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未成年(責任無能力者)の監督義務者の責任って?


|責任無能力者

辞書で「責任無能力者(せきにん‐むのうりょくしゃ)」と引くと、
①  民法上ほぼ12歳未満の者、心神喪失者などで、不法行為による損害賠償責任を負わない者。
②  刑法上、14歳未満の者、心神喪失者で、刑事責任を負わない者。
と出てきました。

民法と刑法では、未成年者の場合の責任能力の基準となる対象年齢等に若干の相違があるようですね。

前回、損害賠償について触れましたので、今回は責任無能力者、特にそのなかでも「未成年者」に着目し、未成年者が不法行為をした場合に賠償責任などがどうなるのか、民事上親権者はどのような責任を負うかについて説明します。

1 未成年者の責任能力

未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(これを「責任能力」という。)を備えていなかった場合、当該行為について不法行為の損害賠償責任を負わない(民法第712条)とされています。

〇 民法第712条(責任能力)
 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

民法上の「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えている」、つまり責任能力が認められるのは何歳?なんでしょうか。

上記の責任無能力者の解釈では「ほぼ12歳程度」と推察されるのだ・・・。
これは判例の積み重ねで判断されている数字であり、具体的な事案により、また、対象の未成年者の知識や能力などによっても異なるといえます。

判例をみると「11歳11か月の少年(自転車を乗っていた時に他人を負傷させた事案)で責任能力」を認めた判例があるが、一方で「12歳7か月の少年(空気銃で射撃し誤って他人を失明させた事案)」で責任能力を否定した判例もあるのです。

とはいえ、目安としては概ね12~13歳以上であれば、民法上は責任能力がある(責任能力者)と一応は考えても良さそうです。

2 監督する義務を負う者の責任

それでは、少年が民法第712条に定める責任無能力者であった場合に監督義務を負う者(民法では「監督義務者」と表現している。以下「監督義務者」ということに。)はどのような責任を負うのでしょうか?

〇 民法第714条
1項 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
 ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2項 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

○「監督義務者」とは

法定の監督義務者がいればその者となるが、未成年者の場合には、
18歳未満については親権者(第820条)
未成年後見人(第857条)
児童福祉施設の長(児童福祉法第47条)およびこれらの者に代わって親権を行使する者
ということになる。

○監督義務者の責任は

民法第714条は、未成年者の不法行為について当該未成年者に責任能力がないため被害者が損害賠償請求できない場合において、監督義務者(親権者(民法820条)が代表的である)が

① 監督義務を怠らなかったことを証明できない場合
② 監督義務を怠らなかったとしても損害が生じていたこと(=監督義務違反と損害との間の因果関係が存在しないこと)を証明できない場合

に、被害者を救済するために被害者に対する損害賠償責任を負わせることを規定しています。

○「監督義務を怠らなかった」とはどのような場合?

この監督義務には、危険発生の予見可能性がある状況下で権利侵害の結果を回避するために必要とされる行為をなすべき義務に限定されず、責任無能力者の生活全般についてその身上を監護教育すべき包括的な義務を含むとされています。

したがって、このような包括的義務を前提にすると、監督義務を尽くした(怠らなかった)ことを証明する(「免責証明」という。)ことは極めて困難ですよね。

○未成年者に責任能力がある場合

不法行為をした未成年者に責任能力が備わっている場合は、未成年者であったも賠償責任を負うことになります(民法第712条)。

では、未成年者に責任能力があると認められる場合には、民法714条に基づく監督義務者の責任が適用されないということになりますよね。
そうすると、被害者は資力のない未成年者に損害賠償を請求しても弁済されないという極めて不均衡な状態が生じることになると想定できます。

そこで、民法第709条の「不法行為責任」の出番になります。
責任能力のある未成年者の不法行為により生じた結果と、未成年者に対する監督義務者の義務違反との間に相当因果関係が認められれば、監督義務者に民法709条の不法行為責任が成立するということになっています。

一般的には、責任能力が備わっているといっても、被害者が、資力のない未成年者に損害賠償請求をしても実効的でなく、資力のある監督義務者の不法行為責任を認めることの方が被害者を救済するためには実効性があります。

○民法第709条と民法第714条の監督義務の違い

民法第709条の不法行為責任を問うには、民法第714条の場合のように、未成年者の身上を監護教育すべき包括的な義務を前提とする監督義務ではなく
 危険発生の予見可能性がある状況下で、権利侵害の結果を回避するために必要とされる行為をなすべき義務
があるということを前提とする監督義務ということです。

同じような監督義務でも、「民法第709条適用の監督義務」は比較的狭い限定的な状態における監督義務を指し、「民法第714条適用の監督義務」は親権者等の包括的な広い意味での監督義務を指すという関係になります。

|今回のまとめ

いずれにしても、未成年者であり責任能力がない場合はもちろん、責任能力がある場合でも、保護者など監督義務者は損害賠償義務が生じることがあります。
小学生の自転車事故で、監督義務者である保護者にも1億円近い損害賠償金の支払いを命じた判決もあります。

監督義務のある保護者等は、子供達が自転車による加害事故や、その他キャッチボール中に隣家の窓ガラスを破損させたりといった日常的な危害行為などで損害賠償義務が生じる場合を想定して、自転車保険や日常賠償責任保険などに加入しておくことが必要ですね。

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※コースにより変わります。 


<参考判例>
○最高裁平成27年4月9日 子供の蹴ったボールで事故、親の責任認めず
○最高裁昭和49年3月22日 監督義務者に不法行為責任(709条)有りとした
○最高裁平成28年3月1日 認知症の事故 民法第714条第1項の法定監督義務者該当性
など

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