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AI、XR、技術の進化でキャラクターの役割が変わっていく?キャラクターCXが持つ無限の可能性

「AI×キャラクターには大きな可能性がある」──そう語るのは、キャラクター「Ponta(ポンタ)」の生みの親で、キャラクターCXの第一人者である糸乘健太郎です。

前回に続いて2回目の取材となる今回は、ホーメルフーズのSKIPPY®における新キャラクター制作、キャラクターARフィルター制作といった2つの事例から見るキャラクターの活用方法と、キャラクターCXの今後について聞きました。テクノロジーの進化によって、キャラクターCXはどう変わっていくのでしょうか?


「好き」を体現するキャラクターで、タッチポイントを増やす

-ホーメルフーズの SKIPPY®のキャラクター制作事例について教えてください。

糸乘: SKIPPY®の事例では、国内におけるブランド認知を拡大するために、新しいキャラクターづくりを提案しました。

SKIPPY®はアメリカでは昔から広く知られているピーナッツバターのブランドで、海外では大きな市場を持っています。しかし、日本では文化的にも食習慣的にもピーナッツバターそのものの馴染みが薄い。そこで「日本市場にピーナッツバターのカルチャーをつくる」をコンセプトに、「スキッピーズ」というキャラクターを作成しました。

ピーナッツバターはパンだけでなく、野菜などさまざまな食材と相性がいいのも特徴です。 その特徴を生かして「いろんな食材を好きになるキャラクター」という設定にして、好きっぴー=スキッピーズと名付けました。

-単純に商品名をもじっただけではないのですね。

糸乘:はい。ファンとの長い関係を作っていけるようにしたいという願いを込めて、 「スキッピーズは食材だけでなくお客さまのことも好きになる」という設定にもしています。スキッピーズという名前にすることによって、“好き”という言葉にさまざまなCXを包含できましたし、キャラクターを通してタッチポイントを増やすことを想定して開発しました。

-ちなみに、このキャラクターたちはどこで見られるのでしょうか?

糸乘:今はTikTok、Instagram、ウェブサイトなどからキャンペーンが始まった段階で、今後パッケージデザインなどにも反映されればいいなと思っています。

-糸乘さんは前回のインタビューで「日本人には海外から不思議がられるほど、キャラクター好きな国民性がある」とおっしゃっていました。 スキッピーズでも、その特徴は有効に働きそうですね。

糸乘:そうですね。クライアントも日本でのマーケティングにキャラクターを使う有効性を理解してくださっていて、スキッピーズを提案した際にはとても喜んでくれました。アメリカ本社で社員に配るグッズを作りたいと、デザインの依頼もいただきました。

ARフィルターを通して、新たな愛され方を生む

-「キャラクターARフィルター」の制作事例についてもお話しいただけますか。

糸乘:これは私からクライアントに提案して制作したARフィルターです。

前提として、私は共通ポイント「Ponta(ポンタ)」のキャラクタークリエイティブに携わっており、クライアントのロイヤリティ マーケティング社とはもう13年以上のお付き合いになります。そういった背景もあり、クライアントと私を含むPontaのクリエイティブに携わる人や、Pontaファンは年齢層が高めになってきていて。TikTokやInstagramなど、SNSを使う若い層にもPontaを届けたいと思っていた時に、ARフィルターとキャラクターを絡めることを思いつき、クライアントに提案しました。

-ARフィルターの提案をした際、クライアントはどのような反応でしたか?

糸乘:快諾いただきました。もともと、新しい取り組みも積極的に受け入れてくださるクライアントなんです。ARフィルターを制作するのは私も初めてで、不慣れな部分もかなりありましたが、「とにかくやりましょう!」と、クライアントを巻き込みながら勢いで進めていきました。

- ARフィルターを制作する際に気をつけていたことはありますか?

糸乘:ゲーム性を付加して、幅広い層に楽しんでもらえるような仕掛けを意識的に盛り込むようにしていました。

オリックス・バファローズを応援するキャラクター「バファローズ☆ポンタ」では、試合応援のときに使えるInstagramのARフィルターを用意して、試合前、勝ったとき、負けたときと、状況に応じて使ってもらえるようにしていました。交流戦限定のものを制作したこともあり、一過性のものではなく長く楽しんでもらえるような工夫もしています。

-ユーザーの反応はどうでしたか?

糸乘:撮影した写真や動画をSNSに投稿してくれる人も多かったですし、Pontaが新しいことにチャレンジしていることを、好意的に捉えてくださっているファンも多かったように思います。楽しみながら使われている様子を見て、とても微笑ましい気持ちになりました。

Pontaはすでに多くの方に愛していただいている強力なIP (知的財産)ですが、ARフィルターの制作は、新しい層と以前からのファン層にキャラクターの新たな愛し方を見つけてもらえるような、挑戦的な試みだったと思います。

-その他にキャラクターARフィルターを制作したことで感じたメリットがあればお聞かせいただけますか。

糸乘:戦略的にも大きな効果がありました。ARフィルターは、遊んでもらいながらUGC(User Generated Contents:ユーザーの手によって制作・生成されたコンテンツ)を増やすことができます。ユーザーが自主的に使ってくれることで、自然と広まっていくんです。PontaのARフィルターをきっかけに他のキャラクターでもフィルターを作りましたが、活用の幅があるなと実感しました。

キャラクターと電通、双方の強みを生かしたCXクリエイティブ

-キャラクターCXの強みはどういう点にあるのでしょう。

糸乘:愛せる対象として実体を作れることが大きな強みです。スキッピーズの事例で言えば、ピーナッツバターをキャラクターに置き換えることで、存在感あるキャラクターを通して、企業や商品を消費者にアピールしつつ顧客との関係を作ることが期待できます。

また、汎用性の高さも魅力です。タレントを起用すると展開や契約に限界がありますが、キャラクターなら各メディアやツールにも柔軟に対応できます。特性の味付けによって施策の打ち分けができるのも、キャラクターの強みだといえるのではないでしょうか。

-キャラクターCXにおいて、注意すべき点があれば教えていただきたいです。

糸乘:存在感が強すぎるあまり、「キャラクターは知っているけれど、商品については知らない」というズレが生まれる可能性があるところです。そういったことを防ぐためにも、キャラクターを設計する際には、しっかり考えて作り上げる必要があります。

-糸乘さんがキャラクターを制作する際に大切にしていることはありますか。

糸乘:商品や企業といったPR対象のことをちゃんと伝えられるかどうか、ですね。かわいさを追求するだけでなく、きちんと意図を内在させなければいけません。

-キャラクターを生み出すときは、いつもどのような考え方で進められているのですか。

糸乘:何かの事象を特徴づけして誘引効果を高めたものが、キャラクターになると考えています。ですので、特徴づけの部分にうまく商品・企業特性を入れ込むことで優れたキャラクターが出来上がります。具体的なものが存在する商品である場合は、その特徴をエッセンスとして落とし込みますね。

-なるほど。Webサービスなど、商品に具体物がない場合はどのようにすればいいでしょう。

糸乘:その場合は、特徴づけの部分に商品特性や伝えたいことを盛り込みます。

今回紹介したPontaも、「ポイントがポンポンたまるポイントターミナル」だからPonta(ポンタ)、という流れでキャラクターができています。事象をうまく分解してプロセスに入れ込むと、伝達効率のいいキャラクターが生まれると考えていて、キャラクターを覚えてもらうことで自然と商品を思い浮かべられるような流れを常に大事にしています。

-なるほど。多くのキャラクターが誕生し、キャラクターCXデザインがコモディティ化する中で、キャラクターづくりのほかに電通グループにはどんな強みがありますか。

糸乘:大手企業とのつながりもありますし、日本全国のメディアとのリレーションを生かしたり、既存キャラクター同士をうまくクロスオーバーさせたりするなど、幅広い展開ができるのは強みだと思います。キャラクター自体がタレント性を帯びて展開されている現代において、それらを構築するネットワークの多さは、今後のキャラクターCXでも電通グループが大きなアドバンテージを持つのではないでしょうか。

テクノロジーの進化で、キャラクターづくりはどう変わる?

-ChatGPTやVRなど、さまざまな新技術が登場しています。そうしたテクノロジーの進化は、キャラクターCXにどのような影響を与えると思いますか?

糸乘:キャラクターCXの活用の幅がさらに広がると思います。実際に取り組みが進んでいるものとして、今年の5月にはChatGPTを活用した「キャラクターとの自動対話サービス」のプロトタイプを開発し、企業との実証実験も行っています。

具体的には、キャラクターの映像付きでAIチャットが楽しめるサービスです。今後、さまざまな現場での活用を見込んでいます。

-店頭での接客や業務効率化だけでなく、日常生活の中のサービスとしても使えるのですね。

糸乘:はい。これをリリースしたばかりの頃に「認知症予防として、お年寄りの会話相手になるキャラクターとして活用できるのではないか」というお話をいただいたこともあります。

無機質なAIが応答するだけでは寂しさを感じますが、キャラクターなら効果的に入り込めるはず。また、ChatGPTは完璧に答えることを期待されていると思いますが、キャラクターAIとの会話だと、うまく答えられなくてもそこに愛らしさを感じられます。そういう点でも、AI×キャラクターには今後大きな可能性があるのかなと。

-企業キャラクターを起用した広報活用も期待できそうですね。

糸乘:そうですね。現時点ではどの企業でも使いやすいように「いらすとや」のキャラクターを使っています。これを企業独自のキャラクターを用意したり喋り方を工夫したりすれば、企業の特徴を生かしながら個性を表現できると思います。

技術が進化する中で、AIとキャラクターをかけ合わせて面白いところを見つけることが大事だと思いますし、今後もそういった研究を続けていきたいですね。

-糸乘さんが注目している技術があれば教えていただきたいです。

糸乘:「Apple Vision Pro」や「Meta Quest 3」のようなMRデバイスの存在です。現実とバーチャルを融合させることで現実を拡張する革新的なデバイスです。現実とバーチャルが高度に融合した環境では、おそらくキャラクターとの付き合い方も変わってくるのではないでしょうか。今までテレビやSNSでしか見ることのなかったキャラクターが突然隣に現れるようになれば、消費者とキャラクターのコミュニケーションも変わってくるはずです。「どのようにして一緒にすごそう」的な、いわばお友達マニュアルが必要になる可能性もありますし、キャラクターCX設計にも変化が起こりそうだなと考えています。

-たしかに。今まで広告塔だったキャラクターが一般化して、より身近になったときには、キャラクターそのものの捉え方も変わりそうですね。

糸乘:近年ではNFTも新しいものがどんどん出ていますし、例えば世界にひとつしかないNFTとキャラクター×AIでコミュニケーションできるようにしたとき、それはキャラクターではなく、友達に近い存在になるのかなと。人間同士と変わりないAIとの交流、なんてSF映画のような出来事が現実になる可能性もゼロではないと思います。そういった点も踏まえて、キャラクターの使われ方はどんどん面白くなっていくでしょうね。

-今後の展開が楽しみです。最後に、今キャラクターに関わっている人たちに向けてひとことお願いします。

糸乘:今後どのようなキャラクターを作っていけばいいのか、私もずっと考えています。刻一刻と技術も世の中も変わっていくので、常に最新情報を取り入れて準備しておくことが大事なのではないでしょうか。新たな価値観が浸透する前に、私たちはすでに仕込みを終えていないといけないですからね。非常に難しい話ではありますが……(笑)。

* * *

2022年4月に公開した前回記事に続き、今号ではキャラクターCXの新しい技法や今後の展開についてご紹介しました。

CXクリエイティブにおいて、キャラクターの手法は新たな顧客体験を呼び起こす大きな一手になると感じました。そのためには最新の情報、そしてテクノロジーをキャッチアップして、先の先を見据えておくことが大事なのかもしれません。

プロフィール

電通:糸乘 健太郎(いとのり・けんたろう)

カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター
アート・ディレクター

キャラクターを活用したコミュニケーションで幅広く活躍。
ポイントサービス「Ponta(ポンタ)」、テレビ東京「ナナナ」、BODY SHARING ROBOT「NIN_NIN」などのキャラクターデザインを手がける。

※所属・役職は取材当時のものです。

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