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LinkedIn担当者が語る「未来の働き方」、AI時代に必要なスキルとは――国連総会ハイレベルウィーク、トークセッションより

「第78回国連総会ハイレベルウィーク」に合わせて、9月18~22日、各業界の関係者たちがSDGsの達成やグローバルな課題の解決を探る「SDGメディア・ゾーン」のトークセッションが、米国ニューヨークの国連本部にて開催された。

D for Good!では、テクノロジー関連のテーマに注目した。そこで本稿では、LinkedInのグローバル・パブリック・ポリシー・パートナーシップ責任者のサラ・スタインバーグ氏が、STEM(科学、技術、工学、数学)分野における女性の活躍や、AI時代のジョブスキルについて語ったセッション「Future of Work(未来の働き方)」を紹介する。

LinkedInグローバル・パブリック・ポリシー・パートナーシップ責任者のサラ・スタインバーグ氏(右)
モデレーターは国連グローバル・コミュニケーション局イアン・フィリップス氏が務めた(左)
UN Photo

LinkedInならではのジョブスキルに関するデータの活用

ビジネス特化型SNSとして知られる「LinkedIn」は、現在、世界200か国以上、27言語で展開され、そのメンバー数は9億5000万に上る。スタインバーグ氏は「この多国籍かつ多言語のプロフェッショナルなネットワークを用いたデータは、ビジネス市場の動向を理解するための貴重な情報源として提供されている」と説明する。

「具体的には、仕事や職種に関連付くスキル情報、これらスキルの変化、需要、成長度合い、また、キャリアの進展といった他では得られないユニークなデータソースとなる。このような経済的なトレンドを見ることができるデータやその考察・洞察は、意思決定者が判断を必要とする際に役立つものだ」とスタインバーグ氏は述べる。

STEM分野における女性のキャリア育成には早い時期からの職業体験が必要

こうしたプラットフォームを基に、LinkedInでは、女性のSTEM分野でのキャリア動向に焦点を当てた調査を行っている。

同調査によれば「過去7年間では、STEM分野での女性の割合はすべての国で増加傾向にある。これは良いニュースだが、一方で、同分野での女性の地位は依然として低く、全体的に就業割合もまだまだ低い。また、これらの結果は、国によってかなりのばらつきがある」(スタインバーグ氏)。さらに、このジェンダーギャップが顕著に見られるのは、STEM分野の学位取得直後、いわゆる就職1年目であり、専門分野の学位を取得しながら、その分野のキャリアに進む女性が少ないことを指摘している。

この問題について、LinkedInは国連とマイクロソフトと開催した「女性の地位に関する委員会」の円卓会議でも取り上げた。「『女性がSTEM分野のキャリアへと進むために何が必要なのか』『インターンシップやジョブシャドーイング(※1)など、テクノロジー分野に興味を持つ女性に向けての初期の段階でのキャリア経験の重要性をはじめ、人材育成のためのメンタリングやネットワークの構築、女性がキャリアにおいて将来性を見いだせるような支援が必要である』といった議論が挙がった」(スタインバーグ氏)

同氏は「STEM分野の仕事は、イノベーションと経済成長の原動力であり、女性が参加することで、より包括的でより価値がある商品やサービスが生まれる可能性がある。強い思いを持って、ジェンダーギャップの課題に取り組んでいきたい」と述べた。

※1米国で行われている子ども向け職業体験プログラムの一種。中学生や高校生が半日程度、企業に赴いて従業員に密着し、職場での仕事ぶりを観察する。

「働きがいも経済成長も(目標8)」「人や国の不平等をなくそう(目標10」のキューブパネルを手に。「SDGメディア・ゾーン」では、SDGsに関係するさまざまなテーマをもとにした50ものセッションが開催された。UN Photo

AIスキル以上に求められるヒューマンスキル

セッションの後半は、AI時代を見据えた「未来の働き方」について語られた。スタインバーグ氏は「AIの可能性は非常にエキサイティングだが、私たちが実現したい未来を築くためにどのように行動すべきかを考える必要がある」と説いた。

LinkedInでは、AI、特に生成AIが労働市場に与える影響についても調査を行っている。これに関して、同氏は次の2つのポイントを説明した。

①仕事に関連するスキル変化のスピードが驚異的である。このスキル変化は、2015年以来、25%の割合で起こっており、生成AIの増加に伴い、2030年までに60%に達すると予想されている。私たちは絶えず変化するダイナミックな労働市場の中にいる。

②AIスキルへの需要が前例のないレベルで急増している。ChatGPTやGPTに対する求人数は、昨年11月と比較して22倍に増加した。重要なのは、テクノロジー分野だけではなく、すべてのセクターでAI需要が高まっていることである。

さらに、AI時代を見据え、もう一つの重要なスキルがあるとスタインバーグ氏は語っている。それは、適応性、柔軟性、創造性、コミュニケーションといった「ヒューマンスキル」だ。実際の調査でも、企業エグゼクティブの75%が「ヒューマンスキルは、AIスキルよりも組織にとって価値がある」と回答(※2)しているそうだ。

最後にスタインバーグ氏は「人間がAIに取って代わられるのではなく、AIは人間が本来持っている能力を補完するため活用されるもの。これが『働き方の未来像』として描かれている」と締めくくった。

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

トップ画像:iStock/Funtap
編集:タテグミ

※2 セッション内でのスタインバーグ氏のコメント。尚、2023年8月23日付の同社レポート「Future of Work: AI at Work」では、”米国の経営幹部の92%が、対人能力がこれまで以上に重要であるとした”との報告もしている。

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