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看取り人(18)

「それから貴方に会って、話すのが私の楽しみになった」
 アイは、口元に笑みを浮かべて言う。しかし、その目は悲しみに沈んだままだ。
「実習が終わらなければいいと本当に思った。明日は何話そうかな?って考えるのが楽しかった。宿題だってそう。貴方に成長して欲しいって気持ちもあったけど私の事を忘れて欲しくなかったから・・変だよね。実習生の癖に生徒にこんなに入れ上げるなんて・・しかもこんな私が・・」
 首を横に振るべきなんだろう、と宗介は思った。しかし、振れなかった。少なくてもアイの話しが終わるまではどんなアクションも起こす訳にはいかないと思った。
「でも、私の気持ちはどんどん膨らんでいった。そんな時にあの子のことが起きた・・」
 あの子とは、シーのことだろう。
「あの子は、私の正体に気づいていた。気づいていたから言ったの。私に相応しいのは自分だって」
 女性しか愛せないシー。
 女性なのに男性の身体を持ったアイ。
 確かに側からみたらそれは最高の相性なのかもしれない。
「彼女にキスされた時ね・・ああっそうなんだ。私は結局、この身体の呪いから抜け出すことなんて出来ないんだ。だったらもう受け入れちゃった方が楽なのかな、そう思って飲まれそうになった時・・」
 アイは、宗介を見て笑う。
「貴方が助けに来てくれたの」
 宗介の脳裏にあの時の光景が浮かぶ。
「あれは助けたといいませんよ」
 宗介は、否定するがアイは、首を横に振る。
「それでも私は嬉しかった。底のない渦の中から貴方が私を引っ張り出してくれたの」
 アイは、胸の前に両手を持ってきて祈るようにぎゅっと握る。
「そして貴方は、私とのたわいもない宿題を覚えてくれてそれを守ると言ってくれた。また会う約束をしてくれた。嬉しかった・・それだけで絶望に覆われた私の心に生きる力が湧いたの」
 アイは、祈るように握った両手を額に当てる。
「そして久しぶりに会った貴方は約束を守って人として成長していた。逞しくなった。美しくなった。そんな貴方が私に告白してくれた時、嬉しかった・・この世界がこんなに明るいなんて知らなかったくらいに輝いて見えた」
 しかし、その言葉とは裏腹にアイの顔に苦痛に浮かぶ。
「そして同時に罪悪感が襲ってきた。私は自分に好意を寄せてくれる学生を誑かしてる。いや、それどころか騙してる。こんなこと許されるはずがない。教師を目指すものとしても、人としても。でも、気持ちは殺せない。1ヶ月経っても貴方への想いは途切れない。消え去らない。だったら全てを曝け出そう。貴方に嫌われてもいい。罵られ、化け物扱いされてもいい。貴方に私の全てを見てもらおうって」
 アイは、両手を離して下に下ろす。
 自分の身体の全てを宗介に見せる。
「どうか・・どうか貴方の手で、言葉で止めをさして。私の汚い心を切り裂いて。そうしないと私はきっと貴方を汚してしまう。貴方だってこんな化け物嫌でしょ?幻滅したでしょ?見たくもないでしょ?だから・・・」
 しかし、アイはそれ以上、言葉を出すことは出来なかった。
 宗介がアイの身体を強く、強く抱きしめたから。
 何が起きたか分からず、アイは呆然とする。
「・・・関係ない・・」
 宗介は、アイの耳元で囁く。
「貴方が何だろうとどんな存在だろうと関係ない」
 アイの目が大きく震える。
 宗介は、アイの後ろ髪に手を伸ばし、優しく撫でる。
「オレが好きなのはアイさん、貴方です。性とどうとか関係ない。化け物かなんて知ったことか。俺が好きなのは・・貴方です。貴方以外の女になんて興味もない」
 宗介は、顔を上げてアイの目を見る。
 大きく見開かれ、震えるアイの目から大きな涙が溢れ出る。
「アイさん、好きです。愛してます」
 そう言って宗介は、震えるアイの唇にキスをする。
 アイの目が大きく見開く。その目が喜びに震え、ゆっくりと閉じていく。細い両手が宗介の首に回る。宗介の両手がアイの背中を、頭を優しく愛でる。
 そして2人は、そのままソファに倒れ込んだ。

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