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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第7話 青猿(7)

 次の瞬間、黒い影が走り、青猿の身体が大きく吹き飛ぶ。
 青猿の身体が地面を弾みながら転がる。
 黄金の双眸に燃え上がらせたツキが黄金の魔法陣を展開し、黒い鎖を一直線に伸ばして青猿を打ち付けた。
 ツキは、魔法陣を解くとアケに駆け寄り、抱きしめる。
 アズキが心配げに鳴いてアケの周りを飛び跳ねる。
「アケ!」
「しゅ・・じん・・」
 アケは、痛みに呻きながらも声を出す。
 本来の目を抑えるアケの手の隙間から小さな白い手が糸のように伸びてくる。
「アケ!」
「アケ様!」
 ウグイスとオモチも駆け寄る。
 カワセミは、アケ達の前に立ち、緑色の魔法陣を展開させ、青猿に向ける。
 青猿がゆっくりと立ち上がる。
 その美しい褐色の肌の顔が血に濡れている。
「相変わらず強いな」
 青猿は、唇の端を釣り上げる。
「さすがは災厄の2つ名を持つだけある」
 そう言って白蛇の紐を指先で振り回す。
「ちゃちい封印だな。あんま強いと幼妻の身体が持たないからだろうけど、これじゃあな」
「貴様・・・」
 ツキは、獣ように唸る。
「何のつもりだ⁉︎」
 ツキは、アケをウグイスに預けて立ち上がり、カワセミの前に出る。
 青猿は、回転する白蛇の紐をじっと見る。
「あんたが私に協力出来ない理由には納得出来たんだけどね」
 白蛇の紐が青猿の手首に巻き付く。
「それでも幼妻の実家の為に手を貸さない保証はないじゃない?」
 青猿の深緑の双眸が冷たく輝く。
「だから懸念材料はしっかり潰しとこうと思ってね」
 青猿の身体から新緑の光が滲み出る。
「まずは百の手の巨人ヘカトンケイルにあんたらを殺してもらう。そしてそれが上手くいったらその幼妻を使って白蛇の国も滅ぼす・・。巨人のせいで国が2つ滅ぶ分にはあいつらも文句言わないだろうからね」
 青猿は、冷たく笑う。
 アケの脳裏に猫の額ここに来る前の、自分のせいで白蛇の国に起きた悲劇を思い出す。
「いやああ!」
 アケは、叫び、痛みに堪えながら必死に本来の目を抑える。しかし、それを嘲笑うかのように白い手の糸が伸び、大きく太くなっていく。
 ツキは、奥歯を噛み締める。
「オモチ・・・」
 ツキは、振り返らないままにオモチの名を呼ぶ。
「アケを頼む」
「はっ」
 オモチは、ツキの背に頭を下げる。
 ツキは、ゆっくりと前に進む。
 その姿が歪み、膨らみ、黄金の光を纏った黒い狼の姿へと変貌していく。
「青猿・・・」
 太い犬歯の隙間から息と共に震えるような畏怖を含んだ声が漏れる。
「お前は俺を怒らせた」
 しかし、そんな恐ろしい姿を見ても青猿は笑みを浮かべていた。
「やっぱ、あんただけは巨人に任せる訳には行かないか」
 青猿は、白蛇の紐を口に含むとごくりっと飲み込む。
 そして深緑の双眸を激らせツキを睨む。
「久々に大喧嘩しようか!」
 青猿の身体を包む深緑の光が膨らむ、それに合わせて青猿の身体を青い毛が覆い、それに比例して巨大化し、大きな猿の姿へと変わった。
 2匹の巨大な獣は、双眸を激らせ、睨み合う。
 ツキは、牙を剥き出し青猿に襲い掛かる。
 青猿は、巨大な腕を振り上げツキの胴体を殴りつけるがツキは怯むことなく、青猿の身体に牙を突き立て、そのまま押し出すように森へと突っ込んでいった。
 森の中から二人の攻防の音が聞こえ、離れていく。
 カワセミは、二柱の王の激しい戦いに目を奪われるが、妹の声に我に返る。
「アケ!」
 ウグイスは、泣き叫ぶようにアケの名を呼ぶ。
 アケの本来の双眸の部分から無数の腕が生え、霧のように揺らめき、重なり、巨大になり、ウグイスの身体にまとわり、傷つけている。
「ウグイス離れろ!」
 カワセミは、妹が危険と察知し呼びかける。
「いや、ダメ!そんなの」
 ウグイスは、首を激しく横に振って拒否する。
「離れるんだウグイス」
 オモチが表情を変えず、いつもと変わらない口調で言う。
 オモチは、百の手の巨人ヘカトンケイルの腕を恐れずにアケに近寄り、耳元に話しかける。
「アケ様、少しご辛抱下さい。必ずお助けしますので。貴方を1人になんてしません。利用させたりなんてしませんから」
 オモチの柔らかで優しい声がアケの耳に入る。
 アケは、痛みに身体を震わせながらも小さく頷いた。
 アケは、本来の目の部分を覆っていた両手を離す。
 その瞬間、大量の腕が熱線のように吹き上がり、上空へとのびていく。
 その勢いにウグイスの身体は飛ばされ、カワセミに支えられる。
 無数の腕はお互いを重ね、結び、溶け合っていながら巨大な腕を何本も形成していく。
 腕は地面に5本の指を食い込ませて身体を起こし、アケの身体を持ち上げ、さらに伸びた腕が宙を舞うように捻り、重なりながらが形を形成し、さながらその姿は腕を重ねて作り上げた巨大な蜥蜴のオブジェのようだ。
 ウグイスは、悔しく歯噛みする。
 あんなに綺麗で優しいアケをこんな姿に・・。
 ウグイスの黄緑の双眸が涙に滲む。
 巨大な腕の蜥蜴と化した百の手の巨人ヘカトンケイルが敵意を持って3人に向く。
「ウグイス、カワセミ」
 オモチが2人に呼びかける。
 2人は、オモチの方を向き、そして身を震わせる。
 巨大なオモチの身体の前にさらに巨大な白く、複雑な魔法陣が展開する。そこから溢れる凍てつくような強大な魔力に2人は鳥肌がたった。
「5分ほど時間を稼いで欲しい」
 オモチの赤い目が燃える。
「必ずアケ様を助けるので・・・頼む」
「「はっ」」
 2人は、頭を下げると魔法陣を展開した。

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