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現代長歌

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「現代長歌」
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記事一覧

Less is more

焼けたパンを聡はしかたなく口に運んだ
早紀はその光景を絵画を見るように愛しんでいた
「脱線事故があったらしい。今日の未明に」
早紀は聡の言葉を読み解きながら彼のエスプリをくみ取った
「そうでしたか。何を急いで生きているのでしょうね」
聡と早紀の時間は確かに穏やかだった。卵が茹で上がるまでに
世界をもう一度創造してしまうほどだった――
新聞を畳んだ聡は早紀を見つめ「Less is more」と呟いた

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詩編137編について

‭ まずは、聖書を開いて。

詩編 137:1-9 新共同訳‬

[1] バビロンの流れのほとりに座り シオンを思って、わたしたちは泣いた。 [2] 竪琴は、ほとりの柳の木々に掛けた。 [3] わたしたちを捕囚にした民が 歌をうたえと言うから わたしたちを嘲る民が、楽しもうとして 「歌って聞かせよ、シオンの歌を」と言うから。 [4] どうして歌うことができようか 主のための歌を、異教の地で。 [5

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BOX

大きなBOX、そして小さなBOX。
大切な物を入れたBOX、ただの
BOX。金の、いや、白金のBOX。
「酒を嗜めるようになったね。」
「神学が不得意な神学生だね。」
赤い郵便ポスト。深大寺から最
後の月詠になる。四年間の悲喜
交々。神学修士受領。20240308
反歌 四年間の思考のBOX固め
られ神とのBOXINGヤコブの内腿

歌は世につれ、世は歌につれ

日本のキリスト教会(プロテスタント)は、知識層に受け入れられたとよくいう。
例えば、医師や看護師あるいは学校の先生など比較的知識がある者たちが享受していったという。
(そういう点では新興宗教(外来宗教)はどれも似たものか?)

しかし、その反対に、カトリックの来日しているフィリピン人などは共同体意識を強く持っていたりする。
カトリックの暦で熱心に祈る姿を見たことがある。
しかし、彼女たちは、定めら

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それ

女 どうしても「それ」じゃなきゃダメ?
男 「それ」じゃない。「これ」だ
女 言葉の綾じゃないの。じゃあ「これ」を。どうするつもり?
男 言葉のために言葉を重ねないでくれ。「これ」が泣いてる
女 私には分からない。「これ」は泣いているのね
男 あぁ、泣いている。君には分からないの?
女 えぇ、残念だけど
男 海は疲れない。そして、そんな目で見ないでおくれ
   反歌
青にたぶりふつふつと海の底は死

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時と場は物語る

 立ち続けている記録する者。
 そして、切り取られた会話を、詩へと昇華する。
 この詩人は、客観性を重視している。
 だから、時間と場所を特定して、そこで起こった「音」を記録し続けている。

 しかし、しかしだ。
 この詩人の主観性も感じうる。
 つまり、「音」を書き起こす段階で
 詩人の取捨選択が行われている。
 それは、もはや街の音から詩人の言葉へ昇華されているのだ。
 しかも、この詩人のコン

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Hotel California

Smith 灯りは、この電球だけかね?
Porter えぇ、当ホテルに窓はございません
Smith 窓がない? まぁ砂に汚れるよりいいか
Porter えぇ、皆様そうおっしゃいます。砂がひどい、と
Smith 食事は?
Porter パンと簡単な魚ばかり――
Smith 多くを求めてはいけないな
Porter えぇ、皆様そうおっしゃいます。魚は貴重だ、と
      反歌
窓のない部屋でけむりと砂

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知らない町

駅から少し離れて中華屋は外から見えないように赤い

知らない町の知らないオブジェきっと昔 文化に金をかけれた時代の

人なんて駅舎にもいないタクシーの運転手さえ隠れて眠る

タバコやめたタバコの香り思い出すやることがなければ命を減らす

知らない町の知らない俺の掌 春と名付けたアスファルトの砂

パチンコやラブホテルの外壁廃れ猫も鳴かない前世紀末

駅、それは二つを結ぶアポカリプス ホテルにギデオ

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芝生は刈り均らされている

so much depends / upon
a red wheel / barrow
glazed with rain / water
beside the white / chickens【W.C.Williams】
――舌を噛む、味のしない唾液、意味のない時間
  目をかく、枯れてしまった涙、こみ上げる憎悪
  爪を切る、来ない恋人、遠のいた追いかける愛
  身体を洗う、乳の匂いをした子、死

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