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中間地点でSDGs達成度はわずか15%、GSDR執筆者の蟹江憲史氏が語る変革に向けた挽回策

2023年9月18日から始まった第78回国連総会ハイレベルウィーク2023に合わせて、ニューヨークの国連本部ではライブ配信イベント「SDGメディア・ゾーン」が開催された。日本からも研究者やメディア関係者が登壇したが、その中から慶應義塾大学の蟹江憲史氏と国連広報センター(UNIC)所長の根本かおる氏によるセッションを紹介する。

各国関係者がオンラインでメッセージを配信

SDGメディア・ゾーンには、各国から著名人や国連関係者、グローバル企業や研究機関、市民団体の役員等が参加し、議論のもようが国連のオンライン・プラットフォーム「UN Web TV」を通してライブ配信された。

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授の蟹江憲史氏は、国連広報センター所長の根本かおる氏とともに、「Science for accelerating transformations to achieve the SDGs(SDGs達成に向けた変革を加速する科学)」と題したセッションに登壇した。蟹江氏は、『Global Sustainable Development Report(GSDR)2023』の執筆に関わった世界の独立科学者15人の1人として、これからの挽回策について語った。

※セッションの動画は以下で視聴できます。

SDGs達成に向けた変革を加速する科学

蟹江憲史氏(左)と根本かおる氏(右)
写真:UN Photo/SDG Media Zone 2023

※以下はセッションを内容を要約・編集したものです。

根本かおる氏 今年の国連総会は、SDGsの実施期間15年の中間点、そして4年に1度のSDGサミットが行われるという点でとても特別なものです。蟹江先生は、今日のSDGサミット初日、実際に現場に入ってどう感じましたか。

蟹江憲史氏 やはり緊張感があります。SDGsが世界的に注目されていることが改めて分かりました。持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラムで政治宣言(Political Declaration)が採択されましたが、どうなるか分からないといわれていた中でコンセンサスを持って採択されたことは、非常に意味があったと思います。

根本氏 アントニオ・グテーレス国連事務総長はスピーチで、「誰一人取り残さない」がSDGsの大原則だが、現状は「SDGsを置き去りにするリスクを冒している」と、強い危機感を示しました。SDGsはどのような状況なのでしょうか。

蟹江氏 GSDRで公表したように、かなり進捗が厳しくて15%程度の達成率しかありません。半分の期間なのに15%だけ。非常に厳しい危機感が共有されたと思います。

根本氏 GSDRでは、変革(トランスフォーメーション)に向けたレバレッジをどのように効かせ、拡大していくべきかを分析していますね。

蟹江氏 SDGsの変革が大事ということで、GSDRでもどのように変革が起きているのか、実際にSDGsがどこで効いてきているのかについて見ました。実際にはS字形のカーブを描いて、時間とともに実験的な取り組みが広がっていき、その後安定的に社会全体に広がっていきます。

例えば現在、ノルウェーでは電気自動車が普及していますが、それは最近5年間くらいで一気に進みました。そのような普及がどうしたら出てくるのか。政策やソーシャルメディアの活用など、いろいろなやり方がありますが、GSDRではそのような事例を挙げて説明しています。

根本氏 ノルウェーの例を挙げましたが、日本ではSDGsがものすごく知られており、一般的な認知率は90%を超えています。しかし、変革に向けた実際のアクションの野太さはどうですか。

蟹江氏 知っているのはすごく大事です。90%を超える認知率は、今回の参加国の中でもトップと言えます。ただし、実際のアクションとなると、会社などではメインのビジネスではないところでやっていることが多いと思います。それをメインのビジネスで取り組むことが、今後は求められます。

根本氏 例えばCSRなど、そういった分野ではやっていても、事業のど真ん中で戦略を持ってぐいぐい押していくのはまだですね。

蟹江氏 今回ある航空会社が、東京-ニューヨーク間サステナブル・チャレンジフライトという取り組みをしています。通常は化石燃料100%で飛行機を飛ばしますが、そのうち10%程度をバイオ燃料に代えました。その分だけ、CO2排出量を減らすというチャレンジです。たった10%とも言えますが、それでもチャレンジすることが今は求められています。今年は東京-ニューヨーク間だけですが、このチャレンジを来年はもう少し増やして、2030年には当たり前になるようステップを踏んでやっていく。本業でチャレンジすることが今一番求められていますし、それを後押しする政策が日本には足りていないと思います。

根本氏 政策誘導も必要ですね。最初はパイロットとしてやって、うまくいく確証が得られても、その後も政策がしっかり寄り添ってくれなければ怖いです。

蟹江氏 SDGsに取り組みたいけど、後押しがなくてできないという人たちが、企業や国の政策担当者の中にたくさんいると思います。そういったところが投資するためにも、例えば法律の枠組みや基本法を作ることが大事だと、参加している円卓会議でも提案してきました。そういった後押しをする仕組みを作ることが、後半戦に向けて非常に大事です。

根本氏 蟹江先生も関わっているSustainable Development Solutions Network(SDSN)では、SDGs達成度ランキングを公表しています。日本はスルズルとランクを下げてますが(日本は2017年の11位から徐々に下がり続けて2023年は21位)どういった背景があるのでしょうか。

蟹江氏 本気がまだまだ足りないないからだと思いますが、ズルズルと下がるというのは、逆に他がジワジワと上がっているわけです。他がアクションを強めている中で、日本は出だしは良かったものの、そこから先に進めておらず、相対的に後退していることが大きいです。

根本氏 グテーレス国連事務総長は、「私たちは、勝つことができる。今すぐに行動を起こすなら。共に行動するのなら。今こそ、その時なのだ」と、アクションを今取ってほしいと強く呼びかけました。蟹江先生、後半戦に向けてどういったことが言えますか。

蟹江氏 GSDR 2023でも、今危機の時代だからこそ変化が必要だという意味でタイトルを「TIMES OF CRISIS, TIMES OF CHANGE」としました。これはよく、サッカーの試合に例えられます。前半は様子見しながら、相手の強いところと弱いところが分かり、ハーフタイムに選手を交代することがあります。日本も2022年のFIFAワールドカップで後半に逆転しましたよね。そういうゲームチェンジャーを見つけて、そこに注力することがこれからは求められてきますし、我々も含めてゲームチェンジをする力になることが大事だと思います。

GSDR 2023の表紙には「TIMES OF CRISIS, TIMES OF CHANGE」さらに、今回のセッション名にもつながる「Science for Accelerating Transformations to Sustainable Development」と記されている。

根本氏 後半戦の攻勢を期待したいです。最後に一言、日本の皆さんにお伝えください。

蟹江氏 日本では、科学のベースが軽視されがちな気がします。我々科学者も変わらなければいけませんが、政策担当者、市民の皆さんも、ぜひ科学の声に耳を傾けて、後半戦に爆発的な転換をしていければなと思っています。

根本氏 ピンチをチャンスにですね。蟹江先生、どうもありがとうございました。


文:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。

トップ画像:UN Photo/SDG Media Zone 2023

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