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わが教訓のステンドグラス
ぼくが飯田橋にある大学に通っていた頃の話だ。
広義で必要な本でも探しに行ったのかどうだったか、同学年の女の子とふたりで、御茶ノ水の書店街を歩いていた。
御茶ノ水といえば、ということでニコライ堂の話題になり、教会というスピリチュアルな空間には、なにかいつも忘れている自分を思い出せるような雰囲気があって好きだ、みたいなことを彼女が言った。
彼女はキリスト教文化に強い憧れを抱いていて、確か数年後就職し
Fly Me To The Universe
小田急線の急行が停車する駅でのことだ。神奈川県の北の外れといってもいいロケーションに、こんな大きな駅が必要なのかとびっくりするくらい堂々とした、モダンな伽藍がそこにあった。側面のすべてがガラス張りになった8階建てのショッピングプラザがそびえ、上がレストラン、下がテラスになったカフェのテーブルはほとんどが埋まっていた。ペデストリアンデッキの一画で、ストリート・ミュージシャンが、場慣れしたピッキングで
もっとみる同窓会へ行かなかった人
佐古田はもう時間以上も稲毛の街をさまよっていた。
集合時間はとっくに過ぎている。どうせ同窓会だ、少し遅れたくらいで消えてしまうものではない。けれど、「呼ばれたから来たさ。でも本当は気乗りしないんです」というポーズを取ってみせたいがために遅れてくる屈折した幼児性タイプの人間には、どちらかというと共感を持てない佐古田だったから、遅刻は本意ではなかった。
しかし会場の『潮銘館』という店はいっこうに
ヘブンズヴィルの猫 (習作)
「ああやって、一日中外を眺めているんだ」
老いたマーキーと呼ばれている男が言った。視線の先には、通りに面した出窓の棚の上にうずくまった猫がいた。
濃い茶色の地に、黒い縞がさざ波のような柄を描いている。肩のあたりから尾の先まで、背中の側は模様入り、腹側は灰色っぽくくすんだ白い毛に覆われていた。
立って歩いているときは、その模様の配分が、まるでケープを掛けられ勝利を讃えられている競走馬ような具合で