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木の葉化石9:サンズガワドロノキ Populus sanzugawaensis

今回ご紹介するのは現代のドロノキPopulus maximowicziiに近縁のサンズガワドロノキPopulus sanzugawaensisです.1300万年前の新生代新第三紀中期中新世の後期の時代に相当する木の葉化石です.


本種の葉形態は,現代のドロノキとほとんど区別がつかず,現代の直系の祖先であろうと考えられます.学名の「Populus」はいわゆる「ポプラ」を示しています.和名の「ドロノキ」は,その木材が泥のように柔らかくて役に立たないから,とされていますが,現代のドロノキの樹皮を見ると,木の幹にまるで泥を塗ったようにも見えます.かつて私が大学院生だったころに,研究室の先輩がドロノキを見てそのように述べ,確かに一理あると感じたことをよく覚えています.


ドロノキはヤナギ科ポプラ属の樹木で,ヤナギ科らしく,葉の葉脈の流れ方がやや不規則で,お世辞にも「キレイ」とはいいがたいものがあります.鋸歯は丸まっており,鋸歯に葉脈が入るのも明確で,丸まった鋸歯の先端には水を排出する「腺点」というものが見られます(画像で「黒く」見えるところです).葉の形は丸形に近いものや卵型に近いものもありますが,葉の先端は急に細くなって,突起が飛び出たようになるのが特徴です.

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種名の「sanzugawaensis」は和名(サンズガワドロノキ)のもとにもなっていますが,「三途川」とはやや仰々しい名前にも感じるかもしれません.この三途川というのは秋田県の三途川渓谷のことを指しています.この化石が最初に発見されたのが秋田県湯沢市に分布する700万年前頃の時代を示す三途川層という名前の地層だったため,そこからこの化石の名前が付けられました(私はまだまだ三途の川を渡るわけにはいきませんが).

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この画像の化石もしばしば登場する1300万年前ころの北海道北部士別市湖南から産出する「湖南植物群」に認められる種です.湖南植物群から産出する木の葉化石は,現代の植物と形の上ではほとんど区別のできない分類群が多いのですが,その多くの種の葉面積は現代の近似現生種よりも大きいです.Populus sanzugawaensisも例外ではなく,画像のように1枚の葉が20cmを超すものが当たり前に採集できます.


葉の面積については気温や降水量,土壌の状態など様々な環境要因に左右されるとされています.それらのうち,葉の面積は降水量に最も左右されているらしいことが指摘されており,降水量が多いと葉面積が大きく,降水量が小さいと葉面積が小さくなるとされています.「湖南植物群」に含まれる木の葉化石のいくつかが大きな葉面積を示していることは,「湖南植物群」が存在していた1300万年前の北海道北部は降水量が多かったことを示しています.なお,葉化石の面積を計測して集計し,計算することで過去の年間降水量を算出できることも知られており,その手法を用いて私と共同研究者により,1300万年前の北海道北部が1800㎜程度であるという計算結果が得られています.現在の札幌市付近は年間降水量が1200㎜程度なので,現在の札幌市よりは降水量が多くなっていることが推定されます.
この研究についての論文は以下にあります.ご興味があれば是非ご覧になってみてください.
http://www.palaeo-soc-japan.jp/publications/92%20Narita%20et%20al.pdf

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