見出し画像

CXが当たり前になった世の中で。顧客体験の全体像を俯瞰する「CX鳥瞰ワークショップ」誕生までの道のり

企業が抱える根本的な課題はどこにあるのか。2022年10月にリリースした、思考を可視化することで課題解決につなげる「CX鳥瞰ワークショップ」。今回は、そんな企業のCXを俯瞰的に見つめ直す「CX鳥瞰ワークショップ」プロジェクトの開発に関わった、電通 CXクリエーティブ・センターの近藤祐見(写真右)、電通デジタルの岩崎文美(写真中央)、石田沙綾子(写真左)の3名に話を聞きました。「CX鳥瞰ワークショップ」が誕生した背景やその効果とは?

近視眼的にやり方を求めるのではなく、全体を俯瞰し答えを導きやすい状態をつくる

-「CX鳥瞰ワークショップ」について簡単に教えてください。

岩崎:2022年10月6日から始まった、すべての企業が自社のCXを俯瞰的に見つめ直すチカラをクライアントと共創するワークショップになります。独自の思考フレームを使い、CX Creative Studioのクリエイターのファシリテートによって、自社のCXにおける課題や、企業やブランド・商品やサービスなどが抱える問題点を発見しようという試みです。
 
タイトルの“鳥瞰”の名のごとく「顧客体験を俯瞰して見渡す“鳥の目”」で、参加者全員の目線を合わせることを狙いとしています。顧客体験すべてを棚卸しし、クライアント企業が自社で大事にすべき顧客視点を見つける、「はじめの一歩」を踏み出すことができれば、と思い開発しました。

メンバーの役割は、プログラム設計は岩崎、フレーム設計は石田、ネーミングは近藤という形で、それぞれのスキルセットを活かして担当しています。

-ワークショップはどのように進めていくのでしょうか。

石田:ワークショップでは1枚のフレームを使い、企業と生活者の接点を洗い出していきます。

石田:左側には企業、右側には顧客・生活者、中央には電通が提唱する「デュアルファネル(※)」を設置し、企業と顧客・生活者とのあらゆる接点を捉えられるフレームになっています。左側の企業の枠の中には「企業パーパス」「ブランドビジョン」「意思決定プロセス」などのキーワードが配置されており、右側の生活者の枠の中には「インサイト」「悩み」「無意識の行動」などCXのヒントとなる言葉を置いています。企業と生活者があらゆる接点において一つのストーリーで良い関係性を築けているかどうかを鳥の目で確認していきます。
 
このフレームを使ってまず、左側に現状行っている企業活動を可能な限りすべて棚卸しします。次に右側に生活者について書き出します。何に悩んでいるのか、どんな行動をしているのか、など生活者の姿です。
 
次に原因仮説を絞ります。企業の施策と生活者を鳥瞰してみると、問題だというところがだんだんと見えてくるので、参加者で話し合いながらクリティカルな原因仮説を見つけます。最後にアイディエーションで、原因仮説をもとにどうすれば顧客と良い関係性が築けるかのアイデアを考えます。

※「新規顧客獲得」へとつなげるためのファネルと、「既存顧客育成」へとつなげるファネルを融合したファネルのこと

-企業と顧客・生活者の動きが1枚のフレームで見渡せて分かりやすいですね。

石田:どの形にした方が分かりやすいかは個人差がありますが、私は1枚の絵で見るのが分かりやすいのではと思いました。スライド資料にすると100枚以上になったりと一覧性を欠いてしまうことがありますよね。一枚の絵にすることで「こことここがつながって私の仕事になっているのか」と、自分が仕事の中でどの位置にいるのかも分かりやすくなります。
 
自分の仕事が全体の中でどういう意味を持つかを個々人が認識し直すことで会社の価値観とつながれますし、どこへ向かえば良いかの方向性が分かりやすくなり、より良いクリエイティブが生まれてくると思います。
 
近藤:組織の内部で誰が動いて、どの接点で顧客とつながるかという点では、組織の中の人の気持ちも顧客体験の大きな要素ですよね。実際に商品を作ったり、ブランドコンセプトを考えたりするときも、そうした周辺の状況を理解した上で臨むほうが勘所を押さえやすくなると思います。

ちなみに今は「鳥瞰フレーム」と呼んでいますが、開発初期はデュアルファネルの左右に企業と生活者がぴったりとくっついた2つの餅ような形をしていたので、プロジェクト段階では「もちフレーム」と呼んでいました(笑)。「鳥瞰」という名前は、鳥のように全体を俯瞰するというイメージがぴったりだと思い象徴的に使用しています。

-ネーミングにもそんな背景があったのですね。そもそもですが、今回の「CX鳥瞰ワークショップ」をスタートさせた背景はなんだったのでしょう?

岩崎:私は2021年11月に立ち上がったCX Creative Studioにコアメンバーとして携わり、クライアント企業からCX戦略設計や体験開発に関してさまざまな相談をいただいています。ただ、CXクリエイティブという視点でどうやって課題発見をしていくかは、毎回ご相談いただくクライアント企業や課題内容ごとにケースバイケースになってしまい、横断的な部署だからこそ提供できるケイパビリティ共有や提案活動がしにくかったんです。
 
そこで、クライアント企業とCXにおける課題共有ディスカッションを始めるための第一歩となるツールとして、いわゆる“CX診断”的なソリューションを提供できないかと考えたことがきっかけでした。昨今ではCXを踏まえた戦略や施策検討が常識になり、企業はその方針設定や打ち手の検討に日々邁進しています。その中で、意外とどうすれば良いかの“やり方”部分にばかり目が行きがちなのではないかと、自分自身が提案作業で関わりながら感じていました。
 
CXクリエイティブという思考で顧客体験を考えることは、やり方が分かればうまくいくとは限りません。場所や人、商材が変わればCX戦略や体験設計方針も大きく変わります。「一人の顧客と、どんな体験ストーリーで、現在から未来までつながる新しい関係を築くか」という問いに対して、近視眼的にやり方を求めるのではなく、まず立ち止まって課題を俯瞰することで、最適な答えを導きやすい状態をつくる。今回のワークショップ開発ではそこを意識して取り組みました。

-CXに関してさまざまな議論が交わされていますが、まず立ち止まって考えるための枠組みについては目を向けられていなかった印象があります。

岩崎:そうなんです。繰り返しですがCXが当たり前になったからこそ、俯瞰的視点が求められていると感じていて。今起きている事象を少し離れたところから俯瞰で見ると、意外と近くに見落としていたことがあったり、普段はなかなか接点が持ちづらい、他の領域担当部署同士の連携の必要性に気づいたりと、問題解決のヒントがたくさん見つかるのではないでしょうか。
 
我々のような第三者がワークショップのファシリテートに関わらせていただくことで、チームメンバーの皆さん全員が、そういった複眼思考を持つきっかけになればと思っています。

領域を横断した会話でジレンマを解決、チームコミュニケーションの精度を強化

-まだワークショップが立ち上がって間もないですが、実施状況はいかがでしょうか。

岩崎:化粧品会社のブランドマネージャーから相談を受け、3時間のテストワークショップを実施しました。こちらの企業が抱えていた課題は、ある化粧品ブランドの売上拡大にあたって、現状のコミュニケーションがあまりうまくいっていないと認識されていたことでした。
 
その要因の一つは、ブランドコンセプトを伝えたい部署と商品機能を伝えたい部署側で、やりたいことのずれが生じていたこと。今までは暗黙の了解で、それぞれの担当領域や目的意識を侵犯しないルールがあったようですが、今回のテストワークショップでは、そういった背景も踏まえてブランドマネージャーからの声掛けで、商品開発や営業などの他部署のメンバーにも参加いただきました。そうしたことで、それぞれの領域を超えた課題や、各担当部署が考えていることの横断的な洗い出しを行うことができました。

岩崎:このようにトピックに色分けした付箋を貼り、「課題の原因」「うまくいったこと」「顧客目線で考える」「原因仮説の絞り込み」「解決アイデア」を可視化しました。
 
結果として、課題の原因が顧客接点に多く見られる一方、企業内の決定プロセスや組織体系にも要因があることが分かりました。この商品ブランドが顧客に伝えたい価値や、提供したいCX(顧客体験)をつくるプロセスの中でどこを改善すればいいのか、売上につながりづらい要因はなにか、企業と顧客の両観点から仮説を発見することができました。

-参加者の反応はいかがでしたか?

近藤:ワークショップの参加者からは「コミュニケーションまわりの課題ばかり考えがちだったが、フラットな視点で俯瞰して考えることができた」「どの立場でも同じことを思っていると発見があった」など、ポジティブな声が多く寄せられましたね。
 
この声にあるように、同じ目的を持っていても組織内で使う言葉や土壌が違って、コミュニケーションが取りにくいことってあると思うんです。同じ場に集まって話すことで、「そういう意味で言っていたんだ」と分かることもあります。そうした意味で、チーム間のコミュニケーションの精度向上にもつながったのかなと手応えがありました。

-メンバーに話を聞くということも大事ですけど、何か話してもらうことも結構大事ですよね。

岩崎:そうですね。ワークショップにはCX Creative Studioのメンバーがファシリテーターとして入るのですが、第三者が入ることで、普段クライアントにとって当たり前だと感じていることが、改めて大事なことだと気づかれることもあります。
 
また、直接的には伝えづらい現状のリアルな課題感を、他の関連部署に言える機会にもなりますよね。フラットに「問題意識を共有できる」安心感から、皆さん話しやすくなるという側面もあるのかもしれません。これはやってみて実感できたことも多くあって、だからこそ電通デジタルとして蓄積した知見だけでなく、普段からクライアントがお持ちの知見をこのワークショップの場に持ち込んでいただくことで、共創というプロセスが生きてくると思います。

CXが当たり前になった今だからこそ、“鳥の目”が重要に

-最後にこれからワークショップを試してみようという方にメッセージをお願いいたします。

岩崎:まだ始まったばかりなのですが、我々が仕事で蓄積してきたクリエイティブプランニングの知見を元に、CX(顧客体験)における問題解決の糸口を探すお手伝いができればと考えています。
 
CXというキーワードが当たり前になってきた世の中ですが、クライアントが日々の仕事の中で何か課題感があった際に、どうやれば成功するかの特効薬を外に探しに行くことが多いように感じていて。皆さまが実践的な“やり方”だけにとらわれずにもっと自社らしい「顧客視点とは何か」を探索し、新しいブレークスルーを生むアイデアを生み出すために、今後もワークショップを改良していきたいです。
 
石田:クリエイティブが行うワークショップもたくさん増えてきたと思いますが、楽しく参加していただき、話す人は恐れずに言いたいことを発言して、聞く人は否定せずに聞く、音楽でもかけながらリラックスして臨んでいただきたいです。
 
近藤:ワークショップの途中で、「あ、いつもと違う風景が見えてきた!」と感じる瞬間がきっとあると思います。“鳥の目”を関係者全員で持つという体験を通じて、チーム一丸となって、同じ地図を手に進んでいくきっかけとしていただけたらと思います。このワークショップがクライアント企業のみなさんの背中を後押しするものになればうれしいです。

* * *

今回は企業のCXを俯瞰的に見つめ直す「CX鳥瞰ワークショップ」の開発背景と誕生秘話について紹介しました。近視眼的にどうすればいいかのやり方ばかり追いがちな中で、まず立ち止まって全体の状況を見渡す「CX鳥瞰ワークショップ」の枠組みは、CXが当たり前になった世の中においてはさらに重要になってくるのではないでしょうか。

プロフィール


電通:近藤 祐見(こんどう・ゆみ)

カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター
CMプランナー/ソリューション・プランナー
電通入社後、CMプランナーとして、食品、医薬品、家電、住宅などさまざまなクライアントの広告制作を担当。途中、育児休業中にワークショップデザインを学ぶ。
2021年よりCXクリエーティブ・センターに所属を移し、CX領域のクリエイティブプランニング/ディレクションに従事。ファンベースの視点でCX全体の開発を支援する「ファンベースCX」にも携わっている。
一般財団法人生涯学習開発財団認定ワークショップデザイナー

電通デジタル:岩崎 文美(いわさき・あやみ)

BIRD部門 クリエイティブプランニング​第2事業部​
クリエイティブストラテジスト
電通入社後、食品・飲料・エンターテイメント・ベンチャー企業など、数々のクライアントを担当。​その後電通アイソバーにてCX戦略プランニングディレクターとして、CXCR領域のプランニング全般をリード。2021年から電通デジタルCX部門に所属を移し、新規事業サービス開発やコミュニティ設計など体験設計プロジェクトに複数携わる。得意領域は、CXビジョン発想のブランディングや体験設計、アイディエーション、新商品/サービス開発領域のコンセプト策定・コミュニティ/コンテクスト設計など。

電通デジタル:石田 沙綾子(いしだ・さやこ)

ブランドエクスペリエンスクリエイティブ部門 エクスペリエンスデザイン第1事業部
アートディレクター/ビジネスデザイナー
電通入社後広告アートディレクションに従事したのち休職し、ロンドンに留学。語学とデザインとアートを学ぶ。帰国後はクリエイティブの力をビジネスに応用する「ビジネスデザイン・ラボ」に異動。ワークショップデザインやブランドデザインに領域を拡張。
その後「電通ビジネスデザインスクエア」のメンバーとして、ビジネスにクリエイティブの視点を入れながらクライアントとの共創をベースに社内風土改革などに従事。
2020年から電通デジタルに出向し、デジタルを掛け合わせながらクライアントのさまざまな問題解決のサポートを行っている。

※所属・役職は取材当時のものです。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!