見出し画像

木の葉化石5:ムカシカンバBetula protojaponica

今回ご紹介するのはカバノキ科カバノキ属のムカシカンバBetula protojaponicaです.
 ムカシカンバは現代の俗にいう白樺(“シラカバ”ではなく,正確にはシラカンバと呼ばれます)と高地に多いダケカンバに似た形の葉を持っています。全体としては楕円形ないし広卵形の外形をもっており,まっすぐ伸びた主脈とそこから対生で派生する二次脈がまっすぐ伸び,それが鋸歯に入ります。葉の縁の鋸歯はよく発達し,二次脈が伸びる鋸歯の両サイドにさらに小さな鋸歯が発達する「重鋸歯」をもっています。このような特徴をもつ葉の化石は新第三紀以降の日本列島の植物化石群では頻繁に目にすることができ,少し慣れればこのような葉を見てすぐにカバノキ科の植物だ!とわかります。カバノキ科の化石は北半球の各地域で広く産出が確認され,葉の他に果実や花序の化石も伴うこともしばしばあります。カバノキ科は花粉化石も多量に検出され,新第三紀以降の北半球で,最も成功した樹木の一群であると考えられます。カバノキ科の各属・各種は現代でも温帯性落葉樹林の代表的な分類群であると見なされています。

画像1

 この画像のムカシカンバは北海道中央東部の糠平(ぬかびら源泉郷)で採集したものです。今からおよそ680万年前頃の新第三紀後期中新世の時代を示す十勝幌加層から多産します。この地層から産出する植物化石群を「十勝幌加植物群」と呼び,2018年に古生物学会で一度報告をさせていただいていますが,論文については鋭意執筆中です・・・(頑張ります)。さておき,ムカシカンバは現代のシラカンバやダケカンバに近縁な植物であると考えられます。現代のシラカンバやダケカンバは,代表的な陽樹(日向を好む樹木で,開けた土地で急速に生長しやすい樹木。しかし,日陰となる林床では生長しづらく,やがて日陰でも強い「陰樹」に取って代わられる運命にある樹木のことを言います)で,ムカシカンバも火山の影響を受けた地層中に多産することから,火山噴火によってかく乱された土地から植生が回復する際に他の樹木に先駆けて生長した陽樹なのだろうと考えられます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?