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木の葉化石8:ウダイカンバ化石種Betula miomaximowicziana

 今回ご紹介するのは現代のウダイカンバによく似た化石種Betula miomaximowiczianaです.
 本種は,以前ご紹介したムカシカンバと同じカバノキ科カバノキ属の化石です.やはりカバノキ科らしく,全体としては楕円形ないし広卵形の外形で,まっすぐ伸びた主脈とそこから対生で派生する二次脈がまっすぐ伸び,それが鋸歯に入ります.葉の縁の鋸歯は細くかつよく発達し,二次脈が伸びる鋸歯の両サイドにさらに小さな鋸歯が発達する「重鋸歯」をもっています.以上から確実にカバノキ科の植物であることがわかりますが,ムカシカンバと異なるのは,葉の面積が全体的に大きく,葉の基部(葉柄の近く)では葉柄のあたりが落ち込む「心形(心臓形)」で,ムカシカンバ以上に鋸歯が細くて,多数の鋸歯が見られる点です.ムカシカンバの鋸歯は現代のシラカンバやダケカンバに似て,鋸歯が少し大ぶりで三角形に近い場合が多いので,このあたりの形態から区別ができます.しかし,現代の植物の研究から,カバノキ科もしばしば雑種をつくることが知られていることもあり,本種にもムカシカンバにも似ている雑種的な化石葉もしばしば産出するので,区別が難しいこともあるのも事実です.
 ちなみに植物は1個体の同一の植物であっても,部位によって葉の形を変えることは普通にあり得ます.有名なのは1本の樹木の上部の葉は葉面積が小さく,肉厚なのに対し(陽葉),下部は葉面積が大きく,薄い葉身(陰葉)であることです.これは高校生物の教科書にも記載がありますが,樹木の下部では,上部よりも太陽光が当たりにくいため,少しでも下部の葉でも太陽光を受けて光合成を行うための適応と考えられます.他にも現代の若いヤマグワは,1本の樹木から形態の異なる複数の葉(大きく裂けている葉と“普通”に見える葉)が出ているのが素人でもわかるほどはっきりしています.このように現代の植物でも同一個体から形態の異なる葉が出ていることもあるため,1枚1枚の葉が分離して化石化する植物化石の場合は,その同定が困難を極めることもしばしばあります.だからこそいろいろと想像する余地があり,面白いとも言えますね.

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 この画像は今からおよそ680万年前ころの北海道中央東部,ぬかびら源泉郷付近に分布する地層から採集したものです(現在学術論文執筆中で詳細はお伝え出来ませんが・・・).この葉化石の形態は現代のウダイカンバとほとんど区別ができないほどです.ただし,現代のウダイカンバの方が,基部の葉身の面積が大きいものが多いようにも見受けられ,わずかに形態は異なります.現代のウダイカンバは,火山活動や台風などの嵐によって植生が破壊された後,速やかに芽生えが発芽して,ほとんどウダイカンバばかりの「純林」をつくることがあることが知られています(高校生物でいうところの「陽樹」に当たります).この画像の産地では,Betula miomaximowiczianaの葉化石が圧倒的多数産出していることや,付近の地層に火山性の堆積物とみられるものが多いことから,化石種の本種も,現代のウダイカンバと同様の「陽樹」で,純林に近いような植生をつくっていた可能性があります.先行研究でも示されていたものもありますが,ぬかびら源泉郷周辺では680万年前から100万年前ころにかけてはいつも本種が普遍的に存在していた可能性が高いです.そんなことを考えながら化石産地付近の地層を観察して化石を採集すると,ロマンがあり,ワクワクしてきます.

 ところでこれを投稿した10月17日の2日前にあたる10月15日は「化石の日」でした.2018年よりこの日が設けられましたが,日本古生物学会のシンボルであるいわゆる“異常巻き”アンモナイトのニッポニーテスNipponites mirabilisというアンモナイトが世に公表されたのが1904年の10月15日.そのため,それに因んで「化石の日」が制定されています.

化石の日


 私は先週の「地学基礎」の授業で「化石の日」の紹介をし,高校生たちに私の葉化石コレクションをいくつか提示しました.私の冗談や無茶ぶりにいつもは苦笑いする彼らの何人かは本物の美しい葉化石に感動してくれました.「きれいに残っていてまるでその辺の落ち葉みたい!」という素直な感想はとてもうれしいですね.もっともっと葉化石の魅力を伝えていきたいと感じられた日でした.

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