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コントラスト①
燃えるような八月の暑さは夕方になっても衰えることはなかった。駅の近くにある少年の銅像の前で6時半に待ち合わせという話だったのに約束の時間を30分以上過ぎても彼女はやって来なかった。
またか、と思い誠はタオルで流れる汗を拭ってからぬるくなったスポーツドリンクの残りを一息に飲み干した。日も傾き始めて暗くなった空の端に星がうっすら瞬いているのが見える。
駅の周りは年に一度の夏祭りということもあってたくさんの人が行き交い賑わっていた。同じように待ち合わせをしている人もそこかしこにいて浴衣を身にまとった女の子が嬉しそうな顔で控えめに手を振っているのが見える。手をつないで駅を離れるカップルを眺めながら祭囃子の中に浮いているとポケット中の携帯が震えるのを感じた。
「ごめん遅れた、今どこ?」
言葉とは裏腹に調子のいい声と微かな息切れが聞こえて来る。彼女らしかった。
「まだ駅前の銅像のところで待ってるよ」
なるべく責めるような口調にならないように注意しながらそう伝えた。たくさんの提灯に灯りがともされて祭りの雰囲気も盛り上がりを見せて来ている。
「あーいたいた」
笑顔を浮かべて手を振りながら彼女は駆け寄って来る。会うまでは多少文句を言ってやろうと思って構えていたが、楽しそうな彼女の無邪気さにそんな気持ちも萎えてしまった。彼女の無邪気さには少しずるいところがある。
普段はTシャツにジーパンでシンプルな服装が多い彼女の浴衣姿と祭りの華やかさ合わさったところで今日の夏祭りは完成したような気がした。
散々熱気に当てられているのに綺麗にまとめられた髪と露わになった首のシルエットに改めて夏を感じるのは何故だろう。
「遅れてごめん。楽しみだったからついゆっくり歩いて来ちゃった」
「楽しみだったら普通早く来るもんなんじゃないの。やっぱ咲喜ってちょっと変わったところあるよね」
汗を拭きながらそう言う誠の言葉を咲喜は隣で不思議そうに聞いていた。生ぬるい風が咲喜の前髪を揺らしている。
「楽しみなことがあるとウキウキするでしょ。心が弾むあの感じを私は少しでも長く感じていたいの」
以前にも同じような理由で待たされたことが何度かあった。こんな感じで自分勝手ではあるけど咲喜と過ごしていく内にそれも少し慣れてしまったところもあって変に耐性がついて来ていた。
祭りの熱気をゆっくりとすり抜けるように伸びていく風が夏の匂いと共に咲喜の柔らかい匂いを漂わせてくる。夏は好きではないけどこういう瞬間は四季があって良かったなと思いこの暑さも少し許せるような気がした。
この祭りに二人で来るのはこれで四度目になるけどこの混雑の中で一度はぐれて以来この祭りに来ると毎回そのことを思い出してしまう。
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