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探究学習インタビュー#5-山崎学園富士見中学校高等学校-

山崎学園富士見中学校高等学校の美術科の先生である杉原先生にお話を伺いました。富士見中学校高等学校では、美術の授業の中でも特に「デザイン領域」での学びにおいてMONO-COTO PROGRAMを導入しています。美術の教科学習において探究学習を取り入れている点や、プロジェクトベースドラーニング(PBL)である点が特徴です。

▼富士見中学校高等学校で実施したプロジェクトの詳細
https://note.com/curio_/n/n39189a35fa43?sub_rt=share_pw

富士見中学校高等学校で実施した最終発表会の様子

教育現場での課題感

Q.学校での探究学習の課題感について教えてください。
富士見中学校高等学校では、探究学習について取りまとめている教育研究部という部署があります。生徒は6年間を通して、探究的な学びができるような仕組みができてきているのでそこに対して取り立てて課題感はありませんでした。ただ、探究学習は教員側の働きかけ方によっては、探究学習の決められた型や形式に対して進めることが目的かのようになってしまう懸念を持っていたので、このプロジェクトがそうならないように気を付けました。

Q.MONO-COTO PROGRAMを授業に取り入れた経緯について教えてください。
数年前に、学習指導要領が改定され探究的な学びがより重視されるようになりました。美術の課題を改めて整理した中で、「デザイン領域」に課題が多いことがわかりました。簡単にいうと、絵画に近いものをデザインとして扱っており、生徒にデザインの十分な理解をさせてあげられていないことです。そのため、デザインの本質を学ばせる意味で、MONO-COTO PROGRAMが一つの教材として適していると考え、導入させていただきました。

Q.導入に至るまでの道のりや課題について教えてください。
目的が合致していたので、美術の授業で取り入れるのはそんなに苦ではありませんでした。
広く、学内の先生方にも理解していただくことが重要だと思っています。キックオフや最終発表会はLHR(ロングホームルーム)に連携してもらうことで、教科を越えた先生方にも関与していただけます。MONO-COTO PROGRAMで得られる力や経験は、確実に別のものに横断したり転移したり出来るものだと思っているので、美術の文脈だけで終わらないように学年の先生に提示して少しずつ理解してもらうことが課題です。

インタビューに回答する杉原先生

今回のプロジェクトについて

富士見中学校高等学校の中学3年生は、MONO-COTO PROGRAM実践編「高齢者とのコミュニケーションを活性化させるモノコト探究プロジェクト」を実施しました。
IT関連企業にお勤めの高坂幹男様からテーマ課題をいただき、チームでアイデアを考え最終プレゼンテーションではクラス内発表で選抜されたチームが高坂様に向けてアイデアを提案しました。

今回のプロジェクトについてのお話を杉原先生にお伺いしました。

Q.高齢者とのコミュニケーションを活性化させるというテーマにした背景を教えてください。
IT関連企業にお勤めの方が協力してくださると聞いた時は、パソコン周辺の機器やIoTのようなテーマになると思っていました。しかし、テーマオーナーの高坂様はヘルスケア事業に所属されていることもあり高齢者をユーザーにしたテーマを提示してくださいました。
高坂様ご自身が高齢者に関する課題感や問題意識を持たれており、今回のテーマとして共有していただきました。中学生にとって年齢的に距離のある高齢者のことを考えるきっかけになることがとてもいいと思いました。

Q.プロジェクトを実施して感じたことについて教えてください。    
このようなプロジェクトは連携先によって、いろんなあり方があると思っているので私自身も楽しみながら授業を進めることができました。どのような方や企業とマッチングさせていただけるかも学校側としては未知ですし、外部の方と実際に接する機会があるというのは生徒にとって価値があることだと思います。
また、もう一つは、デザインについて生徒に考えてもらうためにも、教員側も考えなければいけないと思います。私自身は美術大学出身ですが、領域はファインアートなのでデザインについて本質的に理解できているのか疑問や不安がありました。デザインの本質を、プロジェクトを通じて実際に行動しながら再認識することができました。

Q.プロジェクト実施後の学校や学生の変化について教えてください。
プロジェクト中の授業を見ると、子供たちが楽しそうに対話している様子が印象的でした。「私はこう考えるけど、あなたはどう思う?」といったやり取りは、中学3年生にとっては難しいと思います。しかし、このプロジェクトでは自然に行われていたように思います。
また、試行錯誤する姿勢も身についたように感じます。中間発表などで外部の方からフィードバックをもらえる機会があることで、アイデアを変えたりインサイトを考え直していたりしていました。

Q.今後の課題について教えてください。
活動を深めるために、生徒がこの課題に取り組める時間を増やしたいと思います。デザイン思考のステップを何周もすることでアイデアが磨かれると思うので、そのためにも時間がもっと欲しいなと思います。特にアイデアをユーザーに試してみる場面で、そのアイデアがユーザーにとってどのような価値があるかを検証しないとアイデア自体が意味のないものになってしまうので、「ためす」部分を授業の中で生徒にもきちんと伝えていかないとなと思いました。

富士見中学校高等学校で実施した最終発表会の様子

MONO-COTO PROGRAMについて

Q.普段の授業との違いを教えてください
企業や社会で活動している方々と繋がりを持ちながらプロジェクトを進めていくことが、普段の授業との違いです。普段の授業では、テーマが社会的なものや学外の要素があっても、構想やプレゼンテーションのみで終わってしまい実際の行動に結びつかないことが多々ありました。    

Q.デザイン思考を学ぶ意義について教えてください。
先日、参加したSTEAM教育に関するシンポジウムで、探究学習の研究をされている海外の教授の方がパネラーとして登壇されました。その中で、授業を実生活や社会課題に結び付けるアプローチが具体的に紹介されました。例えば、ペンギンが卵を温めているシーンが挙げられました。気候変動によって暑くなり、ペンギンが卵を保護している間にも海に飛び込んで自らを冷やす必要が生じているという実社会の課題が提示され、それを元に理科の授業が展開されました。教室では、溶けやすい環境下に置かれた氷をペンギンに見立て、いかに溶かさないかを試行錯誤しながら考えます。要するに、社会課題と共に熱伝導について自然と考えざるを得ない学習環境設定がされている探究学習でした。社会課題を元にしたこの学習の中でも、目的に対して課題を設定し、その課題に対する必要なことを収集したり、解決するために試すことを繰り返されていました。まさにデザイン思考が活用されている場面でした。このシンポジウムを通して、デザイン思考が美術の授業内だけでなく様々な場面で応用できることを改めて感じました。

Q.MONO-COTO PROGRAMの価値について教えてください。
中学3年生、全員受ける義務教育で行うという点が大きいです。高校に進学すると、美術・音楽・書道が選択制になり全員が今回のような授業を受けるわけではなくなってしまうからです。今回のような社会とのつながりを持った学びは、美術に限らず重要であり、思考の手段として持っていることは価値があると考えています。

Q.今後学生に期待することを教えてください。
プロジェクトに取り組む姿としては、自由に行動することを期待しています。自由というと誤解を招くかもしれませんが、いろんな物事に新しい関係性を見出したり自分としての意味や価値を見出してほしいです。目的に対して思考した上で、相手を考えながら行動できるようになることが理想です。富士見の生徒は、良くも悪くもまとまりやすいのでそこの部分はもう少し飛び出して個性を発揮してほしいと思います。
また、プログラムを受けた生徒の未来の姿としては、自分の生活の中でデザイン思考との繋がりがあることに気付き、なおかつそれを活かしていってほしいと思います。このプログラムは1度きりのものであるため、これだけで深く理解することは難しいかもしれません。ですが、このプログラムだけで終わりにせず、授業を振り返って様々な場面との繋がりが見えてくると、彼女たちの生活はより豊かになると思います。

Q.今後実施したいことについて教えてください
プログラムに関しては、保護者もチームを組んで参加してもらうのもよいなと考えています。保護者は多様な社会人であり、その視点が子供たちにとって大きな刺激になります。保護者の参加によって、子供たちの学びに新たな視点が加わり、より豊かな体験ができると思います。また、保護者にとっても、子どもの学校で自分も学ぶ機会があることで、学校や教育に対する見方が変わるかもしれません。

インタビューに回答する杉原先生

記事に関する詳細は、弊社担当までお問い合わせください。
・プログラム:https://mono-coto-program.com/
・イベント:https://mono-coto-innovation.com/
・Facebook:https://www.facebook.com/curioschool
・担当: s-daimon@curioschool.com(大門)

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