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刑事告訴・告発 ~その2

告訴告発の概要については、前回記載のその1をご覧下さい。

今回は、告訴告発を受けた捜査機関の義務、受理してもらうための工夫などについて書きます。


告訴・告発に伴う効果(義務)

その1でもちょっと触れましたが、告訴を受理すると、警察や検察には、様々な義務が生じるんです。

刑事訴訟法などでは
○ 司法警察員なる警察官は、告訴・告発を受けたときは、告訴調書もしくは告発調書を作らなければならない(刑事訴訟法第241条2項、犯罪捜査規範第64条)。
○ 告訴・告発を受けた捜査機関は、捜査を尽くす義務を負う(警察官職務執行法や刑事訴訟法第242条、犯罪捜査規範第63条、刑事訴訟法第189条2項等)。
○ 捜査後速やかに、これに関する書類及び証拠物を検察官に送付(書類送検)しなければならない(刑訴法第242条)。
○ 検察官は起訴または不起訴の処分をしたとき、速やかにその旨を告訴人に通知しなければならない(刑事訴訟法第260条)。
○ 不起訴の場合は、告訴人の請求があれば不起訴の理由を告げなければならない(刑事訴訟法第262条)。
などの義務が規定されています。

慎重になる捜査機関

受理した捜査機関においては、前記の義務等が生じること、事件な複雑で証拠資料が乏しい、立件起訴が困難な告訴も多い、発生事案におわれ捜査が滞る、民事の道具に利用されるためにする告訴も多いなどの理由から、民事的トラブルが絡む告訴や告発には、非常に慎重になります。

(筆者撮影)

受理してもらうために

告訴状や告発状を受理してもらうためには告訴する側も工夫が必要です。
そのための方法としては

○ 事前相談をする
警察に事前に相談をすることで、告訴するために必要な問題点、収集すべき証拠など、告訴のために準備すべき項目の目安が分かり、スムーズな受理につなげることが出来る可能性が高まります。

○ 複数の被害者がいる場合には、出来る限り一緒に行う
犯罪や被害の規模が大きい方が、より公益性が高く、受理され易くなります。また同種の被害者がいる場合には証拠資料とも収集しやすく犯人の悪質性の立証にもなります。

○ 示談が不可能であることを伝える
民事的な解決の余地がある場合には刑事事件としての取扱いに消極的になりがちです。
告訴という手続きを示談交渉の切り札に使い示談をまとめ、告訴を取り下げる可能性があるからです。

○ そのほか
・ 相談や告訴状提出時の状況を記録をしておく
・ マスコミなどの活用
などの方法もあるが、一方で、逆告訴されるなどのリスクを追う可能性もあることを理解し注意する必要があります。

告訴・告発を受理してもらえない場合(苦情の申出)

正当な理由なく、告訴状を受理してもらえない場合には、警視庁や各道府県の警察署本庁に設置されている相談窓口や監察官室への相談や苦情申し入れ、または公安委員会による苦情申出という方法があります。

刑事訴訟に費用はかかるのか?

刑事訴訟法第第181条によると、有罪の場合は被告人が「訴訟費用の全部または一部」を負担することが定められています。 ここでいう訴訟費用とは、刑事裁判に出廷した証人の日当や旅費、刑事裁判において発生した鑑定料や通訳料などが該当します

告訴の取消しについて

刑訴法第237条1項により、告訴は公訴の提起がされるまで取り消すことができると定められています。 告訴をした人は、検察官が裁判所に起訴状を提出し刑事訴訟を提起するまでの期間なら、いつでも告訴の取り消しを行うことができるのです。

親告罪は刑事告訴がないと起訴できない

いくつかの犯罪には被害者などの告訴権者によって刑事告訴されないと起訴できないものがあり、それを親告罪といいます。
刑事告訴の代わりに、刑事告発や被害届によって親告罪を成立させることはできません。

親告罪の時効

申告罪になる罪としては、侮辱罪や名誉毀損罪などがあります。
親告罪については原則6箇月という告訴期間があるので、この期間を経過した犯罪の告訴は認められません(刑事訴訟法第235条)。
「犯人を知った時から6か月経過してしまうと、告訴することができない」と定められています。

刑事訴訟法第235条 
親告罪の告訴は、犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。ただし、刑法第232条第2項の規定により外国の代表者が行う告訴及び日本国に派遣された外国の使節に対する同法第230条又は第231条の罪につきその使節が行う告訴については、この限りでない。

公訴時効も・・・影響

公訴時効とは、犯罪の刑の軽重に応じて定められた、一定期間を経過することにより検察官の公訴権を消滅させて公訴提起することができなくなる制度。
強制わいせつ罪、強姦罪、準強制わいせつ罪、準強姦罪等は告訴期間がないので、6箇月を過ぎても告訴することができます。

しかし、犯罪には公訴時効があるのです。
公訴時効が過ぎている犯罪については、公訴提起が認められません。つまり捜査を遂げても公訴時効が完成してしまうと起訴できなくなり、罰則が科せられなくなります。
したがって、公訴時効を経過した罪に関する犯罪については告訴を受理しません。

なお、公訴時効については、皆さんも「殺人罪」、「強盗致死罪」、「強盗強姦致死罪」等の犯罪について、「時効が廃止された」ということを聞いたことがると思いますが、この時効というのは「公訴時効」のことです。
公訴時効については、刑事訴訟法250条に規定されているので関心のある方はのぞいてみてください。

検察審査会への申し立て等

告訴・告発をし、不起訴処分となった場合は、告訴人・告発人は検察審査会に対して申立てを行い、不起訴処分の当否の審査をするよう申し立てることができます(検察審査会法2条2項、1項1号、30条)。
また、不当な不起訴処分がなされた可能性のある公務員職権濫用の罪等一定の犯罪については、告訴人等は、裁判所に事件を審判に付すことを請求することができます(刑事訴訟法262条1項)。

虚偽の告訴

虚偽の告訴とは、相手に刑事処分・懲役処分を受けさせる目的で、故意に、捜査機関や懲戒処分権者に対し、客観的事実と異なる虚偽の告訴を行うことをいい、このような行為をすると虚偽告訴罪(刑法172条)に該当する可能性があります。
虚偽告訴罪の罰則は、3ヶ月以上10年以下の懲役です。

刑法第172条
人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、 3月以上10年以下の懲役に処する

虚偽告訴の多い事案

虚偽告訴で多いのは、痴漢やストーカー・強姦などの被害でっちあげ、ひったくりやひき逃げの事件ねつ造など。
虚偽の告訴や告発は、警察や検察の捜査、裁判の手続きや審判等、国の適切な公務の妨害となります。
また、虚偽告訴を許すと、多くの人に冤罪で犯罪者扱いされる恐怖を生じさせ、さらには犯罪被害者にも申告をためらわせる事態を引き起こす等、社会に多大な悪影響を及ぼす重大犯罪です。

虚偽告訴罪の構成要件

虚偽告訴罪となるには、以下の構成要件を全て満たしていることが必要です。
・ 刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で
・ 客観的事実と異なる内容の告訴や申告を
・ 刑事や懲戒の処分権限がある者に行うこと
です。

ちょっと解説すると、虚偽告訴罪が成立するためには
○ 故意に「刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的」で行われた必要がある。過失(誤解)で相手が犯人だと思い込んで告訴などをした場合には虚偽告訴罪にはならない。
○ 「虚偽の告訴や告発、その他の申告」が要件であり、この場合の「虚偽」とは、客観的真実に反することを申告すること(「客観説」:最高裁 昭和33年7月31日決定)。
ということで、
犯人では無いと思いつつ、主観的事実(記憶等)と異なる嘘を申告した場合であっても、実際に犯人だったという場合は、虚偽告訴罪は成立しないということになります。

さいごに

いろいろ読み解いてみると告訴告発の手続きも大変ですね。
私人ではなかなか難しそうです。
告訴告発は、何か犯罪がありその犯人の処罰を求める意思表示です。最終的に犯人を司法の場での処罰を尾もとる行為であるので慎重に行われないと行けないですね。
いずれにしても告訴告発をする際には事前に警察署や弁護士に相談すると良いですね。

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