見出し画像

ファンの“見たい”を創り出す スポーツチームのCX型リブランディング ─ ウェビナーレポート

2022年2月に開催されたCX Creative Daysでは、1dayウェビナーと2daysのVRショーケースを通じてCXクリエイティブの実践事例をお届けしました。
「ファンの“見たい”を創り出す スポーツチームのCX型リブランディング」と題したセッションでは、電通CXクリエーティブ・センター、コピーライター兼クリエーティブディレクターの竹田芳幸が登壇。バスケットボールBリーグ「千葉ジェッツふなばし」の事例やスポーツチームだけでなく他業種でも応用できるCX型リブランディングのあり方を紹介しました。
本記事は、CX Creative Studio note編集部がセッションの内容をまとめたものです。

スポーツ業界でリブランディングが盛んな理由

近年、スポーツチームのリブランディングが盛んに行われている。例えば、イタリアのサッカーチームのユヴェントス、日本のサッカーチームのガンバ大阪がリブランディングを行っており、エンブレムからロゴに変更している。

リブランディングする理由としては大きく2つある。

1つは、ライトユーザーへ裾野を広げるため。エンブレム型は伝統・格式をもたらす反面、ライトユーザーには敷居が高く感じられる。

2つ目は、Web/グッズなどで使用しやすいユニバーサルデザインを採用するため。エンブレムはデザインが複雑なため、Webサイトでは細かい部分がつぶれてしまい再現性が低く視認しづらい。グッズへの展開でも同様の課題があり、チームによっては、Webサイトやグッズは別のロゴを使うなど、統一がとれていないことがある。今回のリブランディング事例の「千葉ジェッツふなばし」も別のロゴを使っていた。

スポーツチームのリブランディングはハレーションが起こりやすい

スポーツチームのリブランディングにCXの視点が必要な理由にもつながるが、だからといってすぐにエンブレムをロゴに変えればよいと短絡的に考えてはいけないと、竹田は警鐘を鳴らす。

最も大きな理由は、スポーツチームであるがゆえに起きるハレーションだ。過去、リブランディングをしたスポーツチームに対して、コアなファンから新ロゴに否定的な意見が上がるという事例が散見された。ユヴェントスでも同様にコアなファンからの批判が上がった。

一方で事業会社や商品のリブランディングでは、ここまでのハレーションは起こらないと竹田は見ている。スポーツチームに限って起こるのは、ファンとチームの関係性に理由があり、スポーツチームのファンは消費者ではなく、お金を出して一緒にチームを作っている投資家の意識があるからだ。商品と消費者との距離感とは異なるのだ。

画像1

そしてファンは離れることができないということも影響している。消費者であれば、ブランドのロゴやパッケージが変わって好きになれなかったら、購入をやめて別の商品を購入すればよい。しかし、自分の街のスポーツチームのファンであれば、ロゴが変わったからといって、他のチームのファンになるというわけにはいかない。投資してきたお金、蓄積してきた体験があるため、離れられないのだ。

ここで紹介されたのが電通CXクリエーティブ・センター局長 並河の言葉だ。

「CXとはユーザーが欲しいもの・見たいものから逆算で考えること」

この考え方は、竹田が担当したリブランディング事例と合致するものであった。竹田が携わった、バスケットボールBリーグ「千葉ジェッツふなばし」のリブランディングは、2019年に始まり2021年6月にローンチされた。ここまで時間をかけたのには、以降で紹介する3つのポイントを意識して丁寧にプロジェクトを推進したためだ。

1.声を聞くことから始めよう

リブランディングは、ユーザーが欲しいものは何か、見たいものは何かを知ることから始めた。具体的には、チームに関わる全スタッフのワークショップ、ファンミーティングへの参加、選手・監督への取材、試合会場でのファンへのインタビューなどのアクションを通して、チームとして大切なもの、チームの魅力、目指す姿、欲しい物を抽出していった。ここでは、そもそもリブランディングは是か非か、という点についても彼らの声を通して見つめ直した。

チームのアートディレクターからは、ヒアリングを通してわかったこととして、次のような意見があった。

「見えてきたのが、良い意味でスポーツの枠に収まらず、日常の中のエンターテインメントとして、千葉県の人々に溶け込む千葉ジェッツふなばしの姿。その姿に近づくために、チームのあり方や見せ方を再定義する必要がありました」

次に、ファンにもたらす価値、ターゲット、チームのコアバリューをまとめて、誰に何を提供するためのリブランディングなのかを整理し、新VIを作成していった。そして、新VIを元にスローガン/ステートメントを竹田が設定した。

画像2

「PAINT IT JETS」というスローガンには、試合だけでなく、試合の前も後も楽しめ、千葉県をジェッツに染めるという思いを込めた。

スローガン/ステートメントをベースに新しくロゴも作成した。

画像3

2.過剰なほど丁寧に意図を伝える

竹田はプロジェクト推進において特に2つ目のポイント「過剰なほど丁寧に意図を伝える」ことにこだわったという。

リブランディングサイトを作り、何のためのリブランディングなのか、なぜクラブスローガンを設定したのかをテキストで丁寧に説明した。ロゴについては、カラーの意味、三角形の意味、ロゴに込めた思い、オリジナルフォントなどについて細かく説明し、ユニバーサルデザインになったことで、グッズの展開がしやすいことを使用例で解説。加えて、選手、チアリーダー、OBのインタビュー動画を掲載し、賛同している意思も示した。

竹田は、ここまで丁寧にやった理由として、「言わなくてもわかるでしょ」は禁止して、誰にも誤解を与えないように、繰り返し丁寧に説明を行ったと話す。

さらにサイトだけでなく動画も作成し、動画を見れば、ジェッツの歴史、これからのチャレンジ内容を伝わるようにした。さらにファンに向けた説明会を開催。選手も同席しオープンな形で説明を行った。

3.展開を見せることで、感覚に訴える

ポイント2では理屈に訴えたが、3では感覚としてカッコイイと感じてもらうために、ロゴのモーショングラフィックスを作成した。

ロゴが三角形である意味をモーショングラフィックスで伝え、さらにこのロゴを使ったユニフォームやポスターなどグッズ展開のアイデアも見せた。ロゴ単品だけを見ていると、カッコイイのか悪いのか判断がつかないと考えたからだ。ハレーションが起きた場合でも、後にグッズが出るとカッコイイと意見が変わることがあるという過去の事例からの教訓。その結果、リブランディングに関しての批判は起こらなかった。

リブランディングは始まったばかりなので、今後1年経過してからでないと判断できないと竹田は言うが、新しいVIがファンの間に確実に広がっていることを感じるという。この先、千葉県全体に広がって、みんながロゴのついた服を着ているようにしたいと話した。

今回の事例はスポーツチームだが、固定の熱いファンがついている自動車、ファッションなどのリブランディングは、この事例と同様に丁寧に行うとよいだろう。

ウェビナーを終えて:プロセスをファンと共有するCX型リブランディング

セッション終了後、電通CXクリエーティブ・センター センター長の並河進と竹田で意見交換を行った。

並河:スポーツチームのファンは投資家の気分というお話は面白いと思いました。最近は、クラウドファンディングで資金を集めて、商品開発を行うような動きもありますし、消費者も社会的に価値のある活動をしている会社の商品を買うことで、未来に投資するような、投資家的なカスタマーの存在があります。スポーツ以外でも、投資家的な視点で企業を応援しているということはありそうですよね。

竹田:確かに、そうですね。

並河:買うことで応援するようなファンが増えるとブランドが強くなりますね。この事例については、リブランディングについてかなり細かく企画内容を表に出しているのが面白いですね。実際どのくらい読まれているのでしょうか。

竹田:全員が読んでいるわけではありませんが、読まれないからといって説明していなかったら不合格です。なぜリブランディングが必要なのか、理由をきちんと説明するようにしました。

並河:ロゴの三角形が、チーム、ブースター(ファン)、パートナー・地域(街)を示しているというのは、ファンの皆様にとって3つをつなぐロゴなんだということが伝わりますね。このロゴは、ビジュアルで直感的に惹かれる右脳的要素と、そのロゴに理屈がちゃんとある左脳的要素の両方を備えていることが特徴だと思いますが、両方あるから人は好きになるのか、片方でも好きになるのか、というとどちらでしょうか。

竹田:感覚派も理論派もどちらもケアして、隙を作らないようにしました。

並河:商品の場合、購入した人はすで販売した人なので、売上を伸ばすには、新規顧客に目がいきがちですが、スポーツでは、ファンと新規顧客は分けて考えますか。

竹田:スポーツチームの理想は、既存のファンが新しい人を連れてくることです。スポーツを知らない人が無料チケットをもらって一人で試合を見に行っても、よくわからないので楽しめません。楽しめなければ、もう一度試合を見に行くことはないですよね。

でもファンが友達を連れてきたら、どこが面白いのか、何がよいのかを説明してくれます。勝手に営業マンになってくれるんです。だから既存顧客が大事ですね。

並河:商品でもそういう商品はありますね。信頼する人が熱量高く語ると、相手にもその思いが伝わります。既存のファンのことを考えることが次のファンを連れてくるというのは、スポーツに限らずあると思います。

竹田:ファッションや自動車もそうですが、外食チェーンなども当てはまりますよね。牛丼屋さんでも特定の店のファンの熱い声があります。

並河:ファンに細かく伝えるという点では、プロセスを共有することも大事だと思いました。


ファンが投資家の視点でブランドを見る、右脳と左脳の両方に訴える、プロセスを共有するなど、スポーツ業界以外でも活かせそうな参考になるポイントの多いセッションでした。

リブランディングを進める上でのヒントになればと思います。ご関心のある方はぜひお問い合わせください。

* * *

プロフィール

画像4

電通:竹田 芳幸(たけだ・よしゆき)

CXクリエーティブ・センター
電通デジタル アドバンストクリエイティブセンター
コピーライター/クリエーティブディレクター
静岡県焼津市出身。POOL inc.などを経て2017年より電通デジタル アドバンストクリエイティブセンター所属。2021年より電通 CXCCに出向中。渋谷のラジオ パーソナリティ、専門学校日本デザイナー学院 講師など社外活動も色々やっています。TCC新人賞など広告賞の他、グッドデザイン賞を受賞するプロジェクトも行っています。サッカーと漫画と冷やし中華のことなら、かなり語れます。

※所属・役職は取材当時のものです。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!