見出し画像

クリスマス番外編 エガオが笑う時 騒がしい聖夜(2)

「楽しみね」
 ワイン色の身体の線が綺麗に映えるドレスを着たマダムが隣に座って金色の髪にそっと自分の頬を私の髪の上に乗せて聞いてくる。
 果物のような甘い香水の匂いがマダムの髪や頬を通して伝わってきて心臓が跳ねそうになる。
「はい・・・とても・・」
 私は、羞恥と興奮に頬を赤らめて声を上擦らせる。
 そんな様子を同じテーブルに座る4人組が楽しそうに見ている。
「そのドレス・・とても素敵よ」
 そう言ってマダムはにこりっと微笑む。
 私が着ているのはマダムが選んでくれた花のように膨らんだスカートに胸元にリボンのようなフリルの付いたエレガントな桃色のドレスだ。あまりにも可愛らしい作りなので最初は恥ずかしすぎていつものように拒否したが、結局選んで着てしまった。自分で言うのも何だが前に比べて趣味が大分変わってしまった。髪もディナに清楚に結い上げてもらい、花の飾りを付けてもらった。
 そして左の薬指にはカゲロウから貰った花の指輪が輝いている。
 私達がいるのはグリフィン家の別邸、マダムが個人的に所有する屋敷の中庭だ。
 マダム曰く、本邸に比べれば玩具みたいな大きさだ、と言う事だが明るい青と白を基調にした屋敷は大きく、美しい造りをしており、まさにマダムが住むにふさわしい華麗さを持っていた。
 中庭も王立公園の噴水広場よりも広く、清潔感に溢れている。丁寧に刈られた芝、無駄なく整えられた木々、冬だから種類こそ少ないが小さな花々が優しく咲いている。
 そんな清楚な庭に今日はクリスマスと思われる装いがたくさん飾り付けられていた。
 カゲロウが忙しく動くキッチン馬車の隣に並ぶ大きなクリスマスツリーを代表に木々には電飾と呼ばれる電気を使って点滅する灯りが灯され、色鮮やかな光りを放ち、芝生の上には丸いガラスの器が取り付けられた燭台が置かれ、その中でドライフラワーの貼り付けられた大きな蝋燭が火を灯して優しく揺らめき、暖を取るために設置された雪だるまの形をしたストーブが淡い光を発して目を楽しませる。
 そして私達が座るダイニングテーブルに向かい合うように置かれた静謐なグランドピアノ。
 そこに座るのは・・・。
「始まるわ」
 マダムの声を合図に曲が奏でられる。
 その瞬間、胸が大きく高鳴る。
 静寂の夜と火の灯りの中に広がる幻想的なピアノの音。
 それを奏でるのは・・・。
「マナちゃん凄いにゃあ」
 濃い黄色のドレスを着て、頭に大きなリボンを結んだチャコが大きな目を輝かせる。
 水色のドレスを着た白と黒の水玉模様の髪をした犬の獣人マナの指先が水に変化したように滑らかに動いてクリスマスの曲と思われる音楽を奏でる。
 それはしっとりとして暖かく、薄暗い闇の中を泳ぎ輝く魚のように私達の胸の中に飛び込んでくる。
 薄紫のワンピースのような清楚なドレスに首元に柔らかなファーを巻いたディナが感動のあまり三白眼から大粒の涙を流している。
 ドレスを着るのを嫌がり銀色のタキシードに洗い青色のコートを羽織ったイリーナも大きな笑みを浮かべて喜んでいる。
 濃いグリーンのスタイリッシュなドレスに髪を大きく結い上げたサヤは、この光景を目に焼き付けようと伊達眼鏡を外して覗き込むように見ている。
 マナは、曲調に合わせて肩を動かし、身体を揺らす。
 その姿はまるで雪の精ようだ。
 私達は、しばし静寂の夜に流れるマナの曲に酔いしれた。

 ピアノ演奏を終えて私達の座るテーブルにやってきたマナは椅子に座るや否やテーブルの上に顔を埋めた。
「疲れました」
 そう呟くマナの上に賛美の拍手が飛ぶ。
「凄いにゃマナちゃん!」
「曲が降り注いできた!」
「世界が変わった!」
「天才過ぎる・・」
 4人組、特にディナが大泣きしながら称賛する。
「本当、素晴らしいわマナちゃん」
 マダムは、子どものようにはしゃぎながら言う。
「上手いとは聞いてたけどこれ程とは思わなかったわ」
 しかし、マナは、みんなの称賛を素直に受け止められないのか少し拗ねた顔をする。
「何ヶ所か間違えちゃいました」
 えっ?どこを?
 完璧の完璧にしか聞こえなかった。
「まあ、でも久しぶりだから仕方ないにゃ」
 チャコがマナに近づいて優しく肩を叩く。
 絶対音感を持ったチャコにはどうやら間違えた場所が分かったらしい。
「マナちゃんなら直ぐに勘を取り戻すにゃ」
 しかし、マナはうーっと唸って悔しそうに顔を顰める。
 マナにこんな一面があるとは知らなかった。
 なんだか少し可愛い。
 私のそんな反応に気づいたのか、マナが潤んだ目を私に向ける。
「エガオ様・・ごめんなさい」
 どうやら私が咎めてると勘違いしたらしい。
 私は、首を横に振るとカゲロウにいつもしてもらうようにマナの頭を優しく撫でる。
「凄い上手だったよ。マナ」
 マナは、大きな目をさらに大きく開けて私を見る。
 涙が白いテーブルを濡らす。
「ありがとうございます・・・エガオ様」
 マナは、何かが解けたように大泣きする。
 それを見て私はオロオロしたがみんなは微笑ましくそれを見ていた。
「さあ、食事にしましょう!」
 マダムが大きく2回、柏手を打つ。
 食欲を注ぐ香りが私達の鼻腔を擽る。
 大きなクリスマスツリーの横に並んだキッチン馬車の中でカゲロウがたくさんの料理を大きなお皿に持ってカウンターに並べていく。
 私は、椅子から立ち上がり、料理を取りに行こうとふ?とマダムが私の手を優しく掴んで制する。
「今日はいいのよ」
 そう言うとどこからか皺一つないタキシードと給仕服を間に纏ったたくさんの男女が現れてキッチン馬車に向かって料理の皿を取るとそのまま流れるように私達のところにやってきてテーブルに料理を並べていく。
 その動きは私はなんかじゃ真似できないくらい華麗で美しい。
「うちの執事とメイドよ。中々いい動きでしょ?」
 マダムは、そう言って右目を瞑る。
 料理が隙間を探すのが大変なほどに綺麗に無駄なく並べられていく。
 その度に芳醇な香りが漂い、私達の食欲を刺激する。
 ブロッコリーやマッシュポテトを重ねて三角垂の形にして星型の人参やミニトマトで飾り付けたクリスマスツリーの形のサラダ。
 チーズとジャガイモと鮭のグラタン。
 じっくり煮込んで出汁を取った玉葱とコンソメのスープ。
 チーズとトマトのマルガリータ。
 トマト風味と濃厚クリームの2種類のパスタ。
 じっくり火を通したローストビーフ。
 そして・・・。
「でっけ」
 イリーナが思わず口をあんぐり開く。
 テーブルの中央には私の上半身がすっぽり収まってじまうのではないかと思えるような全身をじっくり焼き上げたローストチキンが王様のように鎮座する。
 そのあまりの迫力と食欲を唆る綺麗な焼き色に4人組もマナも、マダムですら目を奪われる。
「凄いでしょう?」
 私は、小さく頬を掻く。
「捕まえるの大変だったんです」
 今、思い出しても疲労が蘇る。
 クリスマスメニューを考案し出したカゲロウがどうせならびっくりするものを用意したいと言い出し、捕まえにいったのがこの大きな黒面鳥だった。
 顔が異様に黒く、そこから下が艶やかな茶色と白の毛に覆われた翼の退化した鳥は王都から離れた岩山に住んでおり、普通に向かったら3日は掛かるがスーちゃんは半日で突き進んだ。
 なるべく苦しめずに仕留めて欲しい。
 カゲロウにそう言われてたので私は長い棒に包丁を結びつけて簡易に作った槍を使って彼らを狩ろうとした。
 戦闘力は大したことないのだがとにかく素早い。しかも脚力も強いから平気で岩山を駆け上っていく。
 私も負けじと岩山を駆け上り、槍を回転させて宙を舞いながら追いかけ、苦しめないよう首を一撃で落として仕留め、近くに流れる小川で血抜きと内臓を取り出したのでさらに半日を有し、仕事に戻る頃にはヘトヘトになっていた。
 私の話しを聞いたディナとサヤの顔が引き攣る。
「美味しそうだけど・・・」
「狩りの生話聞きながらだと少し引くね」
 2人の言葉の意味が分からず私は首を傾げる。
 相変わらずタンクトップに白いエプロン姿のカゲロウが馬車から出てきて私達の方に近寄ってくる。
 なんでだろう?
 それだけで嬉しくなる自分がいる。
「ちょっと失礼」
 カゲロウは、大きめの包丁を使ってローストチキンを丁寧に切り分けていく。
 白く湯気と共に芳醇な肉と甘いタレの香りが広がる。
 あれだけ拒否反応を示していたディナとサヤも目を輝かせる。
 カゲロウは、お肉を丁寧に切り分けてメイドの用意した白い皿に乗せていく。
 メイドは、受け取ると主人のマダムから順に配っていく。目の前に置かれるだけでみんなの目の輝きがさらに増す。
 最後に私の前にお肉が置かれる。
 純白のお皿と濃厚なタレにつけて焼かれたお肉の色合いは生まれた時からこの姿と言われても納得するくらい美しい。
「おかわりならたっぷりあるから好きなだけ食べてくれ」
 カゲロウは、無精髭の生えた口元を小さく釣り上げる。
「さあ、冷める前に頂きましょう!」
 マダムの声を合図にみんなが一斉に「頂きます!」と叫んで食べ始める。
 いきなりがっつきそうな勢いの声だったが、流石にそれはなく、みんなテーブルマナーをしっかりと守って丁寧にしかし、たっぷりと皿に乗せて食べる。
「このマッシュポテト雲みたい!」
「グラタンの鮭が甘くて蕩けるにゃ」
「このスープ・・どうやって出汁取ってんだ?」
「このパスタ、ピリ辛だけど病みつきになるわ」
「このお肉・・しっかり火が通ってるのに柔らかいです」
 みんながみんな絶賛の声を上げる。
 私は、自分が作った訳でもないのに嬉しくなってつい自慢げに胸を張ってしまう。
 私も目の前に置かれたローストチキンにナイフを通して小さく切り分ける。
 私のナイフ捌きを見てマナが嬉しそうに微笑んでる。
 私は、少し恥ずかしくなりながらチキンを口に放り込む。
 甘いタレにじっくりと付けられたお肉は口の中で解けるように溶けて舌に染み込んでいく。
 美味しい。
 お肉の柔らかい感触も、濃厚な肉汁も、甘いタレも全てが美味しい。
 私は、思わず身を震わせて、ほっぺたに触れてしまう。
「ねえ、店長!アレはないの?」
 イリーナが嬉しそうにローストビーフを頬張りながらカゲロウに声を掛ける。
 アレ?
「アレは食後だ。胃袋に少しスペース残しとけよ」
 カゲロウが言うと4人組は、一斉に「はーいっ」と返事する。
「弟達にも食べさせて上げたかったな」
 マナが目の前に並んだ料理を見て寂しそうに言う。
 弟達とはマナが暮らしていた教会の子ども達のことだろう。現在は住み込みでグリフィン卿の屋敷に住んでいるが今でも交流があり、時折給金を使ってお菓子を届けているそうだ。
 マナの切なそうな顔に私は胸が締め付けられる。すると、カゲロウはそっとマナの頭を優しく撫でる。
「弟達にもおんなじものを届けてるよ」
 カゲロウの言葉にマナはびっくりして大きく目を開ける。
「なっマダム」
 マダムは、何も言わずに右目を瞑る。
 マナは、花が咲いたように満面の笑みを浮かべて頭を下げる。
「ありがとうございます。奥様。店長」
 カゲロウは、何も言わずに笑みだけを浮かべて優しくマナの頭を撫でる。
 マナが喜んでくれて良かった。
 良かったけど・・。
「頭を撫でるのはなんか違うと思う」
 私は、思わず頬を膨らます。
「どうしたにゃ?」
 チャコがパスタで口いっぱいにしながら覗き込んでくる。
 私は「なんでもありません」とそっぽ向く。
「ちなみに旦那さんにも同じものを届けときましたよ」
 そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべてマダムを見る。
 グリフィン卿は、今日もメドレーの宿舎で業務に追われているから本邸に戻れないらしい。
「そう。喧嘩しなかった?」
「なんか色々言ってたけど無視して帰ってました」
 喧嘩・・・想像しようとしたが怖くなったのでやめた。
 執事とメイドが濃い緑色の瓶を持って私達の席を回ってグラスに飲み物を注いでくれる。
 綺麗なワイングラスに気泡の浮かんだ黄金色の飲み物が注がれる。
「ノンアルコールの林檎のシャンパンよ。安心して飲んで」
 マダムは、そう言って自分もノンアルコールのシャンパンを飲む。
 身体を壊してからもうアルコールは摂取していないそうだ。
「カゲロウ君は遠慮しないで飲んでね。いいワインを用意しといたわ」
 カゲロウの側に執事が立ってワイングラスを手渡す。
「ありがとうございます」
 カゲロウは、遠慮なくグラスを受け取ると執事がゆっくりと瓶を傾ける。
 私達と同じ黄金色だが気泡の浮かんでない飲み物が注がれる。
「申し訳ないがスーやんにもワインをもらえないです?」
 その言葉に私は思わず吹き出しそうになる。
 スーちゃん、ワイン飲むんだ。
 私は、馬車の隣で寝そべるスーちゃんを見ると赤い目を爛々に輝かせてこちらを見ていた。
 執事は、畏まりましたたら頭を下げる。
 一体、どうやって上げるんだろう?
「あと皆さんの分の食事も準備してるんで是非、召し上がってください」
 カゲロウが言うと執事は驚いたように目を開ける。
 まさか、自分たちの分の食事があるなんて思ってなかったのだろう。
 執事は、驚きながらも嬉しそうに「ありがとうございます」と頭を下げた。
 それからも食事は進んでいく。
 アレだけ並んでいた食事はゆっくりとじっくりと味われて胃袋の中に消えていき、明るい声が庭の中を走り、淡い灯りが笑顔を映す。
 私も楽しい気分になりながらご飯を食べてお話しする。
 これがクリスマスってことなのかな?
 心の知れた人達と集まって幻想的な光景を見て、食事して楽しい時間を共有する。
 凄い素敵な時間だ。
 でも、これなら敢えてクリスマスなんて日を設けなくてもお誕生日会とか何かのお祝いでも良さそうな気がする。
 でも、そんなことを言ったから空気を壊してしまいそうなので私は言葉に出すことはしなかった。
「さあ、そろそろアレを出すか」
 ワイン1本開けたはずなのにまるで酔った気配のないカゲロウがキッチン馬車に向かう。
 これだけ食べたのにまだ何かあるの?
 私は、びっくりしたけどみんなは何かを期待するように目を輝かせてキッチン馬車を見る。
 カゲロウは、キッチン馬車に入って数秒も満たない内に出てくる。
 両手に大きな銀色のトレイを抱えて。
 メイド達がテーブルの上の物を片付けて中央にスペースを作る。
 カゲロウは、ゆっくりとした足取りでテーブルに近づき、銀色のトレイをそっと置いた。
 その瞬間、歓声が巻き起こる。
 銀色のトレイに置かれたのは大きなホールケーキだった。それ自体はお店でよく見てるから驚くことではないかそのデザインはまるで違う。
 ホールケーキは上半分の下半分で食材の盛り方が違っていた。
 上半分には苺を始めブルーベリー、ラズベリーと言った赤やそれに近い色が埋め尽くさんばかりに乗せられている。下半分にはたっぷりの生クリームが波打つように盛られ、真ん中には苺が一つ置かれ、その下にチョコレートで緩やかな線が引かれている。果物とクリームが分かれる線の部分には大きな丸いチョコレートが添えられる。
 それは赤い帽子を被った髭もじゃのお爺さんの顔だった。
 私は、その顔を見た瞬間、幼い頃の記憶が蘇る。
 何歳だったから忘れてしまうくらいの幼い記憶。
 泣く私の前に現れた暖かい目をしたお爺さん。
 私は、目を震わせてそのケーキを見る。
「サンタさんにぁあ!」
 チャコが大はしゃぎで声を上げる。
「すげえ!」
「なんてクオリティ!」
「萌えるう!」
 4人組が嬉しそうに飛び跳ねる。
 サンタ・・さん?
「なんか涙が出てきます」
 マナが感動のあまり泣いてしまう。
「確かに食べるのもったいない過ぎるわ」
 マダムも感嘆の声を上げる。
 私は、みんなの反応の意味が分からずキョロキョロしてしまう。
 そんな私の頭の上に優しい温もりが包み込む。
 カゲロウの手だ。
 暖かい。
 気持ちいい。
「やっぱり知らなかったか」
 カゲロウは、苦笑を浮かべる。
「やれパーティーだ、ご馳走だっていうけどさ」
 カゲロウは、自分の作ったケーキを指差す。
「クリスマスってのはな。このサンタクロースっていう爺さんが一年頑張った子ども達にプレゼントを上げるイベントなんだよ」
 カゲロウがそう言って嬉しそうに笑う。
 マダムが「そんな身の蓋もない」と言って頬を膨らます。
「サンタクロース・・」
 私は、呆然と呟き、カゲロウを見る。
「このお爺さんはどこに?」
 私の質問にカゲロウだけどなく、マダムもマナも、4人組も驚いて目が泳ぎだす。
「どこって・・・」
 マダムが困ったように形の整った眉を顰める。
「寒い国?」
 イリーナが難問を解くように顔を歪める。
「おもちゃ工場?」
 サヤも眼鏡の奥を瞬かせる。
「心の中?」
 ディナが胸に手を当てる。
「夢の世界?」
 チャコも尖った耳を降り畳む。
 私、そんな困った質問したのかな?
「エガオ様」
 マナが何故か優しい笑みを浮かべて私を見る。
「サンタさんっていないんです」
 えっ?
 私の顔によっぽど衝撃が走っていたのか、マダムと4人組に動揺が走る。
「マナちゃんもっとオブラートに!」
「子どもの夢をそんな簡単に潰しちゃダメよ!」
 4人組が慌ててマナに注意する。
「でも、こう言うのって最初が肝心だから」
 マナは、首を傾げて言う。
「エガオ様のお年で信じてる方が逆に痛くないですか?」
 恐らくもの凄く正論なのだろう。
 1番年下の意見に4人組がぐうの音も出なくなる。
 でも、それじゃあ私が子どもの頃に見たあのお爺さんって・・・。
「まあ・・・まあとにかく・・」
 マダムが仕切り直そうとぱんっと手を叩く。
「ケーキをいただきましょう」
 マダムの声にホッとしたのか、4人組は「はーいっ」と大きな返事する。マナも少し不満そうにしながらも「はいっ」と呟く。
「カゲロウ君。切り分けるのお願いしていい?」
「・・・はいっ」
 カゲロウは、私の頭から手を離す。
 そして鳥の巣のような髪に隠れて見えない目でじっと私を見る。
 私は、首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「いや、別に」
 カゲロウは、それ以上何も言わずにナイフを取りにキッチン馬車に向かう。
「奥様」
 メイドの1人がマダムに近寄って声をかける。
「そろそろアレがやってくるかと」
 メイドの言葉にマダムは驚いて懐中時計を見る。
「嫌だ。本当。もうこんな時間だったの?」
 マダムの言葉に私は眉を顰める。
 誰か来るのだろうか?
 マダムは、懐中時計から目を離して私達を見る。
「みんな、そろそろアレが飛んでくるわよ」
 マダムの言葉にみんなの目に驚きが走る。
「マジ?」
「もうそんな時間?」
 どうやらみんなもこれからやってくるアレのことを知ってるらしい。
「本当だ。空が燃えてる」
 サヤが上空を指差す。
 サヤの指差した方向を見ると確かに空が銀色に滲んでいる。
 夕日はとっくに落ちたし、方向は南だし何で⁉︎
「ケーキはアレを見てからにしましょう」

#クリスマス
#ケーキ
#サンタ
#エガオが笑う時
#エガオ
#ピアノ
#長編小説
#ファンタジー小説

この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?