北海道の木の葉化石博士

札幌市で高校地学の教員をしながら,植物化石の研究者として活動していました・・・が,博物…

北海道の木の葉化石博士

札幌市で高校地学の教員をしながら,植物化石の研究者として活動していました・・・が,博物館の学芸員に転職しました!苦労しつつも2021年3月に古植物学の研究で論文博士を取得しました。植物化石研究を中心とした古生物学や地質学の楽しさ,地学教育について皆様にお伝えしたいと思います!

最近の記事

葉化石研究特有の面白さと難しさ

 しばらくぶりの更新になります.  高校教諭時代に博士号を取得し,そのまま研究を,でも悪くはなかったのですが,さらに研究活動を進め,より多くの市民の皆さんに化石研究や地学のおもしろさを伝えるべく,博物館の学芸員に転職しました.なかなか理想とは程遠い現実もあり,ペースを掴むまでなかなか更新もできずにきておりました・・・. さて,今回は葉化石を研究するにあたり,ちょっと他の化石を扱うこととは異なる面白さと難しさがあるのでご紹介します. まず,現代の樹木の葉を見るとすぐに気が付き

    • 木の葉化石11:ムカシウラジロノキSoubus palaeojaponica と「お知らせ」

       今回ご紹介するのは現代のバラ科ナナカマド属SornbusのウラジロノキSorbus japonicaに近縁のムカシウラジロノキSorbus palaeojaponicaです.一見すると,これまでご紹介したカバノキ科の葉にも似ている特徴を持っていますが,主脈から伸びる二次脈が葉先に向かうにつれ,左右で対にならなくなり(対生ではなく互生),左右それぞれで二次脈が平行に伸びていないこと,二次脈と二次脈の間の三次脈も並行ではないこと,などから区別できます。  現代のウラジロノキは葉

      • なぜ木の葉化石の研究をはじめたのか?

        今回は私がなぜ一見地味な植物の葉化石の研究をはじめたのかについて述べたいと思います.  私は小学校就学前に父に買い与えてもらった学研の図鑑「おおむかしの動物」を見て,古生物,特に恐竜に関心を持つようになりました.30年以上も前の図鑑ですので,今見返すと突っ込みどころが満載ではあるのですが,特に白亜紀の恐竜トリケラトプスのカッコよさにすっかりハマってしまいました.同じような経験は多くの人,特に男性には多いのではないかと思います(私の娘のように女の子でも関心を示す女性もいるの

        • この世で一番楽しい学問は「地学」である!

           ここ最近フォローしてくださる方が増えており,大変嬉しいです.少しでも植物化石の面白さが伝わればこの上なく感激です!  さて,今回はこれまでの記事とはかなり毛色が異なり,私の“副業”である高校地学の授業を通して感じる地学の魅力を述べたいと思います.せっかくの機会ですので,高校地学の問題点についても付記します.是非最後まで読んでいただければ幸いです. <地学の魅力>① 地学では,他の理科の分野(物理・化学・生物)に比べ,身近な自然についてミクロレベルからマクロレベルまで幅広く

        葉化石研究特有の面白さと難しさ

          木の葉化石10:ムカシチドリノキAcer subcarpinifolium

          しばらくぶりの記事の投稿になります。今回で紹介してきた木の葉化石がようやく10種類目になりますね。 早速ですが,次の画像の化石葉を見て,何の植物かお分かりになるでしょうか? 植物に詳しい方はカバノキの仲間では?と思ったのではないでしょうか。 植物に詳しくない方も,あぁ,その辺で見るような普通の植物の葉か?くらいに思われたことでしょう。 この化石葉は,現代のチドリノキAcer carpinifoliumによく似た樹木の化石で,およそ1300万年前の北日本を中心に分布したムカ

          木の葉化石10:ムカシチドリノキAcer subcarpinifolium

          木の葉化石9:サンズガワドロノキ Populus sanzugawaensis

          今回ご紹介するのは現代のドロノキPopulus maximowicziiに近縁のサンズガワドロノキPopulus sanzugawaensisです.1300万年前の新生代新第三紀中期中新世の後期の時代に相当する木の葉化石です. 本種の葉形態は,現代のドロノキとほとんど区別がつかず,現代の直系の祖先であろうと考えられます.学名の「Populus」はいわゆる「ポプラ」を示しています.和名の「ドロノキ」は,その木材が泥のように柔らかくて役に立たないから,とされていますが,現代のド

          木の葉化石9:サンズガワドロノキ Populus sanzugawaensis

          木の葉化石8:ウダイカンバ化石種Betula miomaximowicziana

           今回ご紹介するのは現代のウダイカンバによく似た化石種Betula miomaximowiczianaです.  本種は,以前ご紹介したムカシカンバと同じカバノキ科カバノキ属の化石です.やはりカバノキ科らしく,全体としては楕円形ないし広卵形の外形で,まっすぐ伸びた主脈とそこから対生で派生する二次脈がまっすぐ伸び,それが鋸歯に入ります.葉の縁の鋸歯は細くかつよく発達し,二次脈が伸びる鋸歯の両サイドにさらに小さな鋸歯が発達する「重鋸歯」をもっています.以上から確実にカバノキ科の植物

          木の葉化石8:ウダイカンバ化石種Betula miomaximowicziana

          木の葉化石7:スズカケノキ属様化石Ettingshausenia cuneifolia

          今回紹介するのはスズカケノキ属に似た白亜紀の絶滅属エッティングシャウセニアEttingshausenia cuneifoliaです。残念ながらこれまで紹介したものに比べると保存状態はお世辞にも良いとは言えませんが,私が初めて研究対象とした植物化石ですので,大変思い入れのある植物化石です。  現代のスズカケノキ(プラタナス)は街路樹として馴染みのある樹木です。名前を知らなくとも誰もが一度は目にしたことのある樹木だろうと思います。その多くはモミジバスズカケノキPlatanus×

          木の葉化石7:スズカケノキ属様化石Ettingshausenia cuneifolia

          木の葉化石6: Salix palaeofutura

          ヤナギ属の化石種Salix palaeofuturaを紹介します。 この化石は2021年9月現在,私が新種として報告した唯一の植物化石です。 Salix(ヤナギ属)は現在の北半球に広く分布しますが,日本ではヤナギと言えば,公園や街路樹に植栽されているシダレヤナギSalix babylonicaを指すことが多いようです。しかし,シダレヤナギは実は中国原産のヤナギで,現代の日本に自生している種ではネコヤナギSalix gracilistylaやオノエヤナギSalix udensi

          木の葉化石6: Salix palaeofutura

          木の葉化石5:ムカシカンバBetula protojaponica

          今回ご紹介するのはカバノキ科カバノキ属のムカシカンバBetula protojaponicaです.  ムカシカンバは現代の俗にいう白樺(“シラカバ”ではなく,正確にはシラカンバと呼ばれます)と高地に多いダケカンバに似た形の葉を持っています。全体としては楕円形ないし広卵形の外形をもっており,まっすぐ伸びた主脈とそこから対生で派生する二次脈がまっすぐ伸び,それが鋸歯に入ります。葉の縁の鋸歯はよく発達し,二次脈が伸びる鋸歯の両サイドにさらに小さな鋸歯が発達する「重鋸歯」をもっていま

          木の葉化石5:ムカシカンバBetula protojaponica

          木の葉化石4:メタセコイア(アケボノスギ)

          今回取り上げるのは「生きている化石」として有名な植物メタセコイアです。メタセコイアは針葉樹,すなわち裸子植物の球果類ヒノキ科(旧スギ科)の落葉針葉樹です。 恐竜が生息していた中生代白亜紀から現代までほぼ姿を変えずに今日に至っているという意味ではたしかに「生きている化石」です。「生きている化石」と呼ばれている生物には,他にもシーラカンス類やシャミセンガイ,ゴキブリなどがいますが,メタセコイアが他の生物以上に「生きている化石」と呼ばれるのにふさわしいエピソードがあります。 メ

          木の葉化石4:メタセコイア(アケボノスギ)

          木の葉化石3:ムカシカツラCercidiphyllum crenatum

          カツラの化石は日本国内でも比較的よく見つけられる木の葉化石の一つです。 現代のカツラCercodiphyllumjaponicumは街路樹として札幌市の都心部でさえも当たり前にみられる樹木ですが,それはもちろん街路樹用に植えられたもので,本来は北海道から九州の山地に生育し,谷筋のような多湿環境を好む落葉高木です。私はしばしば一般市民の方向けに野外観察講座の講師なども引き受け,現代の樹木と植物化石について説明することがありますが,「カツラ」と聞くと小学生は頭にかぶるものをイメー

          木の葉化石3:ムカシカツラCercidiphyllum crenatum

          木の葉化石2:アケボノイヌブナFagus palaeojaponica

          ブナの仲間アケボノイヌブナFagus palaeojaponicaの木の葉化石を紹介します。 「ブナ」という名前は,植物のことをあまり知らない人でも聞いたことくらいはあると思います。ユネスコ世界自然遺産の「白神山地のブナ林」は有名ですし,中学校でも「ブナやカエデの葉の化石は,涼しい気候がわかる示相化石」と学習しますし,さらに高校の生物基礎でも「ブナやカエデは夏緑樹林の代表的樹種」と学習しますね。 現在の日本にはブナ属FagusとしてブナFagus crenataとイヌブナ

          木の葉化石2:アケボノイヌブナFagus palaeojaponica

          木の葉化石1:イタヤカエデの仲間Acer rotundatum

          私が研究で扱っている木の葉化石を紹介しようと思います。 はじめにカエデの仲間Acer rotundatumを紹介します。 この化石は北海道北部に位置する士別市の湖南という場所に分布する美深層という名前の地層から採集したものです。化石そのものから古生物の生活していた年代を直接知ることは難しいですが,化石を含む地層やその上下の地層の中に含まれる火成岩や鉱物の放射年代測定により,今から1300万年前ころの時代を示す化石であることが調べられています。 1300万年前というと,北

          木の葉化石1:イタヤカエデの仲間Acer rotundatum

          木の葉化石の魅力

             植物の化石から地質時代の植物のことを理解するのが古植物学ですが,そもそも植物も化石になるのですか?と思う人もいらっしゃるのだと思います(高校生にもそういう生徒が一定数いてびっくりです).  植物も葉や材(木の幹や枝のこと),根,果実,種子,花弁(はなびら)などが立派に化石に残ります。保存状態の良い化石ですと,葉の葉脈(葉についている「筋」です。維管束の通り道ですね)が細部まで残されているものや,なんと細胞壁がそのまま残されているものまであります。 この美しい化石の画

          はじめまして:札幌から古植物学や地学の面白さを発信します!

          はじめまして。 植物化石や地層が好きすぎて,その面白さを伝えたいと思い,高校教員となり,自分でも研究を続け,働きながら博士号を取得したほどこの学問分野が好きな「北海道の木の葉化石博士」と申します。 一般に化石を研究対象とする学問分野を「古生物学」と呼びますが,多くの方が「化石」と聞いて連想するのは「恐竜」「三葉虫」「アンモナイト」「マンモス」など目立つ動物の化石でしょうか。少しでも知識のある人なら「サッポロカイギュウ」「デスモスチルス」「アノマロカリス」なども思い浮かべる

          はじめまして:札幌から古植物学や地学の面白さを発信します!