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シチズンサイエンスって?市民の色んな関わり方を事例と併せましてご紹介。

センターのnoteが始まりましたという記事からだいぶ時間が経ってしまいました。その間、「もう少し具体的な事例も踏まえながらシチズンサイエンスについて知りたい」という声もいただきました。

ということで、今回はシチズンサイエンスにおける市民の関わり方について、具体的な例を示しながらお伝えしてみます。

シチズンサイエンスにおける市民の関わり方

シチズンサイエンスは以下のような定義がされています。

職業科学者ではない一般の市民によって行われる科学的活動を指し、学問体系における科学的規範に則った知識生産も包含する、より広範な科学的活動とされています。一定の目的・方法のもとに種々の事象を研究し、その成果としての体系的知識を増やす活動がシチズンサイエンスには含まれます。

(参考:日本学術会議若手アカデミー 「提言「シチズンサイエンスを推進する社会システムの構築を目指して」のポイント」)

市民が研究者と関わりながら行う研究なんだなというニュアンスは伝わりますでしょうか。

じゃあ関わるっていっても色んな関わり方があるんじゃないの?と思われた方がいらっしゃれば、それはとても良い視点です(もうシチズンサイエンティストの一歩目です)。

研究には「テーマや課題および仮説の設定」、「研究計画の策定」、「データの収集」、「データの分析と考察」、などなど、様々なプロセスがあります。このどこにどう市民に関わってもらうか、ですね。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのMuki Haklay氏はシチズンサイエンスには様々な関わり方のレベルがあると整理しました。

NIRA総研・ドイツ日本研究所(DIJ)・ドイツ 科学・イノベーション フォーラム 東京(DWIH東京) (2021)「デジタル時代におけるシチズン・サイエンス」NIRAオピニオンペーパーNo.58、より引用

課題やテーマの設定も市民からやる場合(もしくは研究者と市民でディスカッションする)もあれば、テーマ設定や研究計画などは研究者が行い、データを集めるところで市民に参加してもらうということもあります。

シチズンサイエンスの活動の多くは、市民ボランティアがデータ収集や分類に参加 する貢献型(contributory)が多数を占めますが、データ収集や分類、方法の改善やデータ分析、データ公開にまで市民が関与する協働型(collaborative)や、問題設定からデ ータ公開までの一連のプロセスに市民が関与する共創型 (co-created)にも様々なベネフィットを生む可能性はあります。(一方井(2021)ら

シチズンサイエンスは海外でも様々なプロジェクトがありますが、データ収集のところに市民が参加をするという形がよく見られます。いくつか国内で行われたシチズンサイエンスの事例を見てみましょう。

事例①:「花まるマルハナバチ国勢調査」

マルハナバチの分布調査は、市民が主にデータ収集に参加をした分かりやすい例です。ハチが日本のどこに生息しているかを、ひとりの研究者が追い続けることはなかなか大変ですよね。そこで、様々な地域に住む多くの市民に協力をしてもらい、マルハナバチを見つけたら携帯電話で写真を撮影してもらい、システムにメールで送ってもらう形でデータを集めていったのです。3000枚以上の写真が集められ、マルハナバチの分布や生態の調査に市民が大きな貢献を果たしました。

参考:academist journal「あなたの写真がマルハナバチを救う! – 市民参加型調査「花まるマルハナバチ国勢調査」」

事例②:「みんなで翻刻」

シチズンサイエンスはいわゆる理系的な領域だけではなく、人文学的な領域でも行われています。その例として「みんなで翻刻」を紹介します。
「みんなで翻刻」は、「多数の人々が協力して史料の翻刻に参加することで、歴史資料の解読を一挙に推し進めようというプロジェクト」です。

「翻刻」というのは、歴史資料に書かれた内容を読み解き、活用する際に、まず文字を現代の活字に直して、データとして扱いやすくしていく作業のことを言います。これもまた、ひとりの研究者(仮に5人だとしても!)が多くの文献の翻刻を行ったうえで、更に読み解いていくのはなかなか大変です。

このプロジェクトでは、オンラインで多くの人々が参加し、画像化された史料の文字を少しずつ手分けして翻刻していきます。2-3年はかかるだろうと思われていた分量も、5か月で完了してしまったそうです。「くずし字」と呼ばれる解読が難しい文字も、自動認識AIによって読みやすい形に変換されるなど、より多くの方が研究参加できる工夫がなされています。

データの収集や整理への貢献が大きいプロジェクトとして2つの例を紹介しましたが、市民自らがテーマを持って研究に参加するケースもあります。

事例③:「市民まちづくり研究員事業」

福岡アジア都市研究所が行っている事業で、「市民の方々に、自主的な立場での研究を通して、まちづくりへの認識を深め、また、交流の輪を広げることにより、まちづくりのリーダーとなっていただくことを目的」としています。

福岡市のまちづくりに関わる研究を行いたい市民の方が、こちらの事業に応募し、面接を経て合格した後に、市民研究員として活動していきます。月に1度程度の定例会で、自分が取り組みたい研究テーマや研究計画の発表、研究の進捗を発表し、9か月間の取り組みの後、研究発表とレポートの提出までを行います。定例会やそれ以外の時間でも、福岡アジア都市研究所の研究者の方々がそのサポートや指導に入っています。定例会では大学のゼミさながら、論理性やデータの妥当性、分析の仕方などなど、様々なコメントやアドバイスが飛び交い、ディスカッションがなされます。

市民自らテーマ設定をし、まちづくりに研究という形で参加する面白い例です。

また、市民からの問いから始まり、研究者がその問いに答える形で研究に発展していった例もあります。

事例④:「NHKシチズンラボ 犬の利き手調査」

NHKラジオ第1で放送をされた「子ども科学電話相談」で、「犬に右利き、左利きはありますか?」という質問が寄せられました。しかし専門家もこの素朴な疑問にうまく答えられず、NHKのシチズンサイエンスプラットフォームである「NHKシチズンラボ」を活用して研究が展開されていきました。

市民の疑問を発端に、研究者が研究計画を行い、そこにNHKというメディアがデータ収集のサポートを行い、多くの市民がデータを集め、さらにまた研究者が分析を行うことで、研究がなされた例です(気になる研究結果はコチラ!)。

これもまた興味深いですよね。シチズンサイエンスにおけるコラボレーションの形は、もちろん研究者起点や中心のものばかりではなく、まだまだ多くの可能性があるなと感じさせられる事例でした。

これ以外にもまだまだ事例はあります。そして多様な参加の仕方も。またそれらも紹介していきますね。

ではまた。

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