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知人に苗をあげられない? ~「種苗法」

知っていますか?
人に「苗をあげられない」のだ。
といってもすべてではない。
農林水産省に登録されている品種を許可なしで苗を売ったり、配布することは禁止されているのだ。
実は「種苗法」という法律によって規制されているんです。


|種苗法

この法律は、1998年(平成10年)に施行された法律で、新しい植物の品種を作った人のお金や手間に報いるために、開発した人の権利を保護することを目的としている。
著作権や意匠権などで知的財産権が保護されているのと同じように、種苗法農林水産省に登録された品種の植物の苗を無許可で販売、配布することを禁じているのだ。

|種苗法の一部改正

2020年12月種苗法の一部改正が行われ2回に分けて施行され、令和3年(2022年)4月1日に完全施行された。
この改正で、従来は努力義務であった「登録品種である旨」の表示、法改正で新たに設けられた輸出の制限及び栽培地域の制限がある場合の表示などが法的義務となった。
罰則は10万円以下の過料が課せられる。

|改正内容のポイント

〇 品種登録された登録品種の自家増殖には、育成者権を持つ育成者権者の
 許諾
が必要。農家から流出するのを防ぐために収穫物から種や苗を採っ次の作付けに使う「自家増殖」を行う場合も開発者の許諾が必要になった。

〇 農研機構や一部の県が育成者権を持つ品種では、許諾の手続きや許諾料
が必要。
ただし、手続きも許諾料も求めず、従来と対応の変わらない都道府県も多い。

〇 種苗の譲渡(販売)時に①~③の表示のいずれかを、種苗又はその種苗
の包装に表記する必要がある。
 ① 「登録品種」の文字
 ② 「品種登録」の文字 及び その品種登録の番号
 ③ PVPマーク
 ※ 登録品種(過去に登録品種であった場合も含む)を譲渡(販売)時の
  登録品種名の使用義務は現在と同様に今後も変更なし。

農水省法改正資料より引用

〇 輸出の制限、国内栽培地域の制限の義務表示
育成者権者が海外持ち出し禁止や国内栽培地域を制限といった利用条件を付した場合、登録品種であることの表示とともに、その条件を表示する必要がある。
【例:海外持出禁止及び△△内のみ栽培可(公示(農水省HP)参照) など】

〇 販売の際の種苗・包装、販売のための広告の際の表示義務
種苗の譲渡時だけでなく、店頭販売する際の種苗又は種苗の包装、また、種苗のカタログやカタログを兼ねた注文票等、インターネットサイト販売時等にも必要事項の適切な表示が義務化された。

|その他

種苗法では

〇 育成者権の及ぶ品種を育成者権者の許諾なく利用する行為は、育成者権
の侵害となり、育成者権者は当該侵害者に対して、損害賠償請求(民法709条)や侵害行為の差止請求(種苗法33条)をすることが可能。

〇 故意による育成者権の侵害については、10年以下の懲役等の刑事罰(種
苗法67条)。

という厳しい規定もある。

|登録の効果

農水省に出願し、登録が認められると樹木は最長で30年、その他は25年間、種や苗、収穫物、一部の加工品を利用する権利を開発者が持つことができる。食べ物以外に花も対象になる。

イメージ:筆者撮影

開発者以外の人は利用料を払えば、登録された品種を栽培することができるのだ。
例えば、ホームセンターなどで売られている種や苗の場合、販売価格の1%以下から数%ほどの利用料が含まれているようだ。

なお、販売する目的で種や苗を増やした人が開発者の許可を受けていなければ、「種苗法違反」になる。
刑事罰は著作権法と同じく、
  個人なら10年以下の懲役か1千万円以下の罰金
  法人なら3億円以下の罰金
が科せられることになる。

|検挙事例等

この種苗法違反事件として検挙された事例もある。
事例1 米「つや姫」
 2012年4月、愛知県の農家が個人的に購入した「つや姫」の玄米から無許可で種苗を増殖させてWebサイトで販売した。
同年7月に県職員により警察へ通報され被疑者は逮捕後に起訴され、「懲役1年6月、執行猶予3年、罰金50万円」の有罪判決

筆者撮影

事例2 イチゴ「やよいひめ」
2021年9月、群馬県特産のイチゴ「やよいひめ」の苗約6千本を無許可で販売したことから種苗法違反罪に問われた農業関連会社と元役員に有罪判決。
なお同年6月には、無許可で高級ブドウ「シャインマスカット」の苗を販売目的で保管していたとして、警視庁が男を同法違反の疑いで書類送検された。

事例3 シャインマスカット
シャインマスカットの苗木が流失して中国・韓国で産地化された。さらにタイ・香港・マレーシア・ベトナム市場で中国産・韓国産として販売された。

事例4 サクランボ「紅秀峰」
サクランボ品種の「紅秀峰」がオーストラリアに流出して産地化された。山形県内農業者が紅秀峰を増殖させ、育成者権者に無断で種苗をオーストラリア人に譲渡した。

登録により、苗の価格が高額になったという事例もある。
例えば菊の苗
菊の苗についても種苗業者のK園の新花等は登録品種となっていることから1本5,000円を超える苗もあるという。
また、菊づくりの講座や仲間内での種苗法に該当する苗を分け合うことは禁止されているのだ。

参考関連情報・記事
〇【連載】種苗法改正を考える 連載記事一覧
        https://smartagri-jp.com/series/30

〇 義務表示の例


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