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ドイツの「幸せの村」

【ドイツ人から2020年冬に聞いた話】

ドイツで僕が住んでいる街の近くに、X市というとても居心地の良い街がある。その街には多くのドイツ人の友人が住んでいて、彼らから家に招待してもらったり、街の各種お祭りに誘われたりして何度も行っている。

訪れるたびに感じるのが、その街の人々はフレンドリーで、街のアットホーム感が素晴らしい。住んでいる友人たちも、その街のことを心の底から誇りに思っている。

友人たちが「なぜX市の居心地が良いのか」についてよく語ってくれるので、その話を書いてみる。ここでキーワードになるのが、ドイツ社会で重要な「信頼」という言葉。

まず、この街について語るには市長さんの話が外せない。市長さんが有名人で、いつも街のイベントに出てきて、住民に交じって楽器を演奏したり、街の一員としてコミュニティーに溶け込んでいる。僕ですら市長さんの顔をよく知っている。

その市長さんは年に一度、その年にX市へ引っ越してきた住民を集めてオリエンテーションを実施して、そこで一人一人に以下のように語り掛けるらしい。

市長さんによるオリエンテーション

市長
「この街では新しい家を建てるにあたって、厳しい基準を設定しています。まず、木を多く使ったこの地方の伝統的な雰囲気の建物を建築すること。そして、高い塀を築かずに低い柵にとどめて、外から家や庭がよく見えるようにすることです。

どうして高い塀は立てないのか。みなさん泥棒を心配されるかも知れません。確かに、低い柵は泥棒の侵入を防ぐことに物理的には役には立ちません。

ですから、皆さんにお願いしたいことがあります。街でご近所さんや住民と会ったら、必ず挨拶してください。そして、できるだけ日常会話をしてください。お互いの顔を見ながら相手のことをよく知ってください。どんな生活をしているか知ってください。

そうすれば、例えばご近所のだれがいつ旅行に行って家を不在にするか、どういう行動をしているか、が分かります。こうやってみんな街の仲間になってください。そうすれば、不審な人が街にいればすぐに分かります。泥棒が家に侵入していたら、外から見えます。その家の人が不在にしているはずの時に誰かが家にいたら、おかしいと気づくことができます。

また、できるだけ村の団体活動に参加してください。この街では、伝統的なダンスを踊るイベント、夏至のお祭り、クリスマスのイベントなど、様々なイベントを催しています。例えば若者は青年会のメンバーになって、こういったイベントにぜひ参加して、コミュニティーの一員でいてください。

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みなさん。街の一番の敵はアノニマス(匿名性)です。街の人たちがお互いのことを良く理解しないことには、決して良い街にはなりません。私たちは、こうやって「信頼できるコミュニティー」をつくって維持することが、泥棒を防ぎ、安全で心地よい街を作る一番の方法だと信じています」

このように、市はハード面よりもソフト面(住民)に対する絶え間ない努力を継続して、コミュニティーの信頼を構築することで、心地よい街づくりに徹底して取り組んでいる。

別の高級住宅街では、、、

一方で、このX市の取り組みとの対比で友人が比較していたのが、その近くのY市という別の街。Y市は有名な高級住宅街で、いわゆるセレブやサッカー選手など多くのお金持ちが住んでいる。

ドイツ人の友人
「Y市の家は宮殿のような大きな家が立ち並んでいて、一見すると良い街のように見える。でも、あの街こそ本当にアノニマスな地域。高い高い塀が家を守っていて、中に誰が住んでいるのかわからない。住民が外出するときは、電動で玄関の大きな門がウィーンって開いて、そこから大きなメルセデスがブォーンって出てくるような街。でもね。街を歩いても、全然人の姿が見えない。誰が住んでるのか全く分からない。そんな街に心地よい生活はない」

ということで、そのような高級住宅街のY市とは大きく違う方法で、よい街づくりに成功しているX市。この街の性質を表すには、友人の表現が一番的を得ていると思った。

ドイツ人の友人
「X市はいつまでも、居心地の良い『偉大な村』であってほしい」

※この写真はX市で冬に撮ったもの。川は自然のままの形が保たれていて、たくさんの街の人たちが小路を散歩している。周囲の家も塀が低く、庭や家の中がよく見通せる。建物もこの地域の伝統的なもの。

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by 世界の人に聞いてみた

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