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誰かが作った波に乗ればいい。フードシェアリングサービス「TABETE」代表が始めた“いつの間にか”課題解決できるムーブメント

長年飲食業界に携わり、フードロスを目の当たりにしてきた経験から、フードシェアリングサービス「TABETE」を立ち上げた川越一磨さん。

全国の飲食店で、まだおいしく安全に食べられるのにも関わらず、フードロスの危機に瀕している食べ物を“レスキュー”することのできる「TABETE」は、現在約68万人にダウンロードされ、今日もどこかでフードロスをくい止めています。

フードロスを減らすには、納得感のある消費が重要」だと語る川越さんですが、納得感のある消費ってどうすればできるの…!?

川越一磨(かわごえ・かずま)
株式会社コークッキング代表取締役 CEO。和食料理店での料理人修行、株式会社サッポロライオンで店舗運営の経験を経て、独立。山梨県富士吉田市に移住し、コミュニティカフェ「LITTLE ROBOT」の立ち上げなどを行なう。2015年に株式会社コークッキングを創業。料理を通じたチームビルディングワークショップやクリエイティブイベントを展開。2016年よりスローフードの活動に参画し、Slow Food Youth Network Tokyoの事務局長を経て代表に就任。現在は「フードロス問題」に挑戦するフードシェアリングサービス「TABETE」を運営する。

人を巻き込む“ムーブメント”が、いつの間にか課題を解決する

ーーフードシェアリングサービス「TABETE」を通じて、食品ロスの削減に取り組む川越さんですが、私たち一人ひとりが食品ロスを減らすためにできることはなんだと思いますか?

川越さん:
「納得感のある消費」をすることが大切だと思います。

どんな人でも1日1回は食事をするからこそ、そのときの自分の状況と価値観を照らし合わせて、「この食事がもっとも良い選択だ!」と納得できるものにすることが、課題解決の第一歩だと思います。

ただ、その納得感は人それぞれの価値観次第なんですよね。だから、自分の中で納得感を生むための軸を持つことが必要なんです。今はその軸すら持っていない人が多い。

軸を持たないと、どんな課題も自分ごと化されず継続できないので、課題解決自体のサステナビリティも失われてしまいます。

軸を作るためには、まずは自分の身近なテーマに注目してみてください。たとえば、知り合いに農家さんがいるなら、悲しい想いをさせないように野菜を残さず食べようとか、身近な問題との接点を見つけてみたり…と言っても、難しいですよねぇ。

ーー難しいです! 農家さんとの繋がりもないし、「良い選択だ!」って思えるほどの知識もないし…。

川越さん:
まず、覚えておいて欲しいのが100%正しくあろうとする必要はないということ。世の中には地球に100%いいことなんてないじゃないですか。

「TABETE」のサービスもフードロスを減らしてはいるけど、食べ物を受け渡すときのレジ袋やプラスチックのゴミは増やしてしまっているわけですよね。でも、そのゴミを減らすために働きかけるには、僕たちも体力が足りません。

いいことをしようとしても、何らかの形でトレードオフが起きてしまうものだから、自分のできる範囲で行動してみるのがいいと思います。0か100かで考えないで!

ーーそう言われると、ちょっとホッとするかも。

川越さん:
自分にできる範囲のことや身近な接点から考えはじめないと、フードロスは自分ごと化されませんよね。自分ごと化できないことは継続できず、単なるブームで終わってしまう。

フードロスを削減する取り組みが当たり前の世界を作るためには、人々を半強制的に巻き込めるようなムーブメントが必要なんですよ。「TABETE」はそんなムーブメントを作るためのサービスなんです。

たとえば、最初は「好きなお店を助けられるから」「売れ残った食品を安く買えるから」という理由で利用しても全然ウェルカムです!

ーーいいんですか!

川越さん:
アプリを使っているうちに、いつの間にかフードロスに興味を持って行動していた…というぐらい気軽じゃないと自分の正しさに対して妄信的になってしまうと思います。

これはフードロス以外の問題でもそうですが、何かを正しいと決めつけると、逆のことが間違っていることにされて、二項対立の構図が作られがちです

でも、100%正しいことすら存在していないのに、間違っていることを攻撃していては、社会を良くできるようなムーブメントは起きませんよね。

たしかに…。

川越さん:
環境課題に関心がなかったとしても、ムーブメントに巻き込むことさえできれば、自然と行動する人は増えます。

実際に「TABETE」のユーザーのアンケートを見ると、「TABETE」を使うようになってから、日常的に環境負荷について考えるようになったり、サスティナブルな商品を買うようになったなど、ユーザーの行動変容が見られたんです。

「TABETE」に限らず、本人の意識に関係なく“いつの間にか”行動が変わる機会をたくさん作れば、徐々に社会は良くなっていくんじゃないかと思います。

誰かが作った波に乗るだけでも、環境課題は解決できる

ーー“いつの間にか”環境課題に貢献できると思うと、行動のハードルが下がりますね。

川越さん:
“いつの間にか”というのは大事なポイントです。なぜなら、人間って「そっちの方向に行こうぜ!」と先導されると、行きたくなくなる生き物なんですよ。だから、いつの間にか巻き込むしかないんです。

たとえば、フリマアプリ「メルカリ」で行われているのは「リユース(再利用)」ですよね。

でも、ユーザーの多くは、自分たちがリユースしている意識はなく、いらないものが売れてお金がもらえたり、必要なものが安く買えて生活が便利になるから使っているだけ。

それなのに、サービスを通じて捨てられるはずだったものが再利用されることで、いつの間にかゴミの量は減って、環境負荷が軽減されている。そんなふうに、“いつの間にか”巻き込まれて行動しているのでもいいんじゃないですかね。

ーー今まで、環境課題を解決するには、自分から行動しなくてはいけないのだと思っていました…!

川越さん:
たしかに、自分で行動できたほうが課題解決のスピードは上がると思います。実際に、現在では小学校から環境に関する教育が行われるようになったことで、課題を解決しようと動くプレイヤーはどんどん増えてきています。

そんな熱意のある人々が、これから世の中を変えるようなムーブメントを起こす小さな種をどんどん蒔いて、社会は良くなっていくはずです。でも、全員が全員そんなムーブメントを起こせるわけではないですよね。

だから、そんな誰かが作ったムーブメントの波に乗る人がいてもいいと思うんですよ。何も意識しないで、いつの間にか環境に貢献できていたら嬉しいと思うから。

「フードロスを解決する=安く買える」のイメージを覆すために

ーー最後に、川越さんが「TABETE」を通じて、目指している未来を教えてください!

川越さん:

僕は今まで、50年後も100年後もおいしいものを食べ続けられる「持続可能な食の未来」を目指してきました。おいしいものを食べつづけるには、おいしいものを作る人がいなくならないことが、もっとも大切です

しかし、作る側の支援をするだけでなく、買う側の買い方もアップデートしなければ社会を変えることはできないと考えて「TABETE」を運営しています。

だからこそ、「TABETE」はリリース当初から「安売りサービス」にしないということを徹底してきたんです。あくまで、フードロスを削減するサービスであるということを表すために、アプリ内では「買う」という表記は一切せず、廃棄されそうな食品を「レスキューする」という表現をしています。

ーーたしかに、正直「フードロスを解決する=安く買える」というイメージはあるかもしれません…。

川越さん:

そう思うのはわかりますが、販売者側からすると、消費期限も販売期限も過ぎていない商品を安く売る理由はないんですよね。

でも、消費者からすると閉店間際なんだから割引してほしいと思ってしまう。そもそも、販売者と消費者の目線が合っていないんです。

日本は「安いものほどいい」という価値観が強すぎるから、販売者は仕方なく割引しているのが現状ですが、本来は「割引はできないんだけど、捨てるのはもったいないから買ってほしい」と言えることこそが健全だと思うんです。

だからこそ、我々は定価でも食品がレスキューされる世界を作ることを目指してきました。しかし、今はまだ割引されて当然という空気が社会全体に蔓延しています。

まずは「割引されなくても販売者が困っているから助ける」という世界に移行していくためのムーブメントを「TABETE」を通じて起こしていきたいですね。

また、消費者に食の作り手への敬意を持ってもらうことも重要です。そのためには、食のサプライチェーン(製品の原材料・部品の調達から消費までの全体の一連の流れ)の中でも、今見えていない部分を見える化しなければなりません。

都市部に住んでいる人にとって、食の作り手や産地はすごく遠い存在になっていますよね。よくスーパーで野菜の生産者の顔写真が飾られてますが、それだけでは消費者が作り手に思いを寄せることはできないと思うんです。

顔を見えるようにするだけではなく、サプライチェーン自体の見える化によって、食の作り手から日々受け取っているものを消費者に実感してもらうことができます。その結果として、より多くの人が食の作り手に対して敬意を持ち、思いを寄せられるようになると考えています

TABETEやサプライチェーンの見える化を通じて、消費者のリテラシーを少しずつ上げることも僕たちが目指していきたい未来です。

(取材・執筆=目次ほたる(@kosyo0821)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)/(撮影=深谷亮介(@nrmshr))

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