本を棚に戻してこようか」
 真由美がかごを持ち上げる。
「いや、ここは……?」
「熊さんにお願いしたから」
「! お、おおっ……」
 エプロンをかけた熊が竜美の後ろに立っている。
「ね?」
「マジで人手不足だな……まあいいか……」
 竜美も隣のかごを持ち上げる。二人は中の図書館に入る。
「……本の後ろに貼ってあるひらがなと番号をたどれば、どこの棚のものかすぐに分かるから」
「ああ、うん……」
 真由美の指示に従い、竜美が本を棚に戻していく。
「うん、やっぱり二人でやるとすぐに終わるね。じゃあ、戻ろうか」
「ああ、あ、ちょっと……」
「なに?」
「この本は……?」
「ああ、その本は表の棚のやつだね」
「そうか」
 二人は外に出る。すると……。
「あっ!?」
 熊が豪快に投げ飛ばされて地べたに転がっている様子が見えた。
「ふふっ、やはりこの図書館にある本は特別のようだな……」
 黒いシルクハットを被ったスーツ姿の男性が熊の上に腰かけて呟く。
「熊さんになんてことを!」
 真由美が男性を睨む。
「紳士的に話をしたのだが、受け入れてもらえなかったのでね……」
 男性が両手をわざとらしく広げる。
「……話?」
 真由美が首を傾げる。
「この図書館を買い取りたいというお願いをしたんだよ……」
「なっ!?」
「調べによると、君もなかなかの古株のようだね……どうだろうか?」
「そ、そんな話、受け入れられるわけないでしょう!」
「そうか……女性に手荒な真似はしたくはないのだが……」
「むっ……」
「失礼……!」
「ぐっ!」
 真由美が男性によって首根っこを抑えられる。
「苦しいだろう? この図書館を売ってくれたまえ……」
「い、嫌よ……」
「何故?」
 男性が首を傾げる。
「そ、そんなの決まっているでしょう……この図書館は……誰のものでもない、みんなのものだからよ……!」
「やれやれ、強情だな……」
「おい、手を離しな……」
 竜美が男性をキッと睨み付ける。
「うん?」
「うん?じゃねえ、手を離せと言っている……」
「君は誰だ?」
「誰でも良いだろうが」
「……そのエプロン、職員か?」
「そんなことどうでも良い。離しやがれ」
「君が引き離してみたらどうだい? 出来るものなら……」
「そうかよ……!」
「!」
 竜美が一瞬で男性との間合いを詰め、男性の腕を掴んで、投げ飛ばす。男性はくるりと一回転して、着地する。
「猫田、大丈夫か?」
 竜美が真由美に声をかける。
「な、なんとか……」
「てめえ、やってくれんじゃねえか……」
 竜美が再び、男性を睨み付ける。
「ふん……」
「ふざけた真似を……てめえが悪いんだぞ……こうなったら……」
「どうするつもりだい?」
「……ぶっ飛ばす!」
「ははっ、そんなことが出来るのかな?」
「出来らあ!」
「!!」
 竜美が男性の懐に入り、男性の襟を掴んで男性を投げ飛ばす。
「へっ……」
「ば、馬鹿な……」
「どうよ?」
「分かった、少々痛い目に遭ってもらうとしようか……」
 男性が体勢を立て直し、竜美の方に向き直る。
「出来るのかよ? ……ん!?」
 竜美が驚く。男性がどこからかまさかりを取り出したのだ。
「ふふふっ……」
「お、斧!?」
「惜しい、これはまさかりだ」
「ど、どっちでも良い! 刃物とか汚くねえか!?」
「『きんたろう』の力だからね、仕方がないね」
「き、きんたろうだと?」
「ああ、私は本の力を引き出すことが出来るんだ……!」
「は、はあ!? な、なにを馬鹿な……」
「さきほど、熊を投げ飛ばしただろう?」
「た、確かに……」
「そういうわけだよ!」
 男性が竜美に迫る。
「龍波さん!」
「おっと!」
 真由美が絵本を投げる。竜美がそれを受け取る。絵本には『ももたろう』と書いてある。真由美が声を上げる。
「この移動図書館が見えたあなたも……本の力を引き出せることが出来るかもしれない!」
「そ、そんなことが……」
「とにかく強く念じてみて!」
「わ、分かった!」
「この空間に訪れたばかりの君にそんなことが出来るわけが……なっ!?」
 竜美の手になにか武器のようなものが発生するのが見える。竜美自身も困惑しながら手を見つめる。
「こ、これは……」
「ふ、ふん、ももたろうの持っている細い剣で、きんたろうのまさかりに対抗出来るものか!」
「おらあっ!」
「!?」
 竜美の手に金棒が発生し、竜美がその金棒を思い切り振るう。思わぬ攻撃を食らった男性が吹っ飛ばされる。真由美が歓声を上げる。
「や、やった!」
「お、鬼の金棒の方を発生させるとは……その発想は無かった……!」
「まだやるか!?」
「くっ、今日のところは退散しよう……」
 男性は姿を消す。
「な、なんだったんだ……」
「やったよ、龍波さん!」
 真由美が竜美に抱き着いてくる。
「あ、ああ、しかし、今のは……」
「龍波さん、やっぱりこの図書館で働いてよ!」
「え、ええ……?」
「龍波さん、『ししょ』の才能があるよ!」
「し、『司書』?」
「うん!」
「司書って……書を司る人だろう? ちょっと手伝ったくらいのアタシにそんな才能があるとはとても……」
「ああ、そっちじゃないよ」
 真由美が首を左右に振る。
「そっちじゃない?」
 竜美が首を捻る。
「私が言っているのは、書を士る方だよ」
「ま、まもる?」
「うん、こういう字……」
 真由美が士という字を空中に書く。竜美が困惑する。
「そ、それって、武士の士じゃねえか?」
「そう、龍波さんは『士書』の才能があるよ! この移動図書館を守る為に戦って!」
「え、ええっ!?」
 真由美のお願いに竜美は面食らう。






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