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あなたの強さを僕にも下さい。#ショートストーリ#青春

父さんが、午前中のデイーサービスから、送迎バス揺られて帰ってきた。
一息入れると「綾乃ちゃんにあったよ、いい子だね。」と今日あった出来事を話してくれた。僕は、綾乃さんと父さんが何をどう話したのか分からなかったけれど「うん、いい子だよ」とだけ応えた。

病気で倒れてから、父さんはすっかり老けてしまった。
それも仕方がない、生死の淵を彷徨っていたのだから。


「ねぇ、綾乃ちゃんってたかしの彼女?」と母さんが屈託なく突っ込んでくる。
「あのね、僕に彼女なんて、ハードルが高いよ。ただの友達だよ。」
「え〜残念〜。昴の良さをみんな分かってないなぁ」とぼやいている。
どれだけ親バカで、底抜けに明るいのか。母さんは僕と家族の救いだ。

野菜いっぱいの焼きそばの濃厚ソースの香りが昼間の食卓に漂う。
しかも麺は太麺で、鰹の粉を仕上げにかけるところがたまらない。
「あっ、紅生姜も出そうか?」
「あと青のりもね。」
「マヨネーズも欲しいなぁ」
「おばーちゃん、焼きそば出来たよ。こっちで一緒に食べよ。」
「兄貴、バイトは?」
「これから。」
狭いアパートに家族6人がひしめき合っている。

「この文章どう?読んでみて。」母さんは、趣味でエッセイやら小説を書いている。
「ここの表現、主人公が年齢より大人ぽく感じるなぁ」と僕が言うと、
「友達が経験したことのない苦労をすると、周りの友達より大人っぽくなると思う。僕はいいと思うよ。」と一人前に弟も意見している。

そう言えば、我が家で起こった出来事って貴重な経験だったなぁと思った。

フライパン一杯につくった焼きそばはもう空になり、
「おかわりするなら、もう一回焼きそばつくるよ!!」と母さんが奮闘している。
一回の焼きそばに全部で9玉の麺を使うんだから、母さんの腕っぷしも頼もしくなるはず。おばあちゃんも僕らにつられてモリモリ食べている。3世帯6人家族も嫌じゃない。


麺多めのおかわりを食べながら、何故か綾乃さんのことを思い出していた。

好きな人の体に触れそうになる時、胸がぎゅっと疼くけど、その先に踏み込めないのは、家族の一大事を経験したから。僕は、綾乃さんとは簡単な気持ちでは付き合えない。

勇気が出ない僕は、何となく台所に目をやると
洗い物を始めている母さんと目が合った。どうしたの?と目だけで語る母さん。『あなたの強さを僕にも下さい。』






最後までお読みいただき、ありがとうございました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。

タイトルのお写真は
you様 のお写真を使わせていただきました。
you様 ありがとうございました。


第1話 https://note.com/cuturogi_cafe315/n/necd3077c70df

第2話 https://note.com/cuturogi_cafe315/n/n31882e7b0642

第3話 https://note.com/cuturogi_cafe315/n/n18eafcec5376

第4話 https://note.com/cuturogi_cafe315/n/n5c0ae0a63a6e

第5話 https://note.com/cuturogi_cafe315/n/n56b3762e563c

第6話 https://note.com/cuturogi_cafe315/n/nf3c90262458a

第7話 https://note.com/cuturogi_cafe315/n/n3a1fcb3ecfe7

第8話 https://note.com/cuturogi_cafe315/n/nae4b897622f9

第9話 https://note.com/cuturogi_cafe315/n/n91aba03559c2

第10話 https://note.com/cuturogi_cafe315/n/n102b6bf5120c

第11話 https://note.com/cuturogi_cafe315/n/nc5ae4dace8d5

第12話 https://note.com/cuturogi_cafe315/n/nfadc4ad99ced?from=notice


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