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コントラスト11

 誠は電車を降りるとメールに記載されていた企業の連絡先の番号を確認してから電話をかけた。そして担当者と話をして一週間後に面談を行うことが決まった。自分と同じ境遇の学生の役に立てたならと考えて人材紹介系の企業を、希望する仕事のタイプに選択しておいた甲斐があった。

 着実に歩みを進め始めた今、誠が真っ直ぐ前を向くためには向かい合わなくてはいけない問題がある。誠が降りた駅はいつも降りる最寄りの駅の二つ前の駅だったが、誠はそこから歩いて帰宅することにした。握っていた携帯を一度ポケットにしまって駅前のベンチに腰掛ける。

 普段は買わないコーヒーを買ってから喫煙所でタバコを一本吸ったあと誠は咲喜の番号を押していた。鳴り続ける呼び出し音が答えを教えずいつまでも焦らしているみたいでもどかしかった。ただそれも5コールを過ぎた辺りからは段々と感じなくなっていって、10コールを過ぎた時点で誠は電話を切っていた。留守電にもならかったせいでメッセージを残すことも出来なかった。

 誠は一駅分歩いたところで再び改札を抜けて電車に乗って最寄駅へ向かった。電車を降りるとバスに乗って座席に腰を下ろした。走るのだって歩くのだって体力以上にそれを行う為の気力が必要だ。不安と期待がせめぎ合っていたからこそ、そこにエネルギーが生まれていた。その均衡を失った今の状態は動力源が壊れてしまったようなものだった。

 家に帰るとそのまま自室へ向かってベッドの上に仰向けになって寝転んだ。灯りはつけないままカーテンだけを閉めた部屋で天井をただ見つめていた。篭った熱気に息苦しさを感じ始めたところでエアコンの電源を入れて寝返りを打つ。その時背中の方で青白い光が浮かび上がるのを誠は視界の端で捉えていた。もう一度身体の向きを変えて見てみると、それは携帯の液晶の光だった。その画面に映ったメッセージの知らせには”咲喜”の名前が表示されていた。

 携帯をしかっりと掴み直してから誠はその表示をタップした。

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