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僕もあの弾んだ声の中に入っていけるかも。#ショートストーリー#青春

コロナ禍で迎えた高校生活、友達と友達との交流もマスクとマスク越しでの表情で、相手が何を考えているかお互いに探る心の内。もともとコミュニケーションが苦手だった僕は、誤解されることも多くって、ひとり静かに絵を描くことが好きだった。いつから、友達と付き合うことが苦手になったんだっけ?いつからこんなにひとりぼっちだったっけ?

保育園の時のことは覚えていないけど多分違うと思う。小学校の時にガラリと変わって仕舞った家庭環境のせいかもしれない。お父さんが病気で倒れて障害を負い、いつも家にいた母さんが父さんの代わりに働き出して。

父さんの変わり果てた姿と母さんの疲れた笑顔。
6歳だった僕は、全てを受け入れられなくて壊れそうになったんだ。

あの時僕が壊れなかったのは、絵を描いて自分の中の恐怖と闘っていたから。ひとりぼっちの僕を守れるのは、小さい子どもの僕だけだった。

あれから僕は、ひとり静かに絵を描くことが好きだった。

そしてコロナ禍のこんな時勢に、彼女は僕をそっと包んでくれた。その温もりと僕の手を握り返してくれた優しさと「あなたに手伝って欲しい」と存在を認めてくれた大きさに、涙が溢れそうになる。

底抜けに明るい彼女は、何であんなに明るいんだろう?

綾乃さんは「たかしくんのこと嫌いじゃないから」って言ったっけ。
僕も綾乃さんのこと「満更でもない」かなぁ。

僕はふふっと笑った。やっと肩の力が抜け、よいしょと言って立ち上がり脚をグッと前に出した。
最終下校時間でもまだ明るい放課後、廊下には部活終わりの弾んだ声が響いている。

コロナ禍の行方も分からなし、僕の高校生活の行方もまだ分からないけれど
綾乃さんと文化祭を迎える準備をすることが楽しみになってきた。

「僕もあの弾んだ声の中に入っていけるかも。」








最後までお読みいただきありがとうございました。

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