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IDEATIONS TALK#03:Dentsu Lab Tokyo 越智一仁氏と語るプロトタイピングと社会実装の関係性|IDEATIONSイベントレポート

こんにちは! CX推進室です。
先日開催された『IDEATIONS Vol.2』のトークイベント「IDEATIONS TALK#03:Dentsu Lab Tokyo 越智一仁氏と語るプロトタイピングと社会実装の関係性」について、イベントレポートを公開しました。このセッションでは、ゲストにDentsu Lab Tokyoの越智 一仁氏を招き、D2C IDメンバーとプロトタイピングに関するトークセッションを実施します。目まぐるしく変化する世の中で、社会実装から逆算した時に生まれるプロトタイピングの持つ価値、広告コミュニケーション表現との関わりを探ります。本記事ではその一部を抜粋しご紹介させていただきます。

▶︎特別ゲスト
越智 一仁(電通 zero / Dentsu Lab Tokyo クリエイティブディレクター)

▶︎スピーカー
株式会社D2C ID
山口 浩健(取締役 COO)
上林 新(IMG SRC STUDIO 体験創造ユニット マネージャー プロデューサー)
田中 誠也(IMG SRC STUDIO 体験創造ユニット マネージャー テクニカルディレクター)

左から:山口、上林、田中、越智

越智 一仁(電通 zero / Dentsu Lab Tokyo)
得意分野は主に、映像表現、デジタル、PRなど。それらを掛け合わせて、手法にとらわれないニュートラルなコミュニケーション設計で、課題解決を行う。営業、コピーライター、CMプランナーを経てzero、Dentsu Lab Tokyoにて現職。主な仕事に、ネピア「Tissue Animals」、小林市「ンダモシタン小林」、グリコ「GLICODE」、ヤフー「聞こえる選挙」、ヤッホーブルーイング「先輩風壱号」「無礼講ースター」、森ビル「DESIGNING TOKYO」、TOKYO2020「Guide to the Games」、グリコ「いつかさそおう、を今日さそおう。」など。


プロトタイピングへの思いを新たに活動するIMG SRC STUDIOの現在

冒頭では、「CX CRAFTS」を掲げ、その実践値によって、複雑で難解になりがちなCXのプロジェクトに幅広に伴走できるD2C IDについて、山口から簡単にご紹介させていただいた後、田中から、IMG SRC STUDIOが目指す「ものづくりサイクル」についてもお話しさせていただきました。これは、人/プロダクト/経済、全てにおいてCREATE(創造)し、CULTIVATE(育成)し、SOCIALIZE(社会実装)していく「ものづくりサイクル」を実現させることで、好循環な環境が生まれるというIMG SRC STUDIOの考えで、D2C IDとして活動する以前から長年大切にしながら、R&D活動を続けています。今回開催された『IDEATIONS Vol.2』も、まだ見ぬ体験をつくり出すためのR&D活動の一貫となっています。

田中:未来から逆算して考える、使われるシーンや用途からのビジネス的な側面をもつアプローチである「戦略的バックキャスティング」、現在を起点に未来を予測する原体験や直感的な楽しさ、おもしろさからの感情的な側面のアプローチである「実験的フォアキャスティング」、この2つの視点をもってR&D活動を進めていくことをメンバーで共有し、プロトタイピングしていくことへの思いを新たに、今回『IDEATIONS Vol.2』の開催を迎えました。

プロトタイピングとは一体何なのか

これに対し、ゲスト越智氏の考えるプロトタイピングについても語られながら、クロストークが開始されました。

越智:顧客と商材を接触させる情報伝達、いわゆる「マーケティング・コミュニケーション領域」が主軸とされていた時代もあり、それがいつの頃からか、体験設計を伴った「エクスペリエンス領域」と呼ばれるようになったり、置き換わったり重なったりしてきました。ポスターやCMといった言葉と画だけでは伝わりきらないのではというところから、触れたり感じたりすることで理解が深まる体験が求められてきました。はじめはデジタル技術では不可能であったことも、この10〜15年くらいで実現可能になってきたなと、感じています。

越智:そんな時代を経た今、改めてプロトタイピングの意義/目的/方針などについて表すなら、すべては「合意形成」のためというところに話が及ぶのかなと思います。そしてプロトタイピングとは一体何なのかと言うと、これをやっていれば「速くて正確」に「合意形成」ができる、と。ただ、この合意形成をおこなうための活動は、カンプ/コンテ/モックなど、これまでの広告制作領域でもやってきていることで、やり方が変わっているだけです。クライアントも広告制作をおこなう私たちも、みんな失敗したくないと思うなかで、プロトタイプで体験することで、みんなができると信じられることが重要だと思っています。想像力に違いはありますので、動かざる証拠をつくるのが、私にとってのプロトタイピングです。

山口:広告領域ですとフィジビリティ確認と言われますが、越智さんのご経験から、企画を通す際にプロトタイプをつくることで、もたらされる「強さ」について教えていただけますか。

越智:やはり事例があった方がわかりやすいですね。それにより意思決定がされたり予算調整がおこなわれたりと、明確な着地ができると思います。

山口:IMG SRC STUDIOのメンバーにも聞いてみたいのですが、今までなかったものを提案する際の考えを教えてください。

田中:近年における最新技術、例えば今回の展示でも注力している「XR」に関するコンテンツは、まず体験しないとわからないと思っています。先ほど越智さんがおっしゃっていた、プロトタピングが「合意形成」のためというのは、ひしひしと感じるところです。

上林:提案時の資料が自社/他社のリファレンスばかりになってしまうと、どことなく既視感のある感じになってしまい、あまり新規性がない提案になってしまいます。
そこで、特に新規性を求められる提案では、プロトタイプまで作って見せた方が、クライアントとの共通認識を得やすかったりもするので、そのためにも必要な手法だと思っています。
もちろん、リファレンス集めも非常に大事なことには変わりないのですが、その先の新たな体験を作っていくためには、とても有効な武器となりますね。

越智:広告活動するうえで、新規性があるのは重要なことですね。新しいものであれば、メディア露出が獲得しやすいということもあり、チャレンジしていきたいと私も思っています。

上林:同時にリスクもありますが、制作時にプロトタイピングすることで、その恐さを乗り越えていきたいですね。

プロトタイピングにおける課題感

ここからは、それぞれが考えるプロトタイピングにおける課題感を話していきました。

越智:私たちとしては、つくれる人のアサインから始まるので、最終的にこうしたいっていうのを伝えるために、どのレベル感でつくればみんなが信じられるか?ということはいつも考えています。

田中:私は、制作者であると同時にマネージャーでもある立場からは、組織として、プロトタイピングする文化と場をつくっていくことの重要性を感じています。ものづくりをすることが、個人にも会社にも社会にも良いってことを体感できる場づくりには力を注いでいます。

越智:クライアントへの提案時だけでなく、日常としてどう定着していくかというところにも課題感があるかもしれないですね。

山口:プロトタイピングというと、直感的なおもしろさからつくるフォアキャスティングに偏りがちな気がしていて、その大切さは理解しつつも、新しいものを戦略的にビジネスに用いるバックキャスティングなプロトタイピングの視点も大切で、私たちもその2点が重なるように意識しプロトタイピングをしようと、足並みを揃えています。越智さんのプロトタイピングのお取り組みでは、バックキャスティング的なものが多いなとお見受けしますが、その点について詳しく聞かせてください。

越智:クライアントワークを主活動とするうえで、バックキャスティングは7割、フォアキャスティングは3割など、割合は念頭に置いてもいいのではと思っています。フォアキャスティングは、当たったときに驚きが大きいので、そこに投資をしていくのは大事ですし、片やバックキャスティングは、世の中に受け入れ易いものであるかという視点をもってつくることも大事だと思っています。どちらが優れているとかはありません、一長一短ですね。ですが、今どっちでやっているんだという意識は、個人でもチームでも持ちながら取り組むことは重要だと思います。

越智氏のプロトタイピング事例

ここからは、プロトタイピングが活かされた越智氏の手がけた事例がいくつか紹介されました。その代表事例のひとつとして挙げられたのが、ヤッホーブルーイング『先輩風壱号』。
(参考:https://dentsulab.tokyo/works/senpaikaze

ビールを通じて世界平和を目指すクラフトビールメーカー「ヤッホーブルーイング」による、飲み会を楽しくフラットにすることを目的とした企画で、オフィスで偉そうに振る舞う上司の「先輩風を吹かせる」ことの「先輩風」を実体化するマシンの開発をしたという、大変ユニークな事例です。
仕組みとしては、例えば「俺の若い頃は」といった「先輩風」に相当する2000語超のキーワード、感情、性格をAIで解析、振られてたスコアの閾値で、本物の風を吹かせるというものです。

越智氏のプレゼンテーションでは、媒体露出などその反響と共に、提案時に実際使われたプロトタイピングの紹介があり、企画提案の序盤でおこなわれたプロトタイピングと、スピード感をもって意思決定された詳細が語られました。

事例全体を通して、越智氏は、「議論が温まっているうちにつくってしまうこと」が肝になること、さらに大切にしていることを語ってくださいました。

越智:気をつけているのは、技術視点と世の中視点を行き来することです。世の中的に楽しいのか?という視点をクリアしつつ、技術的にはこの新しい要素を取り入れよう!などと、世の中に情報価値のあるものに仕上げていくことが大切です。また、「新規性」「驚き」「共感」があることが、GOを出す基準としています。

これに対し上林からは、ひとつの機能を加えることで、バックキャスティングだったはずのものがフォアキャスティングになることもあると、自身の経験を踏まえた感想を述べました。

IMG SRC STUDIOのプロトタイピング事例

続けて上林から、IMG SRC STUDIOでのプロトタイピングの発展事例についてプレゼンテーションさせていただきました。                        

上林:バックキャスティング/フォアキャスティングの視点は、今年明文化しましたが、ここ2年程で我々も言いはじめたこと。それ以前は、割とフォアキャスティングに寄ったものが多かったです。ここからは、フォアキャスティングなプロトタイプがクライアントワークに活かされた発展事例についてお話しさせていただきます。

ここで話されたのは、実空間の映像にシンクロしたARが、プロトタイピングから展示会での作品出展、そこからクライアントワークに繋がり、さらにオリジナルワークに結びついた例です。

上林:プロジェクションしている映像の枠にマーカーを仕込み、映像が飛び出してくるAR『AUGMENTED SCREEN
(参考:https://www.imgsrc.co.jp/lab/proto04-augmentedscreen/)』を2018年11月のプロトタイプ展示会で発表、
これを発展させ、実空間に球体がある形で、Media Ambition Tokyo 2019に発表したのが『Gate(参考:https://www.imgsrc.co.jp/lab/mat2019-gate/)』という作品です。

この作品をご覧いただいたクライアントから、映像とARがシンクロしているのって新規性があるねとお声掛けいただき案件化したのが、2019年11月に発表した『Lupin the Third Cinema AR Mapping(参考:https://www.imgsrc.co.jp/work/hibiyacinemafestival-lupin/)』です。ここまで、1年というスピード感をもってやっています。
そしてその後、オリジナルワーク『LIVE/AUG(参考:https://www.imgsrc.co.jp/lab/liveaug/ )』も発表。これまでは出来合いの映像に対してのARでしたが、例えば楽器の音を押した時に反応させたり、音の情報を出したりといった、ライブ映像と実質同期させた(遅延は差分を出して実質同期させていいる)AR体験まで繋げています。

次に紹介した事例は、『FROLIC(参考:https://www.imgsrc.co.jp/lab/proto04-frolic/)』というプロトタイピングから、クライアントワークで進化し発展したものです。このプロトタイプは、体験者がマイクに向かって吹き込むと、管の下についたファンが作動、風が起こるようにキラキラ(ホログラムのようなもの)が浮遊するというもの。これをご覧いただいたクライアントとの対話によって、音の問題やホログラムの浮遊の機序をつくり変えて案件化した例です。

上林:使っている技術こそ変わりましたが、インタラクティブに浮遊するキラキラの見た目とアイデアをお買い上げいただきました。

田中:今回の『IDEATIONS Vol.2』の共創展示の考え方もそうですが、このまま使ってもらうのではなくて、私たちはプロトタイピングをアイデアの種として捉えながら開発しています。

Dentsu Lab Tokyoで取り組む事例

最後に、Dentsu Lab Tokyoで取り組んでいる事例についても紹介がありました。

ターンテーブルに置かれた壺の細かな凹凸や形状、色味をセンサーで読み取ることにより、リアルタイムに音楽を生成するプレーヤーを制作。データを可聴化する技術を応用してR&Dから案件化に繋がった『TOKONOMA(参考:https://dentsulab.tokyo/works/tokonoma 』、抱きしめるという行為をデータ化し、人工筋肉を使って自分や他者にフィードバックやアーカイブ化できる『Hugtics(参考:https://motiondatalab.com/hugtics/)』というプロジェクト、アップサイクルの世界にいろんなアプローチを仕掛けていくため、飲み口に温度変化をつけるといった「金継ぎ×テクノロジー」にチャレンジした『UP-CYCLING POSSIBILITY』(参考:https://www.instagram.com/ucpproject/)』、アーティストのライブ演出にあわせ、参加者によってインタラクティブに生成されたAI演出がバーチャル会場を飾っていくAI×VRの共創型体験『LAIV(参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000088502.html)』といった、プロトタイピングの可能性を感じる様々なプロジェクトのプレゼンテーションがありました。

さいごに

そこから越智氏は、バックキャスティングとフォアキャスティングを行き来すること、抽象と具体の行き来が大事である旨を語ってくれました。

越智:クライアントと課題を共有した際に、このプロトタイピングで知り得た方法を適応させたらどうなんだろうと思いつくことができるように、プロトタイピングしたことを整理しておくことは大事です。今回の『IDEATIONS Vol.2』でも感じたのですが、見て体験して楽しいというだけではなくて、これって何に転用したら楽しんですかね?って制作者とアイデアを広げていくことに、プロトタイピングの面白さがありますし、案件での武器となり得るのではと思います。

また、つくったからといってすぐ結実するものではなく、想像を巡らせながら、みんなで共有しておくことが大切であるとの越智氏の考えから、IMG SRC STUDIOの3名からも、この文化を繋いでいくことの意志が語られました。

田中:今回のようなプロトタイプの展示会の場だけではなく、こまめにアウトプットしていく場づくり風土づくりに、引き続き取り組んでいきます。

上林:案件化はゴールではなく通過点でもあります。常に新たな体験づくりを追い求めるチームとして、その先にまた課題があることも意識しながら、取り組んでいきたいですし、そんな想いや文化がIMG SRC STUDIOには培われてきたと思っています。

山口:私の役割としては、この文化を絶やさないようにどう繋げていくのか。力を注いでいきたいと思っています。

いかがでしたでしょうか。
全3回に渡るIDEATIONS TALKは、次回もレポートしていきますので、noteやSNSをフォローしチェックしてくださいね。
今回時間の関係で話しきれなかったこと、記事に含めていない内容などもございますので、社内外で興味をお持ちの方はぜひお声掛けください!


『IDEATIONS Vol.2』についての記事はこちらからご覧ください。

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