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『令和ちゃんと平成くん~新たな時代、創りあげます~』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「挨拶回り? 既に各課には顔を出しましたが……」
「おっ、流石だね。ただ、時代の先輩方には会ったかい?」
「……どなたにもお会いしていませんね」
 令和の言葉に課長は苦笑する。
「みんな自由だからね……顔を出す方が少ないんだ」
「そ、それで機能しているのですか?」
「一応ね」
 戸惑う令和の問いに課長が肩を竦める。
「どこに行けばよろしいのでしょうか?」
「僕は外せない用事があってね……彼と一緒に行ってくれ」
 課長が平成のデスクに視線を向ける。平成は思いっ切り居眠りをかましている。
「……平成さん」
「……んあ? なんだ令和ちゃんか……」
「……随分と眠そうですね」
「……ああ、寝ずに『桃鉄』やってたから……何の用?」
「時代の先輩方に挨拶回りをしてこいと課長に言われました」
「……回る順番は俺が決めていいか?」
「ええ」
「よし……行こうか」
 平成は伸びをしてから立ち上がる。
「えっと……大体川沿いにいるんだが……」
「なんですか、そのアバウトな情報……」
「まだまだ分かっていないことの方が多いからな」
「ど、どういうことですか……? ん?」
 川沿いを歩いている平成と令和の近くに、彫りの深い南方系の顔立ちをして、上半身は華奢だが、下半身はがっしりしている小柄な体格の男性が立っている。その男は平成に気づき、手を振ってきた。しかし、平成は気付かない。
「なかなか神出鬼没な時代の先輩だからな~」
「へ、平成さん……?」
「ここにいないなら、あちらか……」
 尚もその男は手を振っている。なんならちょっとずつ近づいてきている。令和が首を捻りながら平成に尋ねる。
「へ、平成さん?」
「う~ん、見当たらないな……よし! 次行ってみるか!」
「無視すんな!」
「うわっ⁉」
 男が急に大声を出して平成は尻もちをつく。令和は呆れる。
「気が付いていなかったのですか?」
 平成は立ち上がり、キリっとした顔で告げる。
「いやいや……お久しぶりです」
「白々しい!」
「平成さん、ひょっとしてこちらが……」
「ああ、『時管局古代課』所属の……」
「『旧石器(きゅうせっき)』だ、よろしくな!」
「『令和』と申します。よろしくお願いします」
 令和は丁寧に頭を下げる。
「お、噂の新たな時代か~」
「平成さんのご案内で先輩方皆様にご挨拶に回っております」
「そうかい、大変だろう?」
「いえ、まだ最初ですから……」
「え? 俺を最初に選んでくれたのか? 嬉しいね~」
「それはそうですよ、なんといっても日本史における重要な発見である『岩宿(いわじゅく)遺跡』で有名な旧石器さんにまずはご挨拶をと……そうですよね、平成さん?」
「……」
「何か違う理由があるのですか?」
「……こう言っちゃなんだがな、旧石器さんは今ひとつ影が薄いんだよな……」
「え?」
「存在が確認されたのも昭和初期から中期にかけてだし、その始まりについては様々な意見があるが、最古で12万年まで遡れる可能性があるのに、遺跡などが見つかるのは4万年前以内のものだけなんだ」
「そ、それでも十分凄いことだと思いますが……」
「でも……影が薄いよな~って、うおっ!」
 平成の鼻先に旧石器が槍を突き付ける。
「誰のせいで影が薄くなったと思っている……!」
「す、すみません! うちの『ゴットハンド』がほんとすみません!」
「ゴットハンド……ああ……」
 令和が神妙な面持ちで頷く。旧石器は槍を肩に担ぎ、苦笑を浮かべる。
「お陰で後期のみの旧石器時代って扱いだ。前・中期の旧石器時代は日本史にはなかった考えが圧倒的だ……『国際旧石器連盟』で肩身が狭いよ……」
「……平成さん」
「ん?」
「なにか特別な能力でも使いましたか? 私の目には旧石器さんのお体にモザイク処理がされているように映るのですが……」
「旧石器さんはどんな服を着ていたかよく分かっていないからな。配慮してみた」
「だ、だからって、全身モザイクって! これでは旧石器さんが何やら卑猥な恰好をしているみたいでしょう!」
「おい、平成! ちゃんとシカの毛皮を着ているよ!」
「え~? 本当ですか?」
「本当だよ! 氷河時代とも言われるくらい寒いんだから服は着るよ!」
「肝心の衣服がこちらでは確認されていないんでね……」
「動物の皮を加工するのに使った痕跡がある石器があるだろう⁉」
 旧石器の言葉に令和が頷く。
掻器(そうき)ですね。皮をなめした痕が多く見られます」
「後輩の方が分かってんじゃねえか!」
「……それでもまだちょっぴり半信半疑ですね~」
「お前な! 全身をちゃんと見ろ!」
「ほう……わりとだぶだぶっとしていますね」
「全身を覆う必要があるからな」
「常に半裸で腰巻一枚なイメージでしたよ」
「どんなイメージだよ……まあ、居住地域にもよるだろうが……」
「冬になっても意地でも半ズボンな男子、学校に一人はいたよな?」
「そんなことで同意を求められても困ります……」
 平成からの問いに令和は困惑する。平成は旧石器に尋ねる。
「ブーツも履いているんですね、それも毛皮も用いて作ったんですか?」
「ああ、これも防寒対策だ」
「……革靴に素足ってトレンディ俳優いたよな?」
「だから、そんなことで同意を求めないで下さい……素敵な首飾りですね」
 令和は話題を変える。旧石器は首飾りを手に取って笑う。
「へへっ、そうかい? これは琥珀だ。それに紐を通している」
「おしゃれですね」
「おしゃれ……かねえ?」
「違うのですか?」
「魔除けのおまじないって意味もあるとか、身分を表す為のものだとか、色々あってな……なんで付けているのか、自分でも忘れちまったよ」
「わ、忘れてしまったのですか……」
 旧石器の言葉に令和は戸惑う。平成が口を開く。
「過酷な生活環境だ、おしゃれを優先したとは考えにくいな……魔除けかあるいは集団の中での身分差を示す為に必要だったんじゃねえかな?」
「きゅ、急にまともなことを……集団?」
「ああ、この辺に俺たちの居住区域があるぜ」
 旧石器が令和たちを案内する。川の近くの高台に着くと、テントのようなものがいくつかある。旧石器がそれらを指し示す。
「今はここに住んでいる」
「テントですか? これもシカの皮を使って……木で組み立てていますね」
「ばらして持ち運ぶのも簡単だからな。基本は移動生活だ。一か所に定住するわけではない。洞窟や岩陰を利用することもよくあるが、大体はこうしたひらけた土地に住居を設営する。川の近くの見晴らしの良い場所にな」
「『ここをキャンプ地とする』ってわけだな!」
「そんなどうでしょう的な考え方ではないと思いますが……」
 両手をポンと叩く平成を令和は醒めた目で見つめる。旧石器が苦笑する。
「水はけの良い土地を選んでいるんだよ」
「遺跡がなかなか見つからないと聞きます。神奈川県の『田名向原(たなむかいはら)遺跡』が約2万年前の住居が残っている最古の遺跡だそうですね」
「短期間だから、地面に跡があまり残らないんだよな」
 令和の言葉に旧石器は頷く。平成が周囲を見回して呟く。
「跡はあまり残らないが、石器や石の欠片がまとまって出土する場所があるぜ」
「そうなのですか?」
「ああ、そういう場所を『ブロック』という。そういったブロックをはじめ、料理などを行った跡がある『礫群(れきぐん)』が発見されると、その辺りに一つの家族が生活していたんだなってことが分かる」
「な、なるほど……一家族を生活単位としていたんですね」
「ただ、そんなブロックがいくつも集まって、ドーナツ型の『環状ブロック』というものが近年関東地方を中心に百か所以上見つかっている」
「ここもそのようですね……」
「無類のドーナツ好きだったからだそうだ」
「それは嘘ですね」
 平成の言葉を令和が切って捨てる。旧石器が口を開く。
「複数の家族がしばらくの間、一緒に暮らすという生活様式が一般化していたな。大体十人ほどの集団を形成し、行動することが多い」
「何故ですか?」
「多い食糧を分け合って食べることが多かったからな」
「多い食糧?」
 旧石器の言葉に令和は首を捻る。旧石器は笑いながら自らを指し示して問う。
「俺の体を見て思うことはないか?」
「『ミニモニ。』よりかはちょい大きいかなと思いました」
「なんだよ、ミニモニ。って……」
 平成の答えに旧石器は困惑する。令和が冷静に呟く。
「上半身は華奢ですが、下半身はがっしりとされています……手足も大きい。これは沖縄県の港川採石場で発見された約2万年前の『港川人(みなとかわじん)』の特徴に似ていますね」
 令和の言葉に旧石器は満足気に頷く。
「そうだ、もっと身長の高い奴らもいたみたいだが、2万年前になると、これくらいが平均的だ」
 平成が問う。
「身長の高い連中もいたんですか?」
「色々なルートでこの列島に渡ってきたみたいだからな、ルーツもまた様々だな。①シベリアからサハリンを経由し、北海道に。②朝鮮半島から対馬を経由し、九州に。③大陸から台湾・沖縄を経由し、北上。大きく分けてこの三つが考えられる」
「……なんでこの列島に来たのでしょうか?」
 令和の問いに平成が答える。
「そりゃあ、『ナウマンゾウ』や『オオツノジカ』といった大型動物を追ってきたんだろう。旧石器さんたちは狩猟が得意だからな」
「おっ、分かっているな、意外だ」
「……匂いで分かりますよ」
「匂い?」
 旧石器が首を傾げる。平成が胸を張る。
「同じ匂いがするんです……ああ、思い出すなあ『ハンター』として、仲間たちと巨大なモンスターを狩ったあの日々……」
「それってゲームの思い出じゃないですか……」
 遠い目をする平成に対し、令和は突っ込みを入れる。旧石器が頷く。
「ほう! 平成も狩りには自信があるのか。もやしっ子だと思っていたが。これからナウマンゾウ討伐に赴くんだが、頭数が足りなかった。お前も来い!」
「ええ⁉ リアル『一狩り行こうぜ』⁉」
 旧石器からの誘いに平成は驚く。


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